『『時をかける交差点 〜未来へ架かるオレンジの道〜』第3話:秋祭りの灯りと、止まった秒針
『時をかける交差点 〜未来へ架かるオレンジの道〜』
第3話:秋祭りの灯りと、止まった秒針
朝日くんと夕日ちゃんが、人間の子供の姿になって我が家にやってきてから、一週間の月日が流れた。
5歳の二人の男の子と女の子は、すっかり地上の生活がお気に入りになったみたいだった。
昼間はユウヒと一緒にリビングでおもちゃのブロックを組み立てて遊び、お腹が空けば「お腹の虫が鳴いた!」とはしゃぎ、夜になれば私の作ったお味噌汁をごくごくと美味しそうに飲み干す。
「アサヒお姉さんのご飯を食べると、胸の奥がぽかぽかして、レールのエネルギーがいっぱいになるんだ」と、朝日くんは毎日黄金色の髪を揺らしながら笑っていた。
時間の神様たちと過ごす、ありふれた、でも奇跡のように愛おしい【日常】の毎日。
そんなある週末の夕暮れ時。
アパートの窓の外から、遠くの方でドン、ドン……という小気味よい太鼓の音が響いてきた。
「あ! お母さん、今日はお祭りだよ! 神社のお祭り!」
ユウヒが窓にへばりつくようにして、オレンジ色のスカートを揺らしながら大はしゃぎした。
「お祭り……? なぁにそれ、楽しそう!」
朝日くんがパッと目を輝かせ、夕日ちゃんも私のエプロンの裾をきゅっと引っ張りながら「みんなでお出かけしたいな」とはにかんだ。
「ふふ、よし。それじゃあ、みんなで秋祭りに行こうか!」
私の言葉に、子供たち3人は「わーい!」と声を揃えて飛び跳ねた。
街の古い神社に到着すると、そこは見たこともないほどの色鮮やかな光の世界だった。
参道の両側には、たこ焼きやわたあめ、金魚すくいの露店がずらりと並び、赤やオレンジ色の温かい提灯の灯りが、夕闇に沈む境内を幻想的に照らし出している。
「うわあ……! 地上のお祭りって、ひかりの交差点よりもにぎやかで綺麗だね!」
朝日くんはわたあめを口いっぱいに頬張りながら、黄金色の瞳をきらきらと輝かせた。
夕日ちゃんも、ユウヒと仲良く手を繋ぎながら、露店の風車がくるくると回るのを嬉しそうに見つめている。
みんなで境内の奥にある、大きな御神木の前にやってきた。
樹齢何百年という巨大な木の隙間から、ちょうど、燃えるような紫色の美しい夕焼け空が広がっていく。
あの日、お母さんを亡くした後悔で時計を逆回転させた時と同じ空。
でも、今の私の隣には、ユウヒがいて、朝日くんと夕日ちゃんがいて、笑顔の今がある。
過去の悲しみは、確かにこの温かい未来へと繋がっていたのだ。
「お母さん、お祭り、すっごく楽しいね」
ユウヒが私の手を握りしめ、ニッコリと笑った、まさにその瞬間だった。
チ、チ、チ、チチチチチ……!!!
突如として、私のコートのポケット、そしてユウヒのポシェットの中で、あの形見の壊れた懐中時計が、弾け飛ぶかと思うほどの凄まじい音を立てて激しく鳴り響いた。
「え……っ!?」
驚いてポケットから懐中時計を取り出した瞬間、私の頭の芯が、冷たい恐怖でカチリと凍りついた。
文字盤の針が――右回りと左回りに同時に回り始めたのではない。
見たこともないほどに禍々しい「真っ黒なノイズの光」を放ちながら、針が完全にピタッと静止して、震えていたのだ。
「あ、あれ……? お姉さん、なんだか僕、体が急に重いよ……」
「私のお留守番のカバンが……また、真っ黒になっちゃう……!」
ハッとして見ると、さっきまで元気いっぱいだった朝日くんと夕日ちゃんの体が、まるでテレビの砂嵐のように、激しくノイズを立てて点滅し始めていた。
驚いて周囲を見回した私は、息の根が止まるかと思うほどの衝撃に襲われた。
風車を回していた夜の風が、ぴたりと止まっている。
露店から立ち上っていた焼きそばの煙が、空中で生き物のように固まっている。
そして、お祭りを楽しんでいた何百人もの人間たちが、笑顔のまま、歩いたポーズのまま、まるで彫刻のように一歩も動かなくなっていた。
風も、煙も、人の声も、すべてが完全に停止している。
「これ……って、世界の時間が……止まってる……!?」
『時間の迷子たちよ、警告はすでに発せられていたはずだ』
突如として、誰も動かない静寂の世界に、地鳴りのような重々しい【ひかりの交差点】の門番の声が、空の向こうから響き渡った。
『光の神々が地上へ降り、人間と時間を分かち合った代償として、世界の因果のネジが完全に破綻した。時空の歪みは、現実世界(地球)だけではない。ここから遥か遠く離れた、魔法と精霊の異世界――【エルドラド】をも巻き込み、二つの世界線が今、同時に崩壊しようとしている』
「そんな……異世界、エルドラド……!?」
門番の口から放たれた、聞いたこともない見知らぬ世界の名前。
しかし、その言葉が響いた瞬間、私の脳裏に、なぜか見たこともない「きらびやかなお城」や「魔法の剣」のビジョンが、強烈な頭痛とともにノイズのようにフラッシュバックした。
真っ黒に染まっていく懐中時計の文字盤。
消えかけていく朝日くんと夕日ちゃん。
そして、完全に時が止まってしまった秋祭りの世界。
お母さんから貰った大切な地球と、まだ見ぬもう一つの世界を救うため、31歳のアサヒと5歳のユウヒの前に、地球規模の、そして時空を超えた壮大なる【SFファンタジー】の嵐が、いま猛烈な勢いで吹き荒れようとしていた。
(第3話・おわり)




