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【完結】婚約破棄ですか? 愚かですね。  作者: 逆立ちハムスター


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「ルキウス殿下は今夜の婚約破棄と私への冤罪を着せたことで、有頂天になっているはずです。明日、彼が真っ先に取りかかるのは『クラウディア公爵家の財産差押え』と『近衛兵を使った私の本格的な移送(追放)』でしょう。ですが、財産は一銭も手に入らず、牢獄に入れたはずの私は姿を消している……彼がどのような反応を示すか、目に見えるようですわ」


私はふっと笑みを漏らした。それは、氷のように冷たく、けれど優雅な笑みだった。


「焦ったルキウス殿下は、必ずや強硬手段に出ます。他の貴族たちへさらなる重税を課し、あるいは言論を統制しようとするはず。それが、彼の命取りとなります」


「くくく……恐ろしいお嬢様だ。ルキウスの愚かさを完璧に計算に入れておられる」

マルクス侯爵は感嘆するように肩を揺らした。


――翌朝。


王宮は大混乱に陥っていた。その噂は、離宮に潜伏する私たちの元へも次々と飛び込んできた。


大広間での「婚約破棄」の申し渡しの後、ルキウス殿下は意気揚々とクラウディア公爵家の王都邸に差し押さえの使者を送ったという。


しかし、待ち受けていたのは、法律家に守られた厳重な鍵と、「すべての口座は凍結されており、法的根拠のない差し押さえには応じられない」という大商人組合からの冷酷な書状だった。


さらに、地下牢を確認しに行った殿下の側近たちは青ざめた。

「罪人アウレリア」が牢のどこにもいないのだ。

連行を担当した近衛兵たちに問いただそうとしたが、彼らは「アウレリアは途中で暴れて逃走した。現在捜索中である」と、示し合わせた通りの嘘を報告し、王宮内は大捜索という名のもとに大混乱に陥っていた。


手に入ると思っていた膨大な財産は一銀貨すら手に入らず、捕らえたはずの公爵令嬢には逃げられ、面目を丸つぶれにされたルキウス殿下。


「なぜだ! なぜあの女一人にこれほど煮え湯を飲まされねばならんのだ!!」


執務室でルキウス殿下が怒号を上げ、高価な壺や調度品を投げ荒らしている様子が、潜入している近衛兵を通じて逐一報告されてくる。


「アウレリア様、殿下は現在、公爵家の資産が得られない腹いせに、中小貴族からの『特別戦勝税』の徴収を強行しようとしております。これにより、日和見を決め込んでいた貴族たちの間でも、完全に殿下への離反意識が始まっております」


「……思った通りの愚かさね」


私は離宮の窓辺から、遠くに見える王宮の赤い屋根を見下ろした。

ルキウス殿下。貴方は「軟弱な女に公爵家は務まらん」と私を侮った。

ですが、権力に胡坐をかき、奪うことしか知らなかった貴方と違い、私は幼い頃から領地の経営を叩き込み、法を学び、人々の心の動きを観察してきたのです。


貴方が撒き散らした悪政の毒は、今や貴方自身の首を絞める縄となっているのですよ。


────


それから二日後。

ついに、運命の時が訪れた。


「アウレリア様! マルクス侯爵!」


離宮の扉が勢いよく開かれ、息を切らせた近衛兵が駆け込んできた。


「アウグストゥス陛下が……たった今、崩御されました!」


サロンに緊張が走る。ついに、国王陛下が亡くなられたのだ。悲しみに暮れる間もなく状況は刻一刻と変化した。


「そして……!」兵士は興奮を抑えきれない様子で叫んだ。「王都の北方の丘に、軍勢の影が確認されました! フラウロス騎士団の紋章、そして――ガイウス殿下の『蒼獅子』の軍旗です!!」


「ようやく来たか……!」

マルクス侯爵が勢いよく立ち上がった。


「ガイウス殿下率いる本隊八千、そして我が侯爵家の軍勢、さらにはアウレリア嬢の呼び寄せたクラウディア家北軍三千! 既に王都は完全に包囲されております!」


王宮の方角から、けたたましい警鐘の音が響き始めた。

陛下崩御の報せと、突如現れたガイウス殿下の軍勢。

自分が王位に就くはずだった最高の瞬間が、一瞬にして地獄の梯子へと変わったことを知ったルキウス殿下の悲鳴が、ここまで聞こえてくるかのようだった。


私はゆっくりと立ち上がり、紺色のドレスの裾を整えた。


「マルクス侯爵。私も参ります」

「君もかい?」

「ええ。私を『国賊』と呼び、父と兄の誉れを汚したあの男の顔を、最後に向かい合って見て差し上げねば気が済みませんもの。……それに」


私は胸元に触れた。そこには、ガイウス殿下からの手紙が大切に仕舞われている。


「私を救うために戻ってきてくださった、あのお方をお出迎えしなければなりませんから」


「では、参ろう」


私たちが離宮を出ると、王都の大きな城門が内側から静かに開かれていくのが見えた。

裏で手を回していた近衛兵たちが、門衛を拘束し、ガイウス殿下の軍勢のために道を開いたのだ。


長開された門の向こうから、一騎の馬が躍り出てくる。

漆黒の鎧を纏い、威風堂々たる佇まいで王都へと足を踏み入れる男――ガイウス殿下だ。


数年ぶりのそのお姿は、青年の面影を完全に脱ぎ捨て、数々の修羅場をくぐり抜けてきた真の指導者としての圧巻の威厳を纏っていた。


馬上のガイウス殿下と、私の視線が交差する。

殿下は私を見つけると、険しかった表情を劇的に和らげ、深く、愛おしそうな眼差しを向けられた。


「アウレリア……! 無事だったか!」


殿下は馬から跳び下りると、大刻みで私のもとへと駆け寄ってきた。周囲の貴族や兵士たちの視線も気にせず、彼は私を力強くその腕の中に抱きしめた。


「ガイウス様……っ」


首筋に触れる彼の温もりと、逞しい胸の鼓動。

三年間の孤独と、父と兄を失った深い傷が、彼の腕の中で急速に癒されていくのを感じた。


「遅くなってすまない、アウレリア。よくぞ耐えてくれた……君を二度と離さない」

「はい……お帰りなさいませ、私のガイウス様」


ひとときの再会を噛み締めた後、ガイウス殿下はゆっくりと私を放し、私の手を固く握りしめた。その群青色の瞳には、王宮に向けられた冷徹な怒りが宿っていた。


「さあ、行こうアウレリア。我が兄ルキウスに、彼の犯した大罪のツケを払わせる時だ」


「はい、殿下」


王都の民衆が何事かと見守る中、私たちはガイウス殿下の精鋭と反ルキウス派の貴族たちを引き連れ、王宮の大門を堂々と破って進軍を開始した。


愚かな王子の、惨めな終わりの始まりだった。

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