第36話 もう1人の勇者のお話
俺はマリナと2人で魔王討伐の旅に出た
マリナの聖女の力でチャインお婆さんが人間に戻ったランにはもう旅に出る理由などなく、ハーデス村で穏やかに過ごしたいに決まっている
俺のことを慕ってくれていたから、ランは俺のことが好きなんじゃないのかと錯覚していた
チャイナお婆さんよりも俺を選んで旅に出るわけないことなんてわかっていたじゃないか
ランが好きな気持ちも離れていればいつかは薄れていくだろうと
マリナは俺を選んでくれたのだから気持ちに応えられるように今後努力すればマリナと結ばれて幸せになれると
そう自分に言い聞かせて俺はマリナと2人で旅に出た
レアジーニャ城へ向かう途中に下級魔物に襲われた
「鍵よ!力を!!」
俺はそう唱えたが、いつものように鍵は剣へ変貌しなかった
「!?」
「クーデル危ない!」
マリナが聖女の力で魔物を浄化し、元の猪の姿に戻った
「大丈夫?」
俺は驚いて尻餅をついてしまっていた
マリナが俺に手を差し出して起こそうとしてくれている
かっこ悪い
「ありがとう…」
「さっき何をしようとしてたの?」
「鍵を変貌させて戦っていたんだ。光魔法も付与されて強い剣だったから…」
「使えなくなってるの?」
「そうみたいだ…」
考えればわかることだ
この鍵が変貌する剣はチャイナお婆さんがランを守る為に作ったもの
ランを守る為にしか力は発揮出来ないようだ
「…ごめん。迷惑かけてしまった。」
「そんなことない!ほら!私が浄化してすぐにやっつけられたし何も心配いらないよ!」
「そうだな。助けてくれてありがとう。マリナ。」
「えへへ。嬉しいな。クーデルの役に立つことが出来て!ランとクーデルが魔王討伐の旅に出る時は何も力もなかったからついていけなくて…凄く悔しかったんだからね。」
「そうだったのか。」
「でもでも!今はクーデルを独り占め出来て幸せ…のんちゃって!アハハ!!」
照れているのマリナは笑って誤魔化していた
その姿を見て少し心が軽くなり俺も微笑んだ
レアジーニャ街で装備を揃えて魔王討伐の旅へと俺達は向かった
「はぁ…はぁ…」
鍵の剣を使えなくなった俺は弱かった
A級モンスターを倒すことも必死でやっと倒せる程度だ
こんな状態でドラゴンなんて絶対に倒せないし、魔王討伐なんて夢のまた夢だ
マリナの浄化魔法は下級魔物には効くようだが、A級モンスターには力がまだ足りないのか効かなかった
ダンジョンに入り、A級モンスターを相手にして修行していくしかなかった
「ごめんね。私がもっと強かったらA級モンスターも浄化出来るのに…」
「チャイナお婆さんは浄化出来たのにどうしてだろうな。」
「チャイナお婆さんは魔物に完全になる前にランが氷漬けにして封印していたからたぶん浄化出来たんだと思う。」
「そうか。じゃあランの日々の修行の成果はあったんだな。」
「わ…私だって今はまだ弱いけど!A級モンスターも魔王も浄化出来るぐらい強くなるんだから!」
「うん。一緒に頑張ろうな。マリナ。」
「でもモンスターを倒すだけで本当に強くなれるのかな?聖女なんて千年に一度の奇跡らしいから鍛え方とかわからない…」
「ギルドで情報収集もした方がいいね。誰か知っているかもしれない。」
「うん!」
マリナは世界唯一の聖女だから、どの街でも好待遇で歓迎してくれた
俺とマリナが魔王を討伐すると世界中の人達は信じ切っているようだった
実際の俺達はA級モンスターを倒すだけでも精一杯の実力でしかないのに
正義は勝つと信じている
聖女と勇者がいれば安全だと
平和ボケしている
そんなわけないのに
勇者マルクの英雄譚のように
世界が平和になりハッピーエンドになると信じ切っている
俺達にそんな実力なんてないのに
どうすれば強くなれるかもよくわからないまま
俺達はダンジョンに入り魔物討伐を繰り返した
あまり強くなってないことにも気づいていながら
他にどうすればいいかもわからず
ただただ闇雲に戦い続けた
リービル国へ国境へ越える移動をしている途中に宿がなく、野宿することになった
小さな洞窟へ入り俺達が眠っていると
襲撃遭った
無防備に2人で寝ている間に俺達の手足は拘束されて荷車に積められた
荷車に放り投げられた時の衝撃で目を覚ましてやっと襲撃遭ったことを自覚した
「いって…」
「クーデル!大丈夫!?」
隣にいたマリナも手足を拘束されていた
「大丈夫…早くここから逃げないと…」
「隙を見て逃げよう!」
そうは言ったものの襲撃者達は隙を見せるわけもなく俺達は水は辛うじて与えられたが、食料も与えられないまま1週間が過ぎた
襲撃者の話を聞く限り、奴隷商人のようだ
捉えられた人々は俺達だけではなく、たくさんいた
ここに捉えられた人々は奴隷として売られるようだ
俺とマリナは魔物相手にはそこそこ強いが
人間相手には弱い
カイトやランがいればこんな奴らすぐに一網打尽に出来るんだろうけどな…
俺もマリナも消耗してこのまま死ぬかもしれないと覚悟していた
意識も朦朧として目を閉じてなるべく体力を使わないようにして荷車に運ばれ揺られていると
「ぐっ…ガハッ…」
と声がして人が倒れていた
「…?」
ぼーっと倒れた人を眺めていると
「おーい!ラン!!」
と聞き慣れた声がした
死ぬ間際の幻聴?
それにしてははっきりと
カイトの声がする
ラン?
ランがいる…?
消耗し過ぎて声を出すことも手を挙げることすらできなくなっていた俺は何も出来ずにいた
何が起こっているんだろう…
しばらくすると
「おーい!助かったぞ!」
と声をかけられて拘束されていた手足も解放されて水と食料を貰った
久しぶりの食料に涙を流して感謝して食べた
「親切な魔物のラン様が俺たちを助けてくださったんだ!」
とその男は言った
俺はそいつの胸ぐらを掴み言う
「魔物のラン…?お前は見たのか?」
「ちょっと!何すんだよ!」
体力が消耗している俺はすぐに払い除けられた
「本当に決まってるだろ?嘘つく理由なんてない。」
「お前は会ったのか?魔物ラン様に。」
「当たり前だろ?」
「どんな子だった?」
「えっと…黒髪でこう腰ぐらいまで髪が長いストレート髪でツノと翼と尻尾が生えていたな。悪魔みたいな。」
「悪魔のようなツノと翼と尻尾…?」
「でもでも!すっごく可愛かったですよ!美少女でした!クールビューティーって言うんですかね!?」
「カイトという男はいたか?」
「男はいたけど、名前は教えてくれなかったよ。」
「金髪の体がゴツくて鼻が高い…」
「そうそう!そんな男だったよ!」
おそらくカイトで間違いない
じゃあ本当にカイトとランが助けてくれたんだ
どうして2人が旅に出ている?
2人で魔王討伐の旅を?
ランは…どうして魔物になった?
「なぁ。一度ハーデス村に戻らないか?」
と俺はマリナに言う
「え!?ここまで来るのに3ヶ月以上かかったのよ?今から引き返したら魔王討伐なんて何年かかるか…」
「このままの実力で戦っても魔王討伐出来ないよ。ドラゴンも勝てないのに魔王なんて討伐出来るわけがない。」
「だからって…帰ってどうするの?」
「カイトとランが何故旅に出たか確認する。」
「そんなことどうでもいいじゃない!私達ほ魔王を倒す為に…」
「俺は魔王を倒す為に戦ったことなんて一度もないよ。」
「え…」
「俺は…ランを守る為にしか戦ったことはない。」
ランが好きな気持ちは薄れるどころが日に日に増していくだけだった
カイトとランが2人で旅をしていると知って俺は烈火と如く激しく嫉妬している
どうして?
チャイナお婆さんと穏やかに過ごすことが何よりも望んでいたはずなのに?
俺ではなく
カイトと旅をしているんだ?
ランが幸せに暮らせる世界を作る為だと魔王討伐しようと俺なりに努力してきたが
そんなことはどうでもよくなった
ランが旅に出るなら
相方は俺ではなければいけない
絶対に
それだけは譲れない
譲りたくない
「ごめん。マリナ。俺…やっぱりランを守る為にしか戦えない。」
魔王とか正直どうでもいい
ランと旅をしたい
カイトにランは渡さない




