第23話 空の彼方へ
なんとなく居心地が悪い
気持ちが揺ら揺らと揺れる
この街で男だけを虐殺したランが崇められているこの状況に
居心地の悪さを感じてしまう
ランを英雄のように誰もが扱うこの雰囲気に
気持ち悪さを感じている
ランがこの街を救ったのは事実であり
殺された男達は想像を絶するような悪人であることは安易に予想出来る
だからランがやったことを否定するわけではないけれど
ランの全部を肯定する狂信者達のこの街の人々に気持ち悪さを感じている
ランが言うことは全て正しく
ランが忌み嫌うものは全て正しくないもの
思考の放棄
ランの為なら命も差し出すこの街の雰囲気に
俺は気持ちの悪さを感じてしまっているのだ
早くこの街から出たい
同調圧力に飲まれて
俺も思考放棄する狂信者にされてしまいそうになるから
気持ちの悪い雰囲気が嫌で、俺は夜中に街にある噴水に気分展開しに来た
全員が寝静まったこの時間なら気持ち野悪い雰囲気に飲まれたストレスを解消されるような気がしたから
誰もいない場所で
ひっそりと1人で過ごすだけで
心の安寧を取り戻せるような気がしたから
噴水の水の水面をなんとなく触りながら自分の気持ちを落ち着かせる
冷たくて気持ちがいい
泳いだり出来たらもっと気が晴れるのかもしれないな
「夜中に抜け出して何してるの?ミラン。」
と背後から声を掛けてきたのはランだった
「眠れないから気分展開しに来ただけだよ。」
ランは俺の隣に座り、俺と同じように噴水の水面を触る
「冷たくて気持ちいいね。」
「うん。ランはどうしてここに?」
「眠れなくて。ふと外を見たらミランがいたから来ちゃった。」
「俺はこの街の雰囲気苦手だ。ランは当事者だからさらに居心地が悪いのかな。」
「あー…そうね。それもある。でも私が眠れないのはこの街で男達を虐殺したからよ。綺麗に復興してきているとはいえフラッシュバックするの。私を化け物のように見つめて恐怖に満ちた瞳で死んでいったこの街の男達をね。」
そうか
ランはやりたくもない虐殺をやることにしたんだ
この街の女子供を救う為に
自分が虐殺したという罪を背負うのは
俺の想像を絶する
なんて言葉をかけたらいいのかわからずに俺は隣にいるランの手をぎゅっと握ることしか出来なかった
ランは少し微笑んで
「後悔はしていない。でもカイトならもっと上手にこの街を救えたと思う。私は未熟だから力で制圧して全てを滅することしか出来なかった。この街の女性を虐げる文化が気持ち悪すぎてやった。人に褒められる人間じゃない。軽蔑されて当然の人間だ。…魔族だけど。ミランだって私のこと軽蔑したでしょう?」
「そんなことない!確かにランのやったことは最低だと思う。でも…嫌いになったりしないよ。今でもランが大好きだ。」
「趣味悪いね。」
「俺はそう思わない。ランはみんなから好かれる魅力的な女の子だよ。」
「この街の女性達はみんな私のこと好きだしね。」
「一緒にするなよ!」
「アハハ!あんまり変わんないと思うけど?」
「全然違う!!俺はランの不器用なところも性格が悪い所もお人よしで優しい所がある所も好きなんだ!ランの全てを肯定するこの街の女性達と同じにしないでくれよ!」
「うーん…大して変わらなくない?」
「全然違う!!」
俺達が笑いながら談笑していると
噴水広場に1人の女性がやってきた
「ゆるさない…」
女性はそう呟くといきなりランに飛びかかった
「え!?な…何!?」
俺は驚いてたじろぐことしか出来なかった
「お前が…!!お前が私の愛するワイドを殺したんだ!!この街のみんながお前を讃えても!!私だけは絶対にお前を許さない!!ワイドだけは優しくて私を愛してくれる大事な人だったのに…!!殺してやる…殺してやる!!!」
そう言って女性は小刀を胸元から取り出してランに突きつけた
「いいわよ。殺しても。」
とランは答える
「は…?」
と女性が言う
「純血魔族だから死ぬとか意味不明な死に方をするのは嫌だけど。貴方に殺されるなら正当な理由で死ねるからいいわよ。私は復讐されるだけのことをした。貴方を殺されるなら本望よ。」
とランが淡々と答える
女性は逆上して突きつけた小刀をランに突き刺そうとした
この瞬間が全てスローモーションのように見えた
どうする?
どうすればいい?
この女性を止めないとランが刺されてしまう
俺は魔族だから止めることは容易だ
でも…俺は力の加減が出来ない
俺がこの女性を止めたらこの女性は死んでしまう
でも…ランをどうしても失いたくない
この女を…殺しても…
俺はそう決意して女性を魔法で吹き飛ばそうとした瞬間
上からカイトが降ってきた
「よっと。」
カイトは小刀を持った女性の手の上に着地して小刀を地面に落とさせた
女性は手を痛めてカイトとランを睨みつける
「許さない…許せない許せない許せない!!!私は!愛する人をお前にに殺されたのに!!お前は男に守られてのうのうと生きてるなんて!!絶対に許さない…!!」
「ふーん。じゃあ俺と決闘しようぜ。命懸けの。負けたら死ねよな。」
とカイトが言う
「は…?何言ってんの?決闘なんかするわけないじゃん。私が負けるに決まってる勝負に乗るわけないでしょう?」
「じゃあお前はどうやったら納得出来んの?」
「ランを殺したら納得するわよ。」
「それは無理な願いだ。」
「虐殺した犯罪者を庇うなよ。」
「でもこの街ではランは英雄だぞ。批判しているのはお前しかない。お前が死ねばランを批判するやつは誰もいない。ハッピーエンドだ。そう思わないか?」
「ハハッ…邪魔者は私だけってこと?私が悪者なの?大事な人を殺されて?意味わかんない。くだらない。こんな世界生きてる価値ない。殺してよ。死んだらワイドに会えるかもしれないしね。」
「死んでもワイドには会えないぞ。」
「うるさい!さっさと殺しなさいよ!!気持ち悪いのよ!!大事な人が殺されて泣くことも出来ないこの世界が!!早く殺せよ!!」
「そんなこと言うなよ。ワイドよりもいい男なんて星の数ほどいるぜ?」
「どうでもいいわよ!そんなこと!!早く殺してよ!!もう疲れたの…しんどい…ランを殺さないなら私を殺して!!」
カイトは女性を掴んで
ものすごい勢いで豪速球を投げるかのように空に向かって投げ飛ばした
「それ!」
「きゃああああああああああああああああ!!!」
女性は空の彼方に消えていった…
「えっと…大丈夫なのか?あの女性は…」
と俺がカイトに聞く
「知らね。運がよかったらどこかで生き残るだろ。」
「どこに投げたの?」
「できるだけ遠くに投げた。他の街の男と出会って楽しく生きれたらラッキーだし、死んだら残念だったということで。」
「命をそんな適当にするなよ…」
「死にたがってるやつに情状酌量の余地を与えてやったんだ。優しいぐらいだろう?別にあいつが幸せになろうが不幸になろうが誰も気に留めたりしない。ひとりひとりに心に寄り添って解決してやるほど俺は器のでかい男じゃない。」
薄々は感じていたけれど…カイトってサイコパスだよな…
「寝る時間に問題起こすんじゃねーよ。ラン。大人しく寝とけ。」
「虐殺した記憶がフラッシュバックして寝れないのよ。」
「はぁ?そんなか弱い女じゃねーだろうがよぉ。一晩寝たら忘れるから大丈夫!大丈夫!いいから早く寝ろ!!」
と言ってランを宿へと無理矢理連れて行く
「カイトって最低でしょう?」
とランが俺に小声でカイトに聞こえないように話す
「まぁ…そうだね。」
「カイトって最低なんだけど…その楽観的な性格にいつも救われてるんだよね。私の悩みなんて結構どうでもいいことなのかもしれないと思わせてくれるの。」
「なるほど。」
「人間は自分より下を見てると安心するって言うじゃない?」
「下に見てるんだ…」
「おい!聞こえてるぞ!くだらねぇこと言ってないでさっさと寝ろ!!」
とカイトに言われて俺達は宿に戻りベッドで眠りについた
まさか投げ飛ばして解決するなんて…
カイトは凄いのか最低なのか…
でもカイトが来なければ確実に俺はあの女性を殺していただろうから
俺もカイトに救われたのだ
カイトを少しだけ感謝して
カイトを少しだけ軽蔑して
俺は眠りについた




