第16話 茨の道
ランとミランが時計屋を復興して1週間が経った
2人は時計屋の2階で同居をして仲睦まじい恋人としてナーチス村でも評判だ
魔物は危険な存在ではないと証明する大きな一歩としてこのラブロマンス作戦は大成功しているといえる
俺はレアジーニャ街で依頼されている魔物討伐クエストをしてお金を稼ぎつつ、ナーチス村の宿に滞在している
魔物の被害がナーチス村まで耳に入ると魔物に対して上がった好感度が台無しになるからな
ナーチス村の近くの凶暴な魔物は全て倒しつつ、お金を稼ぎ、理想的な生活をしてきている
1人の女の子の苦情を毎日聞くことを除けば
「ねぇ!いつまでこの茶番を続けさせるの?」
マーブルは毎日毎日俺の部屋までやってきて苦情を言ってくる
「2人が望むならいつまでもやらせるつもりだけど。」
「はぁ?所詮は恋愛ごっこでしょう?偽りの愛なんて続かないわよ。」
「本物の恋に発展するかもしれないだろう?」
「ありえないわ。早くランを連れてこの村から出て行って。」
「ミランがランに盗られそうだからって怒るなよ。」
「別にそんなんじゃないわよ。」
「2人が偽りでも新婚夫婦のようだと評判なことが気に入らないだけのくせに。」
「私はね。ミランが可哀想だから言ってるのよ。」
「ミランが?あんなに幸せそうなのに?可哀想なのはマーブルだけだろう?」
「うるさい!そう思ってるなら早く出ていけよ!」
「マーブルの失恋だけでこの計画をやめるわけないだろう?」
「カイトって道徳心とかないの?私が毎晩泣いて悲しんでいても何とも思わないの?」
「元々ミランに意地悪して嫌われていたくせに一丁前に嫉妬とか独占欲とか出してきて都合良すぎだろう。マーブルが振られるのは自業自得だし同情の余地がないね。」
「ちょっと素直になれない乙女心だったのよ!!」
「知らねーよ。ミランが可哀想だ。ミランは諦めて次は素直になれる恋愛をするんだな。」
「こんな茶番の恋愛ごっこをしてるだけなのに諦めてたまるか。」
「しぶといな。」
「この気持ちだけは誰にも負けないし、誰にもミランを譲るつもりはない。」
「もう無理だって諦めろよ。どう見たってミランはランが好きだろう?マーブルは失恋したんだ。」
「ミランはランが好きだけど、ランはミランが好きじゃないでしょう?ミランは失恋するんだからまだ諦めるのは早いわ。」
「そんなのわからないだろう?ランだってミランのことをだいぶ気に入っているようだし。」
「気に入ってるだけでしょう?恋愛じゃないわ。ランはもっと露骨に好きな相手にはメロメロだったもの。」
「それってクーデルのこと?」
「そうよ。勇者様〜♡とか言って好き好きオーラが凄かったわよ。」
「へー。そうだったんだ。」
「同じ村出身なんでしょう?何で知らないのよ。」
「ランは村では一匹狼だったからな。同じ学校に通っていても挨拶ぐらいしかしなかったよ。」
「クーデルとも?」
「そうだ。」
「ふーん…クーデルは幼馴染の女に盗られてランは振られたんでしょう?好きな男とイチャイチャしているところなんて見たくなかっただろうね。だから一匹狼になるしかなかったのよ。」
「そうかなー?ただ単に1人が好きそうだけど。」
「まぁどうでもいいわよ。ランのことなんて。ミランの初恋を恋愛ごっこで掻き乱すのはやめろって言ってんの。」
「失恋で傷心のランが徐々にミランを好きになる可能性があるだろう?今は恋愛ごっこだけれど、2人が本当の恋人同士になればいいと俺は思っているよ。」
「それで本当の恋人同士にならなかったらどうなるの?ミランの気持ちが大きくなって失恋した時に大きく傷つくだけじゃないの?傷が浅いうちにやめさせるべきよ。」
「マーブルはミランを好きになって後悔したことあるか?」
「ないわよ。あるわけない。」
「それはミランも同じだよ。ランを好きになってよかったんだ。両思いになるチャンスがあるんだから頑張らせてあげてもいいだろう?」
「うるさい!早く出ていけ!!」
そう言ってマーブルは大きく扉を閉めて出て行ってしまった
諦めの悪い女だな
絶対ミランがマーブルを好きになることなんてないのに
俺も…マリナにとってはマーブルのように諦めの悪いしつこい男だと思われていたのかな
うわ…気持ちが落ちてきた…
俺ってマーブルと同レベル…?
いやいや…俺は振られたら潔く諦めたし…
俺の方がマシ
俺の方がマシ
マリナに振り向いて貰おうと必死だった自分がフラッシュバックする
辛い…
こんな気持ちにさせるなよ…
失恋の痛みはまだまだ癒えないな
俺は時計屋に向かって2人に会いに行く
「いらっしゃいませ〜。あ!カイトさん!お久しぶりです!」
とミランが迎えてくれた
ランは今はいないようだ
「やあ。ミラン。順調そうだね。」
「まさか俺が修復の魔法を使えるようになっていたなんてね…。時計屋だけど、色んな物を修理しているんだ。お客様の大事な物を修理して喜ばれるのは楽しいよ。」
「よかったな。山で1人で暮らすよりも楽しいだろう?」
「そうだね…。1人も気楽で楽しかったけれど、師匠とこの時計屋をやっていた頃に戻ったみたいだ。人を笑顔にさせることを生き甲斐にしていた師匠の意思を受け継いでいるようで嬉しいよ。」
「ランとも仲良くやっていけてるようで何よりだ。」
「ランは時計屋の仕事はほとんどやることがないからと言って家の仕事をいつもしてくれているよ。ランはお婆さんと2人暮らしをしていたから家事は得意なんだって。特にランの手料理は美味しくて…毎日いい思いをさせて貰ってるよ。」
「このまま本当の恋人になるか?」
「ええ!?俺なんかがランには釣り合わないよ…」
「そう。じゃあそろそろランは返して貰おうかな。」
「え…」
「どうした?釣り合わないからランは必要ないんだろう?」
「いや…その…俺にはもったいないとは思っているよ…今の生活が夢のようで…」
「で?ミランはどうしたいんだ?」
「俺は…ずっとランとこの時計屋で一緒に暮らしたい。」
「じゃあランに言ってみれば?」
「言ったよ。」
「言ったのか!?」
意外と行動派だ
草食系の顔をしているくせに
「“私は魔王をが倒されたら死ぬの。こんな時計屋でくたばってたまるか”って言われてしまったよ。」
「あぁ〜…まぁ今は生きるか死ぬかのデリケートな時期だから振られたわけじゃないんだし…」
「いや…振られたんだよ。俺は。死ぬ時も一緒にいたいと思って貰える価値が俺にはなかったということだ。」
「うーん…死にたくないだけだと思うけど…」
「どっちにしろランはここでずっと暮らすことは嫌なんだ。俺はランの意思を尊重するよ。俺の我儘で引き止めることはない。俺もランには生きて欲しいからね。」
ランがミランと恋をしてここに留まると言えば、魔王を説得して人間と共存をさせようとする計画は俺1人でもいいと思っていたけれど…
まぁまだ1週間しか経っていないし、ランの意思も聞いてから判断するか
ガチャリと扉が開いて
「ただいま〜。」
とランが帰ってきた
「カイト。久しぶりね。私のことなんてほったらかしてどっかに逃げたかと思ったわよ。」
「何言ってるんだ。俺はランを生かす為に日々命懸けで戦っているのに。」
「それならいいのよ。」
「でもここでの暮らしも悪くなさそうじゃないか。」
「そうね。ミランが働き者で頑張ってくれてるし、悪くわないわよ。」
「ずっとここで暮らすか?」
「嫌よ。私は生き残る為に戦って死にたい。こんなところで平和ボケして死んでいきたくない。」
「フッ。ランらしいな。」
最後まで足掻いて自分の力で生きる為に抗いたいのだろう
幸せな余生を過ごすならチャイナお婆さんの家から出て行かない
俺達は茨の道を歩いて魔王を生かす未来を手にしなければいけないのだから




