第23話 手合わせ
ランは朝起こすと不機嫌になり、怒るので
今日は起こさずに待ってみようと思い、ランが自ら起きるのを待ってみたが…
もう10時になっても起きてこない
さすがに起こした方がいいかと悩んでウロウロいると
ぱちっとランが目を覚ましムクリと上半身を起き上がらせた
「お…おはようラン…」
緊張して話しかける
ランは寝起きが悪くていつも怒っているからだ
「うー…よく寝た。おはよう勇者様。」
びっくり
ランが機嫌良く起きている姿を初めてみた
「もう10時だからね。」
「いつも通りか。」
「いつも通り!?」
「学校ない時はいつも10時に起きていたわよ。」
「えぇ…どうしてそんなに寝れるの?一緒に22時には寝てるはずなのに。」
「内緒。」
内緒?
なにか秘密があるのか?
「朝ごはんどうするの?」
「朝ごはんはいらないや。お昼ご飯だけ食べる。」
「えぇ!?ちゃんと3食食べないと健康に悪いよ。」
「だって今食べてもお昼ご飯食べれないじゃない。」
「もっと早く起きないとダメなんじゃないかな。」
「1食食べないだけで死ぬわけないじゃん。睡眠の方が大事なの。」
「睡眠も食事も大事だと思うけど。」
「うるさい!ババアよりうるさい!!誰でも勇者様のような聖人君主のような生き方をしてると思うなよ!」
「別に普通だけど…」
「だーかーらー!夜の22時に寝て!朝の6時に毎日起きる生活は心の清らかな人種しか出来ないの!!」
「みんなやってるよ…普通だよ…」
「あのね!普通のことを毎日やってるの人間なんて勇者様ぐらいだからね!?」
「大半の人はやってると思うけど…」
ランは俺の普通の生活を清く正しく生活している人間なんて本当は全然いないと言う
俺達は田舎のハーデス村の価値観しかわからないから
俺達の価値観は世間よりズレがあるとは思うけれど
俺の生活はやっぱり普通だと思う
お父さんもお母さんもそうだったし
ランは朝ごはんを食べずにシャワーを浴びてくると言って浴室へと行ってしまった
年頃の女の子がシャワーを浴びていると思うとドキドキしてしまう
ランは気にならないのかな…
同じボディソープを使っているはずなのに
何でランはいい香りがするのだろうか
女の子って不思議だ
ランのシャワーが終わり、魔法使いのローブに着替えたので俺達は一緒にランチに行くことにした
「ここのレストランのランチメニューがいいらしいわよ。」
「どうしてそんなことを知っているの?」
「えっと…風の噂で?」
「ふーん?」
どこかで盗み聞きでもしたのかな?
俺達はランが勧めたレストランに入りランチを食べた
サラダもパンもスープも魚料理も美味しかったし、値段もお手頃だった
大人気店というわけではなく、隠れた名店野ような店だった
俺達は大満足でレストランを出て周りに人がいない海辺の近くへと向かった
「こんなところに来て何をするの?」
「今日はランの修行じゃなくて、俺の修行に付き合ってもらうよ。」
「勇者様の?」
「そうだ。俺と戦うんだよ。」
「ええええ!そんなの無理だよ!」
「どうして?」
「ごめんだけど相手にならないと思うよ?手加減するしかないよ。本気で戦ったら勇者様が死んじゃうよ。」
「手加減して戦ってくれていい。よろしく頼む。」
「まぁ勇者様がそういうなら。赤子を捻るように相手してあげる。」
ランは大鎌を持ち、俺をまっすぐに見据える
目があっただけでわかる
格の違い
絶対に勝てないであろう相手だと
「鍵よ!力を!!」
俺は鍵の剣を取り出して構える
ランに向かって一直線で走り、鍵の剣を振ると
ランは氷魔法で壁を作りガードをした
そして氷の壁に鍵の剣がカキンと跳ね返った瞬間
鍵の剣は元の鍵へと戻ってしまった
「あれ?鍵の剣なんで元に戻ったの?」
「やっぱりな。」
俺は鍵の剣のことを知る為にランと戦ってみたが予想通りだった
「どういうこと?」
「この鍵の剣はおそらくランを守ることに特化して作られているんだ。だからランを攻撃しようとすれば元の鍵へと戻ってしまう。」
「私のおばあちゃんが作ったから?」
「そうだ。この鍵の剣の使用者はランを守ることと、チャイナお婆さんを殺すことを目的としている。だから魔物相手にはとてつもない力を発揮することが出来るんだ。逆に言うと人間相手にはおそらく力は機能しない。ランは人間相手なら誰にも敵わないほどの実力者だ。人間を切る必要性はないからな。」
「それっておばあちゃんは私が魔物を切れないことを知っていたってこと?」
「おそらく。」
「心が清らかじゃないから?」
「魔物を切れる人間の基準は曖昧だ。レアジーニャ城の水晶は魔物を切れる才能を見極める道具であることは確かだけどね。」
「なるほど。なるほど。じゃあ鍵の剣じゃない方でかかってきて。」
「え?いや…俺はこの鍵の剣の機能を知る為に戦っただけで…」
「人間相手にも強くなる修行をするのでしょう?ほら、人類最強の私が手合わせするのだから。かかってきなさいよ。」
ランは意気揚々と煽るように俺を刺激する
俺はハーデス村で使用していた剣を握る
「では、お手合わせお願いします。ラン。」
「殺すつもりできなさい。絶対に死なないから。」
俺は全力で駆け寄りランを斬ろうとするが
土から生えた蔦に捕まり身動きが取れなくなる
「残念でした♡」
とランは俺に言う
「くっ」
蔦を剣で切り裂くが何回切り裂いても無限に生えてくる
捕まらないように切ることで必死だ
「ダメダメそんなのじゃ勝てないよ?もっと必殺技とかないの?」
「剣術にそんなものはない!」
「えぇー。つまんない。じゃあ今日作ろうよ。」
「魔法使いのような威力がないかわりに、俺達に剣士にも強みはあるんだよ。」
「へぇ。」
小物を嘲笑うかのようにランは俺を見る
敵にすると本当におそろしい人物だ
俺は持っていた剣を捨てた
「!?」
ランがあっけにとられている隙を見て素早くランの近くまで入り込む
俺はランのお腹に軽く肘打ちをしてランを倒した
ランは地面に仰向けになり目を見開く
「俺達剣士は素早さが売りなんだよ。大きな魔法を使用される前に相手の懐に入り込んで倒す。カイトが俺につきっきりで教えてくれたからね。」
ランも強いけれど、俺はずっとずっと最強の剣士であるカイトと手合わせをして修行をしていたんだ
今日みたいにランが舐めた態度で手合わせをしてくれるなら勝てる
…本気にされたら無理だろうけど
ランは仰向けになったまま動かない
「大丈夫か?どこか打ちどころが悪かったか?」
「かっこいい…」
「え?」
「やっぱり私の勇者様が1番かっこいい!すごーい!強い!!まさか負けるなんて!!勇者様強い!!」
「ランに本気を出されたらすぐに負けちゃうよ。」
「そんなことないって!あんな風に素早く懐に入られたら魔法使いも魔法が使えなくなるから難しいのよ。自分に攻撃が当たるからね。」
「カイトに教えてもらったことだよ。今日はたまたま上手くいっただけ。」
「私の勇者様は謙遜ばかりね。強くてかっこよくて惚れ直しちゃったのに。」
「本当?」
「うん!本当にかっこよかった!」
「ありがとう…」
ランに褒められて浮かれてしまう
カイトには負けっぱなしだったけれど
カイトに教わって剣術続けてよかった
ドラゴンを討伐した時よりも
ランにかっこいい強いと言われる方が
何倍も嬉しいものだな




