第14話 気弱な魔物
村に到着すると、村の人々は集まって出迎えた。
ずっと暑かった熱気がなくなり、ドラゴンの討伐に成功したことがわかっているのだろう。
俺は勇者を抱えて村のみんなの前にランと一緒に村へ入る。
「ま、魔物!!うわああああああ!!勇者様が魔物に倒されてる!!」
「村長さん落ち着いて下さい。勇者様は気絶して寝ているだけです。」
「ミランは…魔物ですよね?討伐して下さいよ!」
ほら、やっぱり。
これが正しい反応だ。
魔物と普通に会話してたランがおかしかっただけ…。
「あぁ…。ミランは私の洗脳魔法で操ってるんです。私は勇者様を運べなかったので。ミランが人を襲うことはしませんよ。私の操り人形ですから。」
ランは息を吐くように平気で嘘をつくな…。
さすがスライム一匹も倒せない非道な人間だ。
「ほ、本当ですか?ミランは安全なのですか?」
「はい。私の言いなりですよ。ミラン。鶏のモノマネして。」
「クルックー!!クルックー!!!」
俺は全力で鶏になりきる。
今、俺に自我があると思われる方が面倒だからだ。
急に洗脳魔法とか意味がわからない設定を使われて、鶏のモノマネをやらされて…。
後で覚えておけよ。ラン。
「ほら。従順でしょう?似てないのは本人の性能が悪いからすみませんね。」
好き勝手言いやがって。
マーブルより性格悪いぞこいつ。
「次はゴリラのモノマネでもやらせましょうか?」
こいつ本当に性格悪い!!
最低すぎる!!死ね!!
「い、いや…。自我がないのですね…。魔物なので警戒してしまって…。」
「これからも使えそうなんで勝手に殺さないで下さいね。」
「魔物まで操ってしまうなんて…凄い魔法使いだったのですね。ランさん。」
「ドラゴン討伐しちゃう天才ですからー!」
「本当に…本当に!!ありがとうございます。勇者様が目覚めたら改めてお礼をさせて下さい。」
村長はランの手を強く握り、涙を流しながらお礼を言う。
「ちょっ…私こう言うの慣れてないから…勇者様起きてからにしてよね。」
「ミラン…。」
そう言って近づいてきたのはマーブルだった。
「あ!まな板女!!ブラは購入した?」
ランの空気の読めなさは才能だな。
マーブルが俺に近づいて感動の再会をするところだったのに。
「あんた…。ミランは自我がないの?」
「うーん?ちょっとはあるかも?」
「私達を襲うってこと!?」
「違う違う!そうじゃなくて…声の届くぐらいの意識はあるって感じかな?」
さっき考えた適当な設定だから…。
設定がガバガバすぎる。
でも…ランなりの優しさなんだろう。
「そう…。ミラン聞こえてる?ドラゴンから私を守ってくれてありがとう。私は…ずっとミランのこと弱虫とかビビりって言ってたけど…。ドラゴンから守ってくれて私は助かった。酷いことたくさん言った。本当に…ごめんなさい。」
「あ!今ちょっと魔法弱まったかも!」
「え?」
「今なら少しだけ話せるようになるかも〜。」
だから…設定ガバガバすぎんだろ…。
「マーブル。俺こそ叩いちゃってごめん。顔に傷が残らなくてよかった。大事な時計も…直せなくて壊しちゃったね。俺は本当に臆病でビビりだったから気にしてないよ。俺のことは気にせず、忘れてくれ。」
「ミラン…。やだよ…。人間に戻れないの?」
「ごめん。マーブル。俺はもうランのものなんだ。」
「こんな性格悪いやつに操られて!大丈夫なの!?」
「意外といい人なんだよ。ランは。」
「もう…人間に戻れないの?」
「ごめんね。」
「勇者様が魔王を倒したら元に戻るわよ!」
「それって本当?」
「本当よ!」
「早く倒してよね!ミランが困ってるじゃない!」
「ハァ?ミランは困ってないわよ!あんたにこき使われてた人間の時より今の方が気楽でいいって言ってたわよ!」
「ハァ!?なんですって!!ミラン!!!」
「あ、あ…。」
「ちょっと!話しなさいよ!人間の時の方が不幸だって言うの!?この私が仲良くしてあげてたのに!?」
「えー?もしもーし?ミランくーん?もう少し話してくれるかなー?」
めんどくせぇ。
言いたいことは言えたしもういいや。
自我がないフリしとこう。
「自我が逃げ出したみたい。これ以上は話してくれないかも。」
「自我が逃げ出すって何!?」
「難しい魔法だから。」
「ドラゴンを倒した魔法使いのくせに!使えないわね!」
「ハァーーーー!?ドラゴンを倒したんだからそこに跪づいてありがとうございますラン様と頭を垂れるべきじゃないの!?村長を見習え!泣いて喜んでたわよ!!」
「だって!ミランとちょっとしか話せないんだもの!!もうちょっとなんとかしなさいよ!!」
「これは私のせいじゃないもん!」
「あんたの魔法でしょうが!!」
「ほ、本人の自我の問題もあるの!!話したくない話題は出てこないのよ!」
「ハァ?そんな適当なの?洗脳魔法って」
「精神系の魔法は謎が多いのよ!」
「怪しすぎない?本当に大丈夫なの?この魔法。」
「私は大魔法いチャイナの弟子なのよ!!侮辱行為は許さないわ!!」
いや、そもそも洗脳魔法なんてかけてないだろうが…。
「もうちょっと本人を揺さぶる質問をしないと。」
余計なことを言うな。ラン。
ドラゴン討伐の時にあんな高度な氷魔法を何度も使っていたのに疲れてないのか?
どっちかといえば、倒れそうなのはランの方だと思ったぐらいだ。
遊んでないで早く宿に帰って寝ろよ。
「私のこと嫌いだった?人間に戻りたくない?」
「…嫌いじゃなかったよ。人間には戻りたくないけれど。」
「どうして?」
「今の生活の方が気に入ってるから。」
「楽しいの?」
「楽しくはないけれど…。辛いこともないから。」
「そう…なんだ。私は…待ってるから。ミランが人間に戻るの。ずっと。待ってるから。」
「忘れてくれよ。」
「嫌よ。私に指図するなんて100年早いわよ。」
「忘れてあげたら?あんたより可愛くて胸のでかい私の方が好きなんだって。」
バシンとマーブルはランの頭を叩いた。
「いったーーーーい!それが村を救った英雄に対する態度なの!?」
「胸がデカいだけの痴女が調子に乗りやがって!」
「ハァ?事実を言っただけですー!」
「本当に性格悪い!最低!!」
「散々ミランの悪口言ってたくせにいい風にまとめようとしててムカつくのよ!ミランは忘れてくれた方が幸せだって言ってんのにさぁ。」
「嫌よ!絶対忘れてやるもんか!ミランは私のものなんだから!」
「うわっ。だから嫌われるのよ。」
「うるさい!あんただって勇者様に嫌われるくせに!!」
「ハァ??勇者様は私のこと毎日可愛いね。好きだよって言ってくれてますー。」
「あんたの勇者趣味悪い…。」
「嫉妬してるだけじゃない!愛されない女は惨めね!」
「うるさい!黙れ!性悪女!!」
「ラン…。もう宿に戻ろうよ…。」
「わかったわよ…。私も流石に疲れたし…。勇者様も早くベッドに連れて行かないと。」
「え?ミランも同じ部屋で寝るの?」
「そうだけど?」
そうなの!?
「と、年頃の男女は一緒に寝たらダメなのよ!」
「なんで?」
「なんでって…とにかくミランとは別部屋にしなさい!」
「そうは言っても私が管理してないと村のみんなは不安じゃない?」
「ま、まぁ…。」
「大丈夫よ。私がちゃんと見てるから。」
「……。」
そう言ってランは宿に俺と勇者と同じ部屋に入った。勇者をベットに寝かせて一息つく。
「ハァ〜疲れた。やっと休める。」
「俺は山で寝るからいいよ。」
「え?なんで?ここで寝たらいいじゃん。」
「いやいやいや。ベット2つしかねぇし。」
「私と勇者様は一緒に寝るから1つ使っていいわよ。」
「は?一緒のベットで寝てるのか?」
「そうよ。」
こいつ…羞恥心ってもんがないのか!?
堂々と一緒のベットで寝てるとか言いやがってしかもその2人が抱き合ってるベットの隣で寝ろと言ってんのか?正気か?
「そう言う趣味はないので…。」
「そう言う趣味って何よ!まだミランとは話したいことがあるんだからここで寝なさい!」
「俺にはもうない!」
「逃がさないから!一緒に寝ようよ!!」
目の前に鍵の剣が現れて俺の首元を斬ろうとする。
勇者が起きたのだ。
「おい…。何をやっている。」
「何も!俺は何もしていない!本当だ!!」
「勇者様!目が覚めてよかった!」
「ラン!大丈夫か?こいつに何かされたのか?」
「一緒に寝ようって言ってるのに逃げようとするから捕まえてたところなの!」
「やめろ!話がややこしくなる!!」
「一緒に寝るほど仲良くなったのか?」
「うん。まだまだ一緒にいたいのに。」
「おい!そんなんじゃない!!」
「そう…。ランが人に懐くのは珍しいのに、凄いねミランは。あぁ魔物だから仲良くなったのかな?」
「仲良くなんかなってない!」
「酷いこと言うなぁ。じゃあ私は今日はミランと一緒のベットに寝ようか?仲良くなれるかもよ?」
「ひっ!や、やめろ!!俺はここで死にたくない!」
「そんなに寝相悪くないわよ…。」
「そう言う問題じゃない!!」
「へぇ…一緒に寝るほど仲良く…ねぇ?俺もミランと仲良くなりたいな。ねぇミラン今日は俺と一緒のベットで寝ようよ。」
「いや、俺は…。」
「な?いいだろう?」
「ひゃい…。」
圧が凄い…。
ヘタレの俺が断れるわけもなかった。
その日は勇者と何故か一緒のベットで寝ることになった…。
ランがシャワーを浴びて髪を乾かし、ベットに入り眠る。
ランの寝巻きはネグリジェと呼ばれるものなんじゃないのか?
十四歳のくせに発育も良くてえっちな格好して寝るなんて…童貞の俺には刺激が強すぎるよ。
この二人は恋人同士で、毎晩イチャイチャして寝てドラゴンも倒すんだから…どんだけ勝ち組なんだよ。
俺とは一生関わることがない上位カーストの人間なんだろうな。
スースーとランの寝息の声が聞こえてドキドキしてしまう。
時々、目を開けてランの姿を確認する。
か、可愛い…。
寝てる姿はめちゃくちゃ可愛いのに何故あんなに性格が悪いんだ!
「おい。何故寝ない?何故ランを見ている?」
「ひゃい!ご、ごめんなさい!!すぐに寝ます!!」
「どうしてランを見ていた?」
「あ、あの…可愛かったのでつい…。申し訳ございませんでした…。」
「ミランはランが好きなの?」
「え!?いや、可愛いとは思いますけど!そんな勇者様とランとの恋仲を引き裂こうなんて…。」
「俺達は恋人じゃないよ。」
「え…。そうなんですか?じゃあ勇者様の片思い?」
「違うよ…。俺は違う女の子が好きなんだ。」
「えぇ…?」
違う女の子が好きで、ランと毎日ベッドで寝てるってこと?
童貞の俺には理解しきれない。
かっこいい勇者様は誰でも抱けるってことか…。
俺の女に手を出すなと言わんばかりのオーラを発してるくせにランは遊びの女なんかよ。
ラン可哀想だな…。
「ランは知ってるんですか?他に好きな子がいるってこと。」
「知ってるよ。」
「そ…そうなんですね…。」
ダメだ。
意味がわからない。
関係が謎すぎる。
思考を放棄しよう。
関わってもろくなことがない。
「すみません…。じゃあ寝ますね。」




