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第十話:村の門の先に

 

朝の光に照らされた畑を抜けて、土の道をしばらく歩くと、

いくつかの低い石垣と素朴な木の柵が見えてきた。


その先に、トレント村があった。


広くはないが、よく整えられた土地だった。

干された布や薪の束が並び、牛の鳴き声が遠くから聞こえる。


子どもたちが笑いながら駆けていくのを見て、少しだけ胸が温かくなる。


「案外……静かなんですね」


「普段はね。神殿の目も届かないから、村の中じゃ自由に暮らせる」


ライルの声は淡々としていたが、微かに安堵が滲んでいた。


村の入り口までたどり着いたところで、

一人の少女が駆け寄ってきた。


腕には小さな包み。

まだ幼いその顔に、驚きと喜びが浮かんでいる。


「お兄ちゃん! 本当に帰ってきたの! あの時の人だよね……?」


ライルが一瞬、面食らったような顔をする。


「ああ、お前……あのときの……無事だったんだな」


少女はこくこくと頷いた。


「おじいちゃんが、あのままあなたが来なかったら、

恩返しもできないって言ってたの。ほんとうにありがとう!」


その声は、少し大きくて、村のあちこちから人の視線が集まりはじめた。


ライルがちらと私を見て、小声で言う。


「……マシロ。しばらくの間、“あの話”はしないほうがいい」


「“あの話”?」


「君が誰なのか、どこから来たのか、祈りの契約のことも、全部。

ここは神殿の支配が薄いとはいえ、村の誰がどこまで忠誠心を持ってるか分からない」


 私はゆっくりと頷いた。


「……わかりました」


少女の手に導かれるようにして、私たちは村の中心へと向かった。


途中、何人かの村人が顔を出し、ライルに向けて軽く手を振る者、

じっとこちらを見つめる者と、反応はさまざまだった。


「この村には神殿の祠があるって言ってたよね?」


「ある。ただし、村の者も滅多に近づかない。林の奥にある古い祠だ。

伝承じゃ、昔、聖女がここを訪れて祈ったとか、なんとか」


「……祈っただけ、ですか?」


「そう言われてる。いつのことかも、記録なんて残ってない。

ただ、子どもがふざけて近づくと、妙な夢を見るって話はある」


すると案内をしていた少女が振り向いた。


「祠に近づくとね!光を見たり、声とか気配を感じるのよ!」


 その言葉に、私は思わず足を止めた。


「光……」


私はその言葉の端々に、

ただの迷信ではない何かが潜んでいる気がしてならなかった。


小さな家に案内されると、そこには少女の家族が待っていて、

傷ついたライルの姿を見て、驚きながらも、温かく迎え入れてくれた。


「大したもてなしはできませんが、休んでいってください。

娘を助けていただいた恩は……私たち一生、忘れません」


母親と思しき女性の言葉に、ライルは軽く頭を下げた。


「ありがたい。ただ、少しの間、身を隠すことができればそれで十分です」


そのやり取りを見ながら、

胸の奥に小さな違和感を抱えていた。


——“遠い昔に祈った”という、その場所。


祈ることを拒んだ私が、そこに引き寄せられている。

それは偶然なのか。


それとも、記されぬ何かが、私を導いているのか。



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