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第十一話:小さな命との出会い


村に着いて二日目の朝。

小雨が降ったあとの空気はひんやりと湿っていて、

森の土の匂いが静かに鼻をくすぐった。


ライルはまだ傷が痛むようで、今日は屋内で休んでいた。

村の子供たちは朝から畑に出ていて、大人たちもそれぞれの仕事に向かっていた。


私はひとり、村の北側にある林の奥へと足を運んでいた。


昨日、村の少女が話してくれた言葉が耳に残っていたのだ。


『祠に近づくとね!光を見たり、声とか気配を感じるのよ!』


単なる子供の空想。そう思うべきなのかもしれない。

けれど、“記録されていない祈り”がそこにあるのだとしたら——。


林の奥へ進むと、空気が次第に重たく、静かになっていく。

鳥のさえずりすら遠ざかり、風の音だけが木々の隙間を抜けていった。


やがて、開けた小さな草地に出た。

そこに、祠はあった。


灰色の石で作られた、ごく簡素な祠だった。

だが、風化した表面には、古い文様らしき彫り跡が残っており、

中央には、小さな供物台が据えられている。


私は跪いて、その場に手をついた。


何かを祈るつもりはなかった。

ただ、触れてみたかった。


——そのとき。


目の奥に、かすかな光が走った。


空気が震えた気がした。


視界の端に、小さな白いものが揺れる。


風に吹かれた落ち葉かと思った。


それは地面の上でくるりと回転し、小さな足音とともに私の前へ現れた。


小さな狐のような姿。白銀の毛並み、大きな耳、丸い瞳。


まるでぬいぐるみのように可愛らしいその生き物は、私の目をじっと見上げていた。



「……あなた、どこから……?」


もちろん返事はない。

だが、その視線には、明確な意志が宿っているように感じられた。


私はそっと手を差し出した。



小さな鼻先が、私の指先に触れる。静かに、一度だけ頷いたようにも見えた。



その瞬間——

胸の奥に、ぬるりとした温かさが広がった。

まるで、何かが私の中に入り込んだような感覚。


私はその子を、腕に抱き上げた。


驚くほど軽い。

そして、ぬくもりは確かに、ここにあった。



「……名前、つけていいのかな」



大きな耳が、ぴくりと動く。



「……フィオ。なんとなく、そんな気がするの」



その子は何も言わなかったが、

逃げる気配もなく、膝の上で丸くなって身を預けてきた。



祠の風が止み、静けさが戻る。


私は、ただその白い毛並みに触れながら、ゆっくりと目を閉じた。


 * * *


「マシロ、どこにいってたんだ……って、なにそれ」


昼過ぎ。私が村の少女の家に戻ると、回復し始めたライルが軒先に立っていた。


そして、私の腕の中の白い生き物を見た瞬間、彼の目が鋭く細くなる。


「どこで見つけた?」


「祠の前で。ずっと眠ってたみたいで……

目を覚ましたら、私のところに来たの」


ライルは数歩近づいて、その小さな存在をじっと見つめる。


「マシロ、それ魔物だぞ」


「え……?」


「形は小さいが、これは魔法生物だ。」


私は思わず、腕の中のフィオを見下ろす。


けれど、フィオは逃げるでもなく、私の袖に顔をうずめて丸くなっていた。


「でも、こんなにおとなしいし、私を怖がらなかった。」


ライルはしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。


「……なら、信じるしかないね。

その子が自ら近づいたってことは……君の“何か”が呼んだんだ」


私は頷き、そっとフィオを抱き締めた。


自分でもまだ分からない力。

けれど、それが孤独な存在を引き寄せたのだろうか。

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