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ボーンの葛藤

今回は大関ボーンのエピソードとなります。

『やぁボーン君、軍で採用予定の87式装甲服(まわし)の件なんだがねぇ……』


 直立する俺の対面、モニターの向こう側で喋っているのはネオ両国シティーを管轄する防衛局の局長だ。薄暗い部屋でぼんやりと輝く画面の光が眩しくてしょうがない。


『まだブラッシュアップに時間が必要みたいでねぇ、当面は82式で頑張ってもらうことになったから』


 奴は足も腕も組んで偉そうにしている。いや実際偉い立場なのだが……緊張感が無いというか、どこか他人事なのだ。画面の光が部屋の埃を反射させ、空虚な感じが一層強まる。


「先月から闇市に出回っているのにですかな?」


 だから嫌味の一つも言いたくなる。そして、痛いところを突かれたのだろう、一瞬眉を顰める局長。だがすぐに元の軽い表情に戻ってゆく。見下していて、余裕綽々で、見てて苛立つ振る舞いだ。


『それは目下のところ調査中だよ。しかし、何の物証も無しに断定はよろしくないなぁ。最終報告を待たなきゃ』


 調査などしていないことは掴んでいるし、最終報告なんぞ一生出ないことも分かっている。分かっているが、装備の調達は防衛局の領域。実動部隊である俺達には管轄外。口を挟めないのだ。だから嫌味一つで溜飲を下げる他ない。


『それよりも、小雪と小春だっけ? 例の脱走兵2名は見つかったかな?』


 姿勢は変わらず、目だけがギロリとこちらを向く。目だけが笑っていない。まるで俺の喉を掻き切ろうとしているかのようだ。これ以上神経を逆撫ですると厄介なことになるだろう、誤魔化して濁すほうがいいかもしれん。頭の中で必死に言葉を練り上げる。


「それは目下のところ調査中です。最終報告をお待ちください」


『……これは一本取られたな。まぁいい。報告を心待ちにしているよ』


 目を閉じ、満足げに笑う局長。そして、モニターは暗転する。通信が終わったのだ。


「ふぅ……」


 安心感、苛立ち、虚しさ、不安、2人の安否、様々な感情が土俵の上の懸賞旗のように頭の中をぐるぐると巡っている。すると、脇で聞いていた部下たちが寄ってきた。


「隊長! こんな横暴、いつまでも黙っていられません!」


「闇市に突入すれば物証は挙げられます! 出撃許可を!」


 俺だって証拠を突きつけたいさ。けど、それをやったとて無視されるか揉み消されるのがオチだ。もう何回味わったことか。握る拳が、ギリギリと音を立てる。


「堪えろ、言い逃れができない決定的な瞬間を待つんだ」


「……すみません」


 俺の忸怩たる思いが伝わったのか、彼らも怒りを堪えて下がって行った。すまんな。


「とはいえ、無策というのもな……」


 今後の動きをどうするべきか考えていると、サイバー犯罪専門の部下がやって来た。


「隊長、彼の所在を掴みました」


 でかした、頭に着けたロングタイプの髷アンテナは伊達じゃないな。


「奴への連絡は俺がする。他の2人にも教えてやれ」


「「はっ!」」


 小さいが、反撃開始だ。上手くやれよ、弟弟子。

次回から雷電視点に戻ります。

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