閑話 秋良とメイ
今回はニート喪女浪人こと、メイのお話となります。
「ニトロ姉さん、朝ごはんできましたよ」
レスバトルに勝利した余韻に浸って眠りこける拙者の耳に、美少年の心地よい声が聞こえて来る。あぁ、何と良い朝であろう。ニート生活に万歳。
「ん〜ぁぁ~っ」
布団から這い出し、愛刀である爆雷丸のニトロカートリッジを確認する。今日もご機嫌なようだ。さて、リビングに行かねば。
扉を開けると、出汁の良い香りがここまで漂ってくる。秋良少年が来てからというもの、我が家の食卓事情は劇的に改善している。さてさて、今朝のメニューは何でござろうか。
「かたじけな……えぇ〜っ!? デーコンエッグでござるか……」
「卵は本物ですから!」
秋良少年の腕は確かだ。だが、予算の問題はどうにもならない。あのババァめ、来月の家賃までプールして食費を絞って来るのだ。鬼、悪魔、閻魔ディーモン!
「先日の鮪パーティーが懐かしいでござる……」
「あれは鮪を持ってきた雷電さん達が異常ですよ~」
確かにそうだ。それに、不満はあるが腹は空く。そして秋良少年に非は無い。過去のご馳走を頭の隅に追いやり、感謝し食べるため手を合わせた。
「ぃただきまぁす……むっ!?」
デーコンの下に1枚、隠されたベーコンがあるではないか。それは出汁と油の照りにより、紅玉のように輝いて見えた。
「少年、愛してるでござるよ〜」
「はいはい」
働かずに食う優雅な朝食は、人生を豊かにする。
【無職美食《働かないで食う飯はうまい》】
壁に掛けられた、横書きの和額。そこに書かれている拙者の座右の銘は、真理なのだ。
◇◇◇
「ニトロ姉さん、お風呂入ってください」
昼になって急に、秋良少年がそんなことを言い出した。
「大丈夫でござる」
「大丈夫じゃないです」
鼻をつまんで見せる秋良少年。拙者、そんなに臭うだろうか?
「まったく、何日風呂に入ってないんだい?」
グランマまでやって来た。くっ……これが雷電殿の言う土俵際というやつか。まぁ、風呂に入ってないと言っても短期間、そこまで怒られはしないだろう。
「……2週間くらいでござろうか」
「今すぐ風呂に入りなっ!」
なんで!? そんな怒ることないのに。というか、拙者は風呂が苦手なのでござる。できれば入りたくない。
「嫌でござる!」
「なんでですか?」
秋良少年の純粋そうな目が、拙者に疑問をぶつけてきた。語らねばなるまい。拙者の秘密を。拙者は右の義手で左の義手をさすりつつ口を開いた。
「防水機能が……無いのでござる。拙者の義手、安物だから……」
そう、拙者が着用する安物の義手は、下手に濡れると放電するのでござる。いちいち防水加工をするか、両手なしで風呂に入るしかないのでござる。
「じゃあ、僕が洗いますから」
その一言に、拙者の心の臓腑は盆踊りをはじめる。美少年が、拙者を……!? それはもう、ご褒美ではないか。しかし、簡単に甘えてはニトロ抜刀術の名折れ。頬がニヤつくのを抑え、平然を装う。一度は断らねば。
「それは申し訳ないでござ……」
「任せてください、ちゃんと綺麗にしますから。デッキブラシで!」
申し訳ないと思ったのが間違いでござった。
◇◇◇
「夕飯は各自で自由に……でござるか?」
「そうさね、アタシは今夜、集中して長屋の管理コンピューターをいじりたいしね。じゃ」
グランマはそう言って奥のサーバールームに閉じこもってしまった。
「僕は雷電さんのところに行きます。向こうも料理できる人がいないので」
更には秋良少年も荷造りを始めてしまう。これは一大事でござる。
「料理って、どうやるのでござるかー!? 拙者、インスタントちゃんこしか作ったことないでござるよー!」
しかし、誰も助けてはくれない。拙者は仕方なく、端末でモバイルオーダーを利用することにした。
◇◇◇
「うぅ……配達員、怖いでござるよ……」
とはいえ、飯は食べたい。玄関前で正座して待つ。刀は右側に。奉行を迎えるように。そして、遂にインターホンが鳴った。
「フヒッ……は、配達ご苦労でござるよ」
拙者は立ち上がりながら、恐る恐る扉を開く。その向こうには、拙者の頼んだフリーズドライの寿司を持つ配達員がいた。
「頭が高い! 控えよろぅ!」
「ひぃ!」
思わず平伏してしまう。だから奉行イーツの配達員は苦手なのでござる。御奉行を前にすると、恐れ平伏せずにはいられない。侍の性なのだ。
「さぁ、申し上げい」
平伏したまま動けずにいると、パタパタと廊下を歩く音が聞こえて来る。それは配達員の方へと向かって行った。
「こちら、山吹色のお菓子になります」
秋良少年だ。続けてチャリンチャリンと金属の音もする。ドスコインで支払ってくれたらしい。
「そちも悪よのぉ」
そう言って去ってゆく配達員。しばしの静寂の後、再び扉が開いた。
「ごっつぁんです。秋良、迎えに来たでごわすよ」
「はーい。今行きます」
あぁ、救世主が去ってゆく。残された拙者とフリーズドライの寿司。その中で、拙者は気がついてしまった。
「あっ……拙者も付いていけば食事にありつけたのではないでござるか?」
待って! と声を出そうとした瞬間、扉は閉められてしまう。そして、床に置かれたフリーズドライ寿司のパックだけが、涙目の拙者を見ていた。
戦えるけど生活能力皆無のメイと、戦えないけど家事能力最強の秋良。好きな関係です。




