長屋でテイクオフ
大関ボーンから連絡が入った。幕下ドナルドの所在を掴んだと。それを受け、おいどん達はアケボノバイオニクスに乗り込むべく準備を始めた。
「たのもう!」
「「たのもー! たのもーっ!」」
おいどんと、小雪と小春。3人で早朝の長屋アパートメントに向かい、玄関をノックする。三人の張り手が、庭の草木に溜まった朝露を豪快に跳ねさせる。なんと風情のある光景だろうか。そうしていると、おいどん達のノックに気がついてくれた秋良が扉を開けてくれる。
「おはようございます雷電さん。小雪さん達も、どうされたんですか?」
「朝から騒々しいね。なんだい急に」
奥の部屋からグランマもやって来た。ちょうど良い。呼び出す手間が省けた。あともう一人が揃えば、用件に入ることができる。
「ごっつぁんです。メイはおるでごわすか?」
「あぁ、ニト浪人なら……」
グランマが何かを喋ろうとした瞬間、長屋の塀の向こう側で爆発が起こる。
「指差し確認〜!」
標語を叫びながら、爆炎と共に吹っ飛んでゆくロードローラー。また地上げカンパニーがやって来ていたのか。懲りない連中だ。
「ふぅ〜、自宅警備も楽じゃないでござるなぁ〜」
肩をコキコキ鳴らし、満足げに戻って来るニト浪人。相変わらず身なりはだらしないが、前よりはマシになっただろうか? 刀は……前から綺麗に手入れされていたしな。
「およ? 雷電殿ではござらぬか。今度は何の差し入れでござるか?」
先日のようにマグロを期待しているであろう。口の端から涎が垂れているニト浪人。腕は良いのに、色々と残念な女傑だ。
「今回の差し入れはな、新しい仕事の依頼でごわす」
「えぇ……」
肩を落とすニト浪人。食い物は無く、嫌いな仕事が来たと分かるとすぐこれだ。彼女の態度は無視して本題に入ることにしよう。
「アケボノバイオニクスに殴り込みたいでごわす」
「正気でござるか?」
彼女は一瞬で真剣な表情に戻る。流石にふざけられる内容ではないと分かったか。感心していると、グランマが一歩踏み出した。
「シャルズの時みたいに潜入しないのかい?」
尤もな指摘だ。むろん、おいどん達もそれを考えた。しかしダメだったのだ。グランマの疑問に、小春と小雪が答えを告げるため口を開く。
「はい。やろうとして下見に行ったのですが……」
「シャルズの与力コマンドを筆頭に、見覚えのある足軽ガードマン達が警備についてまして……」
そう、対策されていた。流石に同じ手は通じないということだ。
「待ち構えているわけだね。ならばいっそ正面突破しようって腹かい? 剛毅だね」
無謀と言わず、剛毅と評してくれたか。流石はグランマだ。ならば、乗ってくれるに違いない。
「相手が相手、グランマの力も借りたいでごわす」
「アタシかい? 高くつくよ」
そうは言うが、嫌な顔を一切しないグランマ。やりたいと受け取れるくらい口角が上がっている。しかし、高くつくと来たか。
「むぅ……まとまった手持ちは既にニト浪人への報酬として払ってしまったでごわすな」
「なんだい、甲斐性のない。それなら先日のマグロを前払いってことにするさね。さ、早く作戦の説明をするんだよ!」
やはりアケボノに一泡吹かせたいのか。声をかけて正解だった。おいどんは満足して腹を叩き、説明に入った。
◇◇◇
「なるほどねぇ。アタシ達に陽動をやれと」
おいどん達は長屋のテーブルを囲み、作戦の説明をした。グランマの本職がハッカーなのは調べが済んでいる。電子戦を仕掛け、おいどん達が突入する隙を作って欲しいのだ。
「ニト浪人の護衛もあれば、十分にこなせると四股を踏んだでごわす」
おいどんは、忖度抜きで本音を伝える。グランマもニト浪人も少し嬉しそうだ。とはいえ、危険な仕事だ。受けてくれるかは別問題だ。
「いやぁ~それほどでも〜とはならないでござるよ!?」
「さすがにダメでごわすか」
コタツに入り込んでそっぽを向くニト浪人。ニト浪人がグランマを守るなら……と思ったが、無理があったか。ここは電波が良くない。ハッキングを仕掛けるには移動しなければならないのだ。
「拙者、この長屋の警備以外はしないでござる!」
こう言われてしまっては、おいどんにはお手上げだ。別の策を練らねば……そんな考えが頭をよぎる中、グランマが不敵に口角をつり上げた。
「言ったね。武士に二言なしだよ」
「もちろんでござる!」
グランマの方すら見ず、合成みかんの皮を剥くニト浪人。そんな姿を見たグランマは、屈んでコタツの布団をめくった。
「なら安心だ、ポチッとな」
グランマがコタツ裏のボタンを押すと、長屋が揺れ始めた。更に何かが擦れるような音。窓に駆け寄り外を見ると、長屋が変形しているのが見えた。
「えぇ!? この家って変形するんですか?」
秋良もおいどんの隣の窓に張り付いて外を眺め、驚いている。視線を戻せば、既に左右に翼が生えており、その翼の先端にはジェットエンジンまであるのだ。
「地上げカンパニーにもうんざりしてたからね。そろそろ引っ越ししようじゃないか」
起き上がり、誇らしげに背筋を伸ばすグランマ。ゴウンという重い音と共に、アパートメントは、垂直離着陸長屋へと変貌を遂げたのだ。
「し、しまった……」
長屋から出ないなら、長屋ごと戦場に行けばいい。なんとまぁ、剛毅なのはグランマの方だったか。
「武士に二言は?」
「ない……でござる」
グランマにそう言われ、項垂れるニト浪人の返事と共にジェットが始動する甲高い音が聞こえ始めた。
長屋が空を飛ぶのは未来の一般常識。




