第9話:小さな幽霊と、新しい仲間
登場人物
レイン・アークライト
主人公。アークライト家を出奔し、ミニドラゴンのファル、ウルフのフェリルと共に新しい旅を続ける心優しき召喚師。力による支配を否定し、対等な絆を大切にする。
ファル
レインの相棒である手のひらサイズのミニドラゴン。少しずつお兄ちゃんとしての自覚が芽生え、新しい仲間が増えることにワクワクしている。
フェリル
レインの相棒である小さなウルフ。優れた嗅覚と聴覚でパーティを支え、新しくやってくる仲間に対しても温かく接する優しい心を持つ。
シルビア
名門の家出中で、冷徹な因習に疑問を抱くエリート召喚師の少女。レインの持つ「青い魔方陣」の秘密や、その優しさに強い興味を抱き、一時的に同行することになる。
ポルカ
怖がりですぐ隠れてしまうけれど、人懐っこくて愛らしい小型ゴースト・幽霊系のマスコット。過去のトラウマを乗り越えてレインたちの仲間になる。
前書き
『使役を捨てた召喚師の成り上がり ~最弱のミニドラゴンと、虐げられた仲間たちと歩む世界改革~』第9話をお届けします!
前回、初めてのクエストを完全達成し、ギルドで周囲の目を大きく変えたレインたち。さらに名門出身の少女シルビアとの運命的な出会いを果たしました。第9話では、そのシルビアがレインたちの調査クエストに同行することになり、その道中で「怖がりでお化けなのに自分が怖い」小さな幽霊のマスコット・ポルカと出会い、新しい仲間として迎え入れる心温まるエピソードを描きます。ぜひじっくりとお楽しみください!
オルテナの町の朝は、今日も活気に満ちていた。
冒険者ギルドでの一件以来、レインたちに対する周囲の視線は明らかに変わり始めていた。「ミニドラゴンと野犬を連れた落ちこぼれ」という嘲笑は消え、今では「独自の青い魔方陣でゴブリンの群れを圧倒した、一風変わった実力派の召喚師」という好奇と一目置くような眼差しへと変わりつつあった。
そんなある日の朝、ギルドの掲示板の前で次の依頼を選んでいたレインの背後から、コツコツと上品な足音が近づいてきた。
「おや、今日も地道に初級クエストから始めるつもりかしら?」
振り返るとそこには、仕立ての良い上質な旅装束に身を纏い、冷めたエメラルドグリーンの瞳を光らせた少女――シルビアの姿があった。彼女の傍らには、前と同じように美しい魔力結晶がふんわりと浮かんでいる。
「おはよう、シルビアさん。昨日は助けてくれてありがとう。次の依頼を探しているところさ。君は、こんなところでどうしたんだい?」
レインが穏やかな笑みを向けると、シルビアは少しだけ頬を朱に染めながら、ふんとそっぽを向いた。
「べ、別にあなたを待っていたわけじゃないわよ! ただ……私もオルテナの町に到着したばかりで、しばらくはこの町を拠点に独自の調査と依頼をこなす予定よ。それに、昨日あなたが使ったあの『青い魔方陣』の術式について、もう少し近くで観察させてもらおうと思ってね」
要するに、レインの持つ独自の召喚スタイルや、力に頼らない魔法の秘密に興味津々なのだ。素直になれないその様子を、レインの肩の上にいたファルが『きゅふふ……』と面白そうに小さく笑った。
そのファルの笑い声に気づいたシルビアは、少しバツが悪そうに咳払いを一つすると、真面目な顔に戻ってこう切り出した。
「それでね、私も次のクエストを受けようと思って掲示板を見ていたのよ。どうせなら、あなたと一緒に組んで動いたほうが、色々と言い訳も立って都合がいいわ。……文句ないわよね?」
名門出身のプライドを少し覗かせながらも、どこか頼もしい同行の申し出に、レインは心地よい温かさを感じた。
「もちろん大歓迎さ、シルビアさん。一人よりも、仲間が多いほうが賑やかで楽しいからね」
こうして、レイン、ファルのミニドラゴンコンビ、フェリルに加え、頭脳派の召喚師少女シルビアが一時的にパーティーに加わることになったのだった。
その日、彼らが選んだのは、オルテナの郊外にひっそりと佇む「忘れられた古い地下遺跡」の調査クエストだった。
かつて古代の魔術師たちが使っていたとされるその遺跡は、長い年月を経て魔力の残滓が淀み、最近になって低級のアンデッドや、ちょっとした悪霊系の魔獣が姿を現すようになったため、ギルドから調査と安全確認の依頼が出ていたのだ。
遺跡の入り口に足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした湿った空気が一行を包み込んだ。
石造りの壁には古いレリーフが刻まれており、足元にはうっすらと埃が積もっている。
「……ふん、典型的な古い遺跡ね。この程度の魔力の淀みなら、私の魔導書ですぐに浄化して――」
シルビアが強気な調子でそう言いかけ、得意の魔導書を開こうとしたその時だった。
――ヒュゥゥ……、と。
地下の奥深くから、冷たい風とともに、何とも頼りなげな、情けない声が響いてきた。
「ひゃうっ……!? い、いま変な音がしなかった……? こ、怖いですぅ……!」
「……ん? いまの声は……?」
レインが足を止め、周囲を警戒するように視線を巡らせた。
フェリルもピンと耳を立て、低く身を低くしながら、遺跡の通路の曲がり角を鋭い嗅覚で探った。
「幽霊……? いや、この遺跡の魔力の波長とは違うわね。まるで、怯えている小動物みたいな気配がするけれど……」
シルビアも眉をひそめ、魔力結晶の光を強めて前方を照らし出した。
一行が慎重に足音を忍ばせながら通路の角を曲がると、そこにあったのは驚くべき光景だった。
薄暗い石造りの小部屋の隅で、真っ白なシーツをかぶったような、丸っこくて小さな影が、両手で頭を抱えながらブルブルと全身を激しく震わせていたのだ。
その生き物は、自分の意思で透明になったり実体化したりしているのだが、恐怖のあまり「ひえええ、お化けが出るよぉ……! 誰か助けてぇ……!」と、自分がお化け(ゴースト)であるにもかかわらず、暗闇や不気味な雰囲気に耐えきれず泣きべそをかいていたのだ。
『きゅ……? あれ、なんだろう、あのまるっこい生き物……』
ファルが首をかしげながら、レインの肩からちょこんと体を乗り出した。
フェリルも「くんくん」と鼻を鳴らし、相手に敵意がないことを確認すると、ゆっくりと歩み寄っていった。
「大丈夫かい? そんなところで、一人で震えてどうしたんだい?」
レインが驚かせないように優しい足音を立てながら近づき、そっと声をかけた。
その声に驚いた白い影は、「ひゃっ! 食べないでぇ……!」と叫びながら、その場で勢いよくひっくり返り、頭からシーツをすっぽり被って丸くなってしまった。
しかし、レインの声や、そこから漂う温かい魔力の気配に安心したのか、ゆっくりとシーツの端を持ち上げ、ビクビクしながらこちらを覗き込んできた。
そこに現れたのは、くりくりとした大きな瞳に、つぶらな口をした、手のひらサイズほどの愛らしい小型ゴーストのマスコットだった。
「ぼ、僕は……ポルカっていうの……」
震える小さな声で、その小さなゴーストは自己紹介をした。
ポルカは、以前に別のダークな魔術師や悪質なテイマーに拾われたことがあった。しかし、霊感の強いその男は「お前は人を驚かせる才能もない、幽霊なのに暗闇や不気味な場所が怖くてすぐに隠れてしまう役立たずの臆病者だ」と散々に罵り、最終的にこの古い遺跡にポルカをポイッと放り捨てて去っていったのだという。
「それからずっと……ここで一人で、暗くて怖いから隠れていたの……。誰も僕を必要としてくれないんだ……」
ポルカはそう言いながら、また小さくシュンと体を縮こまらせた。
その話を聞いたとき、レインの胸の奥がキュッと締め付けられるような痛みを覚えた。
かつてアークライト家で「役立たずの落第生」と蔑まれ、捨て駒のように扱われていた自分の過去が、目の前の小さなポルカの姿と重なって見えたからだ。
ファルも、自分の過去の寂しかった頃を思い出したのか、ピョンとレインの肩から飛び降り、ポルカのすぐそばまでトコトコと歩いていった。
『怖がらなくていいよ。僕も昔はすごく臆病だったんだ。でも、この人が僕たちを温かく救ってくれたんだから』
ファルが優しくポルカの頭を自分の小さな前足でポンと叩いて見せると、フェリルも「くぅん」と優しく鳴いて、ポルカの体にそっと自分の温かい背中を寄り添わせた。
シルビアは、その様子を少し離れた場所からじっと見つめていた。
彼女は名門のエリートとして、魔獣はあくまで利用するためのツールだと教え込まれて育ってきた。しかし、レインやファル、フェリルが示すこの「見返りを求めない圧倒的な優しさと温もり」を目の当たりにし、胸の奥底で何かが音を立てて崩れていくような感覚を覚えていた。
「……ねえ、ポルカ」
レインはポルカの目の前にそっと跪き、優しく微笑みかけながら両手を差し出した。
「もしよかったら、僕たちの新しい仲間にならないかい? 強制したりしないし、怖い思いをさせることも絶対にない。君のその優しさや、可愛いところを、これからは僕たちと一緒に分かち合おうよ」
ポルカはその差し出された温かい手と、レインの嘘偽りのない誠実な瞳を見つめた。
そして、ファルやフェリルが自分を励ますように優しく見守ってくれているのを感じ取ると、ポルカの瞳から大粒の涙(のような霊力のエッセンス)がポロポロとこぼれ落ちた。
「ほ、本当に……僕なんかを仲間にしてくれるの……? 捨てられたりしない……?」
「ああ、絶対に約束するよ。君はもう一人じゃないんだからね」
レインがそう言って優しく包み込むように抱き上げると、ポルカは「うわぁぁぁん……!」と声を上げて泣きじゃくった後、安心したようにレインの手のひらに自分の顔をすり寄せて甘え始めた。
次の瞬間、レインの足元から、いつものように美しく透き通るような青い魔方陣がふわりと広がった。
その穏やかな青い光は、遺跡の冷たい暗闇を優しく払い除け、レインとファル、フェリル、そしてポルカの魂を温かい絆でしっかりと結びつけていく。
光の中から、心地よい魔力の波が広がり、ポルカの額に小さな青い光の紋様がほんの一瞬だけ浮かび上がって消えた。
――それは、力による支配の契約ではなく、互いを慈しみ合う「本当の絆の証明」だった。
『きゅっ! ポルカ、仲間だよ! よろしくね!』
ファルが嬉しそうに宙をクルリと舞い、フェリルも「ワンっ!」と明るく吠えた。
ポルカは驚いたように目をパチクリさせた後、嬉しそうにシーツをフワフワと揺らしながら、「うんっ! これからよろしくね、レイン、ファル、フェリル!」と元気いっぱいの声を返した。
少し離れた場所でその一部始終を見ていたシルビアは、複雑な表情を浮かべながらも、どこか羨ましいような、そして胸の奥が熱くなるような不思議な衝動に駆られていた。
「……まったく、あなたという人は……本当に変な召喚師ね。魔獣をそんな風に家族みたいに扱う人なんて、今まで聞いたこともなかったわ」
シルビアはそう言いながらも、どこか優しげな笑みを浮かべ、そっと自分の胸に手を当てていた。
遺跡の調査クエストは無事に完了し、帰り道。
レインの肩にはファルが乗り、足元にはフェリルが寄り添い、そしてレインの頭のまわりや背中では、すっかり元気を取り戻したポルカが『ひゃっほー、楽しいね!』とばかりにフワフワと楽しそうに飛び回っていた。
最初は一人ぼっちだった「落第生の召喚師」の旅路に、今やかけがえのない仲間たちが次々と集まり始めている。
世界を変えるための長い道のりは、こうして少しずつ、しかし確かな温もりを伴って前へと進んでいくのだった。
後書き
第9話「小さな幽霊と、新しい仲間」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
一時的に同行することになった名門の少女シルビアのツンデレな魅力や、オルテナ近郊の古い遺跡で出会った怖がりな小型ゴーストのマスコット・ポルカが正式に仲間になる心温まるエピソードを描かせていただきました。ファルやフェリルのお兄ちゃんっぷりや、レインの優しさがより一層際立つ展開になっていれば幸いです!
次回の第10話では、賑やかさを増したパーティで迎える新たな日常や、さらなる試練、そしていよいよガレルトなどのライバルたちとの本格的な衝突へと繋がっていく重要なエピソードに突入します……!
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それでは、第10話でお会いしましょう!




