第10話:正式な同行と、賑やかな道中
登場人物
レイン・アークライト
主人公。アークライト家を出奔し、ミニドラゴンのファル、ウルフのフェリル、小型ゴーストのポルカと共に新しい旅を続ける心優しき召喚師。
ファル
レインの相棒である手のひらサイズのミニドラゴン。お兄ちゃん風を吹かせつつ、新しい仲間が増えて毎日の旅を心から楽しんでいる。
フェリル
レインの相棒である小さなウルフ。優れた嗅覚と聴覚でパーティを支え、仲間たちを優しく見守る頼もしい存在。
ポルカ
最近仲間になったばかりの、怖がりだけど人懐っこくて愛らしい小型ゴースト。ファルやフェリルとすぐに仲良くなり、パーティの新しい癒やしとなっている。
シルビア
名門の家出中で、冷徹な因習に疑問を抱くエリート召喚師の少女。一時的な同行から、自らの意志でレインたちの正式な旅の仲間として加わることになる。
前書き
『使役を捨てた召喚師の成り上がり ~最弱のミニドラゴンと、虐げられた仲間たちと歩む世界改革~』第10話をお届けします!
前回、古い遺跡の調査で怖がりな小型ゴーストのマスコット・ポルカを新しい仲間として迎え入れたレインたち。第10話では、一時的に同行していた名門出身の少女シルビアが、自分の意志で「正式にパーティの仲間として旅を続ける」ことを決意する重要なエピソードを描きます。賑やかさを増した5人と匹の新しい旅立ちを、ぜひじっくりとお楽しみください!
オルテナの町の空に、オレンジ色の朝焼けが美しく広がり始めていた。
冒険者ギルドでの依頼を次々とこなし、小型ゴーストのポルカが新しい家族として加わったことで、レインたちの拠点である宿の一室は、毎朝これまで以上に賑やかな笑い声に包まれていた。
「レイン、おはよー! 今日はどこに行くの?」
フワフワと空中を浮遊しながら、ポルカがピョンピョンとレインの周りを飛び回る。以前の暗い遺跡で一人ぼっちで怯えていた頃の面影はすっかり消え去り、今ではすっかり自信と笑顔を取り戻していた。
『きゅっ! ポルカ、朝ご飯のパンくすねちゃダメだよ!』
ファルが小さな翼をパタパタさせながら、お皿の上を覗き込むポルカを注意する。
『くぅん……』とフェリルも足元から尻尾を振って挨拶し、まるでファルたちの真似をするようにポルカの頭を優しく前足でちょんちょこと触った。
そんな微笑ましい朝の光景を、部屋の隅の椅子に腰掛けながら、一人の少女が少し複雑な、しかしどこか居心地の良さそうな表情で見つめていた。
仕立ての良い旅装束をきっちりと着こなした――シルビアだった。
彼女はエメラルドグリーンの瞳を少しだけ伏せ、目の前で繰り広げられている温かいやり取りを見つめながら、心の中で小さく息をついていた。
名門の家に生まれ、エリートの召喚師として「魔獣は道具であり、恐怖と力で屈服させてこそ価値がある」と徹底的に叩き込まれて育った彼女にとって、この光景はかつての常識からは到底信じられないものだった。
しかし、実際にこの数日間、レインたちと一緒に依頼をこなし、ポルカが救出される瞬間や、彼らが互いを信頼し合う姿を目の当たりにしてきた。その結果、シルビアの心の中で頑なに固まっていた古い価値観の殻は、音を立てて崩れ去っていたのだ。
やがて、レインが荷物の最終確認を終え、シルビアのほうを向いて穏やかに微笑みかけた。
「おはよう、シルビアさん。よく眠れたかい? 今日はいよいよオルテナの町を出発して、次の商業都市メルトーナへと向かう予定なんだ。準備はいいかい?」
その言葉を聞いた瞬間、シルビアはスッと立ち上がり、少しだけ頬を朱に染めながら、しかしハッキリとした強い意志を込めた瞳でレインを見据えた。
「……レイン。出発の前に、あなたに話しておかなきゃいけないことがあるわ」
「ん? どうしたんだい、急に真面目な顔をして」
シルビアは一度小さく息を整えると、胸を張ってこう言い放った。
「私、これからは一時的な同行じゃなくて――正式に、あなたのパーティの仲間としてこの旅に同行させてもらうわ! 文句は言わせないわよ!」
その突然の宣言に、レインは少しだけ目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに柔らかく微笑んだ。
「もちろん大歓迎さ、シルビアさん。君がいてくれたら、頭脳面でも魔法のサポートでも、百人力だからね。これからよろしく頼むよ」
『きゅあ! シルビアも仲間だね!』
ファルが嬉しそうにパタパタと飛び上がり、ポルカも『わーい! シルビアお姉ちゃん、よろしくね!』とフワフワ回りながら喜んだ。フェリルも「ワンっ!」と明るく一声吠えて歓迎の意を示す。
自分のほうが年上だというのにすっかり子供たちに懐かれている様子に、シルビアは少し照れくさそうに顔を背けた。
「べ、別に子供扱いしないでちょうだい! ただ……あなたの使うあの『青い魔方陣』の秘密と、この世界の人々が忘れている『本当の絆の形』を、私も一人の召喚師として最後までこの目で確かめたいだけよ。……それに、あなたたちから目を離したら、いつの間にか変な魔獣ばかり拾ってきそうだしね」
ツンとした口調を装いながらも、その表情には以前のような冷たさは微塵もなく、むしろ新しい冒険への期待と、仲間に対する確かな信頼の色が浮かんでいた。
こうして、レイン、ファル、フェリル、ポルカ、そして新たに正式加入したシルビアを加えた総勢「人間二人、魔獣・精霊三人(匹)」の新しいパーティーがここに正式に誕生したのだった。
午前中の光が心地よく降り注ぐ中、一行はオルテナの町の巨大な城壁の門をくぐり、次の目的地である商業都市メルトーナへと続く街道へと踏み出した。
街道沿いには、緑豊かな平原がどこまでも広がっている。
時折、遠くの森から心地よい風が吹き抜け、道の脇には色とりどりの野花が風に揺られていた。
「ねえ、レイン。あなたのその青い魔方陣だけど……昨日、文献を調べていて気になったことがあるのよ」
歩きながら、シルビアは少し専門的な魔導書を片手にレインへと話しかけた。
「ほう、どんなことだい?」
「通常、召喚術というのは術者の魔力を相手に一方的に流し込んで従属させるでしょう? でも、あなたの魔方陣は、術者と契約獣の魔力がまるでパズルのピースみたいに綺麗に噛み合って、お互いの出力を何倍にも増幅させているわ。あれは一体どうやって構築しているのよ?」
シルビアのその知的な問いかけに、レインは少し嬉しそうな顔をして立ち止まり、分かりやすく説明し始めた。
「それはね、シルビアの言う通り、普通の召喚術が『一方通行の命令』だからなんだ。でも、僕たちの契約は『対等な対話』なんだよ。ファルやフェリル、そしてポルカが心の中で何を求めているかを感じ取り、僕の魔力をそこに優しく寄り添わせる。そうすると、魔力が勝手に反発し合うんじゃなくて、自然と共鳴し始めるんだ」
「共鳴……魔力の、共鳴、ね」
シルビアは真剣な表情でその言葉を反芻し、持っていたノートに素早くペンを走らせた。
「理論の上では可能でも、実践しようとすれば莫大な精神力と、何より相手に対する絶対的な信頼が必要になるわね……。普通のエリート家系の人間なら、そんな非効率なやり方は端から切り捨てるでしょうけれど……ふふ、あなたらしいといえばあなたらしいわね」
その様子を、レインの肩の上のファルが『シルビア、勉強熱心だね!』と冷かすように見つめ、ポルカが『お姉ちゃん、がんばれー!』とパタパタ応援している。
「ちょっと、ファル! ポルカ! 私を子供扱いしないで!」
シルビアが顔を真っ赤にして言い返すと、街道には一同の楽しげな笑い声が響き渡った。
そんな賑やかな道中を進んでいると、前方の街道の曲がり角あたりから、何やら慌ただしい物音と、荷車を引く商人の困り果てたような声が聞こえてきた。
「た、助けてくれーっ! 誰か、街道の魔獣を追い払ってくれ!」
「……? 前方で何かトラブルみたいだね。行ってみよう」
レインが声をかけると、フェリルが即座に前方を警戒しながら素早く駆け出し、その後をレインたちが追った。
曲がり角を曲がった先に見えたのは、荷車を引っ張っていた馬が恐怖のあまりその場に座り込み、その周囲を、鋭い牙と頑丈な皮ふを持った大型の野良魔獣「ファング・ブラスト」の一群が囲んでいる光景だった。
商人の男性は荷物の陰に隠れながら、ブルブルと震えて声をあげることしかできていない。
「えっ、あんな凶暴なファング・ブラストが三頭も……! 商人の護衛たちはどこに行ったのよ!」
シルビアが驚きながら魔導書を構えようとしたその時だった。
「大丈夫だよ、シルビアさん。僕たちに任せて」
レインは慌てることなく一歩前に出ると、落ち着いた足取りで地面に跪いた。
「フェリル、ファル、ポルカ。準備はいいかい?」
『おまかせあれっ!』
『ワンっ!』
『僕たちに任せてよ!』
レインが左手を地面にスッと滑らせると、いつものように美しく透き通るような青い魔方陣が鮮やかに展開された。
その瞬間、レインの背後から溢れ出した穏やかな魔力の光が、ファル、フェリル、そしてポルカの体をふんわりと包み込み、全員の戦闘力が一瞬で跳ね上がった。
これが、5人(匹)体制となった新しいパーティーの「初陣」だった。
「グオォォッ!」
最大手のファング・ブラストが、怒り狂ったように突進の構えを取り、レインたちめがけて一直線に突っ込んできた。その巨体がぶつかれば、一たまりもないほどの破壊力だ。
しかし、動揺する者は誰一人いなかった。
「フェリル、右から回り込んで足の動きを制限して!」
「ワンッ!」
フェリルは風のような速さで右側の草むらを抜け、ファング・ブラストの視覚を完璧に捉えながら鋭く牽制した。
「今だ、ポルカ! 驚かせて視界をくらませて!」
『いっくよー! えいっ、びっくりしちゃえ!』
ポルカはフワフワと空中で姿を透明にしながらファング・ブラストの目の前にひょっこり現れ、可愛いお化けのポーズで小さな霊力の光をピカッと放った。
「ブヒッ……!? な、なんだこれ!?」
不意を突かれたファング・ブラストは大きく体勢を崩し、突進の軌道が完全に逸れた。
「とどめは僕たちだね、ファル!」
『レイン、いくよっ!』
レインの合図に合わせて、ファルは青い魔方陣の魔力に背中を押され、まるで流星のように空中を鋭く滑空した。
ファルは小さな両足を揃え、バランスを崩したファング・ブラストの額へと見事なドロップキックを叩き込んだ。
ガツンッ!という凄まじい音とともに、体格の何倍もある巨体のファング・ブラストはたまらずひっくり返り、地面に激しく打ち付けられてそのまま気絶した。
残りの二頭も、フェリルの素早い牽制と、シルビアが放った冷静な氷結の魔法(足元を凍らせるサポート)によって、あっという間に動きを封じられてしまった。
暴力でねじ伏せるのではなく、全員の特性を完璧に噛み合わせた見事な連携戦術。
わずか数合の交戦の末、三頭の凶暴なファング・ブラストはいずれも大きな傷を負うことなく、完璧に無力化されていた。
「す、すごい……あんな一瞬で、傷をつけずに大型の魔獣を……」
荷物の陰から恐る恐る見ていた商人の男性は、信じられないものを見るような目でレインたちを見つめ、腰を抜かしたままポカンと口を開けていた。
シルビアもまた、自分の放った氷結魔法とレインたちのコンビネーションの美しさを目の当たりにし、少しだけ息を呑みながら自分の杖を下ろした。
(……これが、彼の言う『対等な絆の戦い方』……。力で従えるよりも、はるかに美しくて、何倍も強力だわ……!)
胸の奥で熱いものが込み上げてくるのを感じながら、シルビアはそっと微笑みを浮かべた。
「商人さん、もう大丈夫だよ。怪我はないかい?」
レインが商人に歩み寄り、優しく手を差し伸べて起こしてあげると、商人は涙を流しながら何度も頭を下げた。
「あ、ありがとうございます……! あんたたちのおかげで命拾いしたよ……!」
トラブルを鮮やかに解決し、商人に感謝されながら次の町へと歩みを進めるレインたちの背中は、もはやただの「落ちこぼれの旅の一行」ではなく、新しい時代の希望を背負った若き冒険者たちのそれへと確実に成長していた。
これから待ち受ける商業都市メルトーナでは、さらに多くの出会いや、新たな試練が彼らを待っている。しかし、強力な仲間が増えたこの最強のパーティーなら、どんな困難だって乗り越えていける――誰もがそう確信できる、最高の一歩だった。
後書き
第10話「正式な同行と、賑やかな道中」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
一時的な同行だったシルビアが、自らの意志で正式なパーティメンバーとして加入し、ファルやフェリル、ポルカも含めた賑やかな5人(匹)体制での新しい旅立ちを描かせていただきました。道中でのファング・ブラスト戦で見せたチームワークの良さや、シルビアの心境の変化がしっかりと伝わっていれば幸いです!
次回の第11話では、いよいよ次の大きな目的地である商業都市メルトーナに到着し、そこで待ち受ける新たな依頼や、運命的な出会い(あるいはトラブル)に繋がっていきます……!
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それでは、第11話でお会いしましょう!




