第11話:商業都市メルトーナの賑わいと、新たな出会い
登場人物
レイン・アークライト
主人公。アークライト家を出奔し、ミニドラゴンのファル、ウルフのフェリル、小型ゴーストのポルカ、そして召喚師の少女シルビアと共に新しい旅を続ける心優しき召喚師。
ファル
レインの相棒である手のひらサイズのミニドラゴン。新しい大きな街の賑わいや、美味しい匂いに目を輝かせる食いしん坊なお兄ちゃん的存在。
フェリル
レインの相棒である小さなウルフ。優れた感覚で大都市の雑踏の中でもレインをしっかりサポートし、仲間たちを見守る。
ポルカ
小型ゴーストのマスコット。大きくて綺麗な街並みに大はしゃぎし、フワフワと空中で好奇心全開で飛び回る。
シルビア
名門の家出中で、レインのパーティに正式加入したエリート召喚師の少女。大都市メルトーナには馴染みがあるが、レインたちと歩くことで今までとは違う街の景色を発見していく。
前書き
『使役を捨てた召喚師の成り上がり ~最弱のミニドラゴンと、虐げられた仲間たちと歩む世界改革~』第11話をお届けします!
前回、正式にパーティの仲間となったシルビアを加え、ファング・ブラストの襲撃を鮮やかに退けたレインたち。第11話では、いよいよ次の大きな目的地である巨大な商業都市「メルトーナ」に到着します。大都市ならではの賑わいや、賑やかな5人(匹)の楽しい散策、そして新たな冒険の予感を描くエピソードです。ぜひじっくりとお楽しみください!
青々とした広大な平原を抜け、遠くの地平線の向こうに見えていた巨大な影が、次第にその全貌を現していく。
それは、幾重もの白い石造りの城壁に囲まれ、空高くそびえ立つ尖塔や、行き交う人々の熱気で常に活気づく巨大な商業都市――メルトーナだった。
オルテナの町とは比べ物にならないほどの規模を誇るその大都市の門をくぐり抜けた瞬間、レインたちの耳には、無数の馬車が石畳を駆ける音、あちこちの露店から聞こえてくる威勢の良い商売人たちの呼び声、そして人々のざわめきが波のように押し寄せてきた。
「わぁぁ……! すごく大きい街だねぇ! お空へと向かう建物がたくさんあるよ!」
ポルカは驚きのあまり目をまん丸くし、フワフワとレインの頭の上まで飛び上がると、くるくると楽しそうに回転した。
『きゅっ! なんか美味しそうなパンの匂いがするよ……!』
レインの肩の上で、ファルも小さな鼻をヒクヒクと動かし、大通りに並ぶ露店のほうをジーッと見つめている。
フェリルは初めて見る大都市の人混みに少しだけ耳をピクッと動かしたが、レインの足元をぴったりと外さず、落ち着いた様子で周囲を観察していた。
「ここが、商業都市メルトーナ……。私も何度か来たことがあるけれど、相変わらず活気のある街ね」
シルビアは仕立ての良い旅装束の裾を整えながら、少し懐かしそうに目を細めた。しかし、エリートとして常に背筋を伸ばして歩いていた以前の彼女とは違い、今はその表情にどこか柔らかい温かみが宿っている。
「そうだね。これだけ大きな街なら、冒険者ギルドの規模もオルテナとは比べ物にならないだろうし、新しい依頼や、まだ見ぬ魔獣たちとの出会いもありそうだ」
レインがワクワクとした笑みを浮かべながらそう言うと、シルビアはふっと小さく息をついた。
「もう、あなたという人は……。町の外であんな大型のファング・ブラストの群れをあっさり退けたばかりだというのに、休む間もなく次の冒険のことばかり考えているんだから。……まあ、私も同行するって決めた以上、付き合うけれどね」
ツンとした口調を装いながらも、シルビアの口元には隠しきれない楽しげな笑みが浮かんでいた。
一行はまず、長旅の疲れを癒やすための宿を探しつつ、街の中心部へと続く大通りを進むことにした。
道の両側には、色とりどりの宝石や魔法道具を扱う高級店から、焼き立ての香ばしいお肉やスパイスを売る屋台まで、ありとあらゆるお店が所狭しと軒を連ねている。
「ねえ、レイン! あれ、食べてみたいなぁ!」
ポルカがピョンと空中で跳ねながら、香ばしい匂いを漂わせる焼き肉の屋台を指差した。
『賛成! 僕もお肉が食べたい!』
ファルもそれに便乗して、レインの耳をパタパタと引っ張る。
「はは、わかったよ。じゃあ、みんなで少し早いお昼ご飯にしようか。せっかくメルトーナに来たんだし、美味しいものでも食べ歩きしよう」
レインがそう提案すると、ファルとポルカは「やったー!」と大喜びで飛び跳ねた。
屋台の前に行き、レインが人数分の香ばしい肉の串焼きを注文して受け取ると、みんなで仲良く分け合って食べた。
「ん~! 外がカリッとしてて、中から肉汁がジュワッと出てきて美味しいっ!」
ポルカは小さな両手で串を持ち、目を輝かせながら頬張っている。ファルも満足そうに尻尾をブンブンと振っていた。
そんな様子を少し離れた場所から見ていたシルビアは、呆れたような、しかしどこか羨ましいような複雑な目を向けていた。
「あなたたちねぇ……大都市に着いた途端に街の食べ歩きなんて、冒険者としての緊張感が少し足りないんじゃないの? 私なんて、名門にいた頃はそんな庶民的な食べ物なんて口にしたことも……」
シルビアが少し気位の高い調子でそう言いかけたその時、彼女のお腹から、小さく「キュルル……」とかわいい音が響いた。
周囲の空気が一瞬だけピタッと止まり、ファルが『今の音、どこからかな?』と首をかしげ、ポルカが『お姉ちゃんのお腹が鳴ったよ!』と無邪気に声を上げた。
シルビアの顔は、一瞬で真っ赤に染め上がった。
「っ……! い、いまのはその……旅の途中でエネルギーを消耗していたからであってね……っ!」
耳まで真っ赤にして慌てふためくシルビアの姿に、レインは思わず吹き出してしまった。
「はい、シルビアさん。お疲れ様、これどうぞ」
レインが優しく微笑みながら、焼きたての串焼きを一本差し出すと、シルビアは恥ずかしそうにじっとそれを見つめた。
「……べ、別に欲しかったわけじゃないんだからね。でも、せっかくの好意だし、もらってあげるわよ」
シルビアはそっと串を受け取り、一口小さくかじりついた。すると、彼女の瞳がわずかに見開かれた。
「……美味しい。お肉の旨味がしっかりしていて、スパイスの香りも絶妙……。こんな庶民の食べ物が、どうして……」
「美味しいものは美味しいんだよ。肩ひじ張らなくても、たまにはこういうのもいいだろう?」
レインの穏やかな言葉に、シルビアは少しだけ目を伏せ、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
(……この人と一緒にいると、私の知っていた世界がどんどん変わっていく……。悪くないどころか、すごく……心地いいわ……)
美味しい串焼きで腹ごしらえを済ませた一行は、いよいよメルトーナの巨大な「冒険者ギルド」へと向かった。
街の中心部にそびえ立つギルド本部は、まるで要塞のように立派な石造りの建物で、出入りする冒険者たちの数もオルテナとはケタ違いに多かった。
重厚な大扉を押し開けて中に入ると、広大なホールには何百人もの冒険者たちがごった返し、中央の巨大な掲示板のまわりには所狭しと依頼書が貼られていた。
「うわぁ……人であふれ返ってるね。すごい熱気だ……」
ポルカが驚いてレインの背中に隠れるようにし、ファルも少し目を丸くしている。
「さすがは商業都市メルトーナの本部ね。ここなら、オルテナよりもずっと高度で報酬の高い依頼がたくさんあるわ。私たちの実力を試すにはちょうどいい場所よ」
シルビアは魔導書を片手に、周囲の様子を冷静に分析しながら言った。
レインが受付のほうへと進もうとしたその時だった。
ホールのざわめきの中から、ひときわ大きく、かつ不穏な言い争いの声が聞こえてきた。
「ふざけるな! この依頼の危険度はブロンズランク向けじゃないだろ! なんで俺たちがこんな割に合わない討伐に行かなきゃならないんだ!」
「文句ならギルドの規定に言いなさい。ランクが上のパーティが全滅したからって、下位の者に回ってきただけの話よ。行かないならペナルティを課すわよ」
受付の職員と、険しい顔をした一団の冒険者たちが言い争っていた。
何事かとレインたちが視線を向けると、そのトラブルの中心にいたのは、見覚えのある豪華な装飾をまとった傲慢な若い召喚師――ガレルトだった。
ガレルトは相変わらず巨大なオークや魔獣を引き連れており、納得がいかないといった様子で受付の職員に食ってかかっていた。
「くそっ……! あの生意気なガキ(レイン)どもに遅れをとっているっていうのに、こんな面倒な雑用を押し付けられやがって……!」
ガレルトが毒づきながら振り返った瞬間、目の前に立っていたレインたちとバッチリ目が合った。
ガレルトの顔に、驚愕と、それを上回る激しい怒りの色が浮かび上がった。
「……っ!? お、お前ら……なんでこんなところにいるんだよ! オルテナの町を出て、まさかここまで追いかけてきたって言うのか!?」
ガレルトのその大きな声に、周囲にいた他の冒険者たちの視線が一斉にレインの一行へと集まった。
「おい、あのガキ共……見かけない顔だが、ガレルトの野郎がめずらしく動揺してるぞ」
「連れてるのって……小さなトカゲと、幽霊みたいなマスコットか? あんな変なパーティ、見たことないぞ」
周囲のヒソヒソ声を聞きながら、レインは微動だにせず、ただ静かにガレルトを見据えた。
「追いかけてきたわけじゃないさ。僕たちも僕たちの旅の途中で、このメルトーナの街に立ち寄っただけだよ。……それにしても、相変わらず騒がしい人だね」
「なっ……なんだと、この雑魚が……!」
ガレルトは顔を真っ赤に怒らせ、自分の連れている魔導具をカチッと鳴らして威圧しようとしたが、その背後から冷ややかな声が飛んできた。
「そこでおおきな声を出すのはやめなさい、ガレルト。みっともないわよ」
すっと一歩前に出たのは、シルビアだった。彼女のエメラルドグリーンの瞳が、冷たくガレルトを射抜く。
「ス、シルビア……! またお前か! どうしてそんな落ちこぼれのガキなんかとつるんでるんだ! 名門の恥だぞ!」
「恥なのは、力でしか物事を測れず、すぐに取り乱すあなたの方よ。ここは冒険者ギルドよ。文句があるなら実力で証明してみせたらどうかしら?」
シルビアの容赦のない論破に、ガレルトは悔しそうに歯噛みし、これ以上言い返せなくなってしまった。
「……覚えてろよ! すぐにこの街の過酷な現実を思い知らしてやるからな!」
ガレルトは捨て台詞を吐き捨てると、従えていた魔獣を乱暴に引っ張りながら、ギルドの奥へと去っていった。
その騒動のあと、ギルド内には再びざわめきが戻ったが、周囲の冒険者たちのレインを見る目は、先ほどまでの冷ややかなものとは違い、「あのガレルトを論破した、一筋縄ではいかないパーティ」という興味の入り交じったものになっていた。
「ふん、相変わらず頭の固い男ね。でも、これで私たちの存在がこの街でも知れ渡ったわね」
シルビアが少し誇らしげに鼻を鳴らすと、レインは優しく微笑んでうなずいた。
「ありがとう、シルビアさん。さて、僕たちも負けていられないね。このメルトーナのギルドで、新しい依頼を探そうか」
『おーっ! どんなお仕事かな?』
ポルカがフワフワと喜び、ファルとフェリルもやる気満々の声をあげた。
商業都市メルトーナという新たな舞台で、強力な仲間たちと共に歩み始めたレインたちの、世界を変えるための次の物語が、今まさに大きく動き出そうとしていた。
後書き
第11話「商業都市メルトーナの賑わいと、新たな出会い」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ついに巨大な商業都市メルトーナに到着したレインたち。美味しい串焼きをめぐるほっこりした日常シーンや、シルビアの意外な一面、そしてギルドでのガレルトとの再会と一喝を描かせていただきました。賑やかさを増した最強パーティの絆が、メルトーナの街でさらに深まっていくエピソードになっていれば幸いです!
次回の第12話では、メルトーナでの本格的な新しいクエストの挑戦や、そこで待ち受ける新たな試練や出会いに繋がっていきます……!
ブックマークや評価、いいねなどをポチッと押していただけると、執筆のモチベーションがものすごく跳ね上がります!
それでは、第12話でお会いしましょう!




