第7話:初めてのクエストと、青い魔方陣の初陣
登場人物
レイン・アークライト
主人公。アークライト家を出奔し、ミニドラゴンのファル、ウルフのフェリルと共に新しい旅を続ける心優しき召喚師。力による支配を否定し、対等な絆を大切にする。
ファル
レインの相棒である手のひらサイズのミニドラゴン。臆病ながらも、フェリルと共にレインの戦いを支えようと成長を見せる。
フェリル
レインの新しい仲間である小さなウルフ。鋭い聴覚と嗅覚を持ち、索敵や危険察知でパーティに大きく貢献する。
ルーク(ベテラン冒険者)
オルテナの森の周辺で出会う、少し不器用だが根は悪くない他のパーティーの冒険者。
前書き
『使役を捨てた召喚師の成り上がり ~最準のミニドラゴンと、虐げられた仲間たちと歩む世界改革~』第7話をお届けします!
前回、冒険者ギルドでブロンズランクの登録を済ませたレインたち。周囲の冷ややかな視線やガレルトの侮辱を背に受けながらも、いよいよ初めてのクエスト(依頼)へと出発します。今回は、オルテナの森での「初陣」と、レインたちが編み出す「青い魔方陣」のコンビネーションが初めて本格的に炸裂するエピソードです。ぜひじっくりとお楽しみください!
オルテナの町の門をくぐり抜け、北方に広がる穏やかな森の小道を、レインの一行は軽やかな足取りで進んでいた。
頭上にはどこまでも澄み切った青空が広がり、木々の隙間からは心地よい初夏の風が吹き抜けている。昨日までの重苦しいギルドの空気や、周囲から浴びせられた冷笑が嘘のように、あたりには静かで平和な時間が流れていた。
「ふう、やっぱり町の外は空気が美味しくて落ち着くね」
レインが大きく背伸びをしながらそう呟くと、肩の上から『きゅっ!』と明るい声が返ってきた。
ファルはいつものようにレインの右肩を特等席にして、周囲の景色をキョロキョロと物珍しそうに眺めている。昨日ギルドで味わった緊張感はすっかり抜けたらしく、すっかりリラックスした様子だ。
そして、レインの足元では、フェリルがしっぽを軽く左右に揺らしながらトコトコと歩いていた。
フェリルは優れた嗅覚と聴覚を持っているらしく、森の草花の匂いや、遠くを飛ぶ小鳥の羽音に敏感に反応しながら、まるで先導するかのようにレインの少し前を歩いてくれている。
「フェリル、調子はどうだい?」
「くぅん……」
レインが声をかけると、フェリルは振り返って短く鳴き、再び前方をしっかりと見据えた。
ギルドで受けた初めてのクエストは、二つ。一つは、森の浅い場所で採取できる薬用植物「月光草」の採取。そしてもう一つは、最近その周辺で農地を荒らしている「小鬼」の群れの小規模な駆除だった。
どちらもブロンズランクの新人冒険者にとっては基本中の基本であり、誰もが最初にこなす「地味で簡単な仕事」とされている。
しかし、ガレルトのようなエリート召喚師や、他の手練れの冒険者たちからすれば、「あんな雑用、時間の無駄だ」「トカゲと犬を連れた奴にまともな戦闘なんて無理だから、せいぜい草むしりでもしてろ」と、鼻で笑われるような内容だった。
だが、レインはそんな評価など一切気にしていなかった。
どんなに小さな依頼であっても、一つひとつの命や暮らしを支える大切な仕事であることにかわりはないし、何より、自分とファル、そしてフェリルの三人が初めてチームとして連携を試すには、これ以上ない絶好の機会だったからだ。
「よし、まずは月光草の群生地が近くにあるはずだ。みんな、周りに気をつけながら進もう」
レインの合図に従い、一行は森の奥へと足を踏み入れていった。
しばらく歩くと、木漏れ日が心地よく差し込む開けた場所に到着した。そこには、ギルドの資料通り、淡い銀色の葉をつけた月光草がいくつも群生していた。
「あったね。これならすぐに集まりそうだ」
レインはしゃがみ込み、傷つけないように慎重に月光草の根元を掘り起こし始めた。
その傍らで、ファルが『僕も手伝うよ!』と言わばかりに、小さな前足で土をチョイチョイと掘る真似をして見せる。フェリルはその周囲に警戒を怠らず、低い姿勢で周囲の草むらを睨みつけている。
その時だった。
――ガサリ、と。
背後の茂みから、不気味で荒々しい物音が響いた。
「……っ!?」
レインは瞬時に手を止め、月光草をポケットにしまうと、反射的に立ち上がって腰の剣の柄に手をかけた。
フェリルが即座に敵の気配を察知し、「ヴルル……ッ!」と低く凄まじい威嚇の声を絞り出しながら、その茂みへと身構えた。ファルも、レインの首元から驚いたように体を乗り出し、警戒の色を強める。
草むらを掻き分けて姿を現したのは、緑色の醜い肌をした、人間よりも一回り小柄な魔獣――ゴブリンの群れだった。
全部で四匹。手には錆びた短剣や、木の棒を荒っぽく削った棍棒を握りしめている。その目は飢えと暴力性に満ちており、侵入者を見つけるやいなや、「ギィィッ!」と耳障りな奇声を発しながら一斉に飛びかかってきた。
「やっぱり、ゴブリンの群れがいたか……!」
一般の冒険者であれば、ここで剣を抜いて力任せに切り伏せるところだろう。
アークライト家のような血統であれば、圧倒的な高位の魔獣や強力な召喚獣を一瞬で呼び出し、周囲の景色ごとゴブリンどもを焼き尽くすような派手な手段をとるはずだ。
しかし、レインの選択は違った。
「ファル、フェリル、落ち着いて。僕たちの最初の連携を見せる時だ」
レインは慌てることなく、その場で両足をしっかりと開き、左手を地面に向けた。
彼の指先から、あの時と同じ、透明感のある美しい青い魔力が溢れ出す。
――力による支配ではない。信頼と絆で結ばれた者同士を繋ぐ、穏やかな青い魔方陣。
レインが地面に指を走らせると、瞬く間に鮮やかな青い光の陣が足元に広がった。
その魔方陣の輝きを浴びた瞬間、ファルとフェリルの体が一瞬だけ淡い光に包まれ、二人の動きが驚くほど軽やかに、そして研ぎ澄まされたものへと変わった。
これが、レインの編み出した「絆の召喚・支援魔法」だった。
契約獣を力で縛り付けるのではなく、召喚師の魔力を分け合い、互いの意思を完璧にシンクロさせることで、個々の戦闘力を何倍にも引き上げる技術である。
「ギィッ!」
先頭のゴブリンの一匹が、錆びた短剣を振り下ろしながらレインへと突進してきた。
「甘いね」
レインは身をかわすことなく、その場で右手を鋭く突き出した。
「フェリル、左側面から牽制を!」
「ワンッ!」
レインの指示を受けたフェリルは、矢のような速さで地面を蹴り、ゴブリンの死角となる左側へと鋭く飛び出した。その素早い動きと鋭い牙に、ゴブリンは思わずバランスを崩し、攻撃の軌道が大きくそれた。
「今だ、ファル!」
『任せてっ!』
レインの肩から飛び立ったファルは、小さな体躯を生かして空中をまるで弾丸のように鋭く滑空した。
まだ完全に空を飛べるわけではないが、青い魔方陣による魔力の補助を受けたファルは、驚異的な跳躍力とスピードを発揮していた。
ファルは小さな両足を揃え、突進してきた別のゴブリンの胸元へと見事にドロップキックを叩き込んだ。
「ぷぎゃっ!?」
予想以上の衝撃に、体格の勝るゴブリンはたまらず仰向けに吹っ飛び、地面に激しく背中を打ち付けて気絶した。
「すごいぞ、二人とも完璧なコンビネーションだ!」
レインは称賛の声を送りながらも、隙を見せた残りのゴブリンたちに対して、自らの手で最小限の魔力による拘束魔法を放った。
淡い青色の光の鎖が地面から伸び、暴れるゴブリンたちの足首を優しく、しかし確実に締め上げて動きを封じる。
暴力でねじ伏せるのではなく、無駄な殺生を避けて安全に無力化する。
それが、レインの選んだ戦い方だった。
わずか数合の交戦の末、四匹のゴブリンは全員が地面に組み伏せられ、暴れることもできなくなっていた。
周囲の森には再び静けさが戻り、木漏れ日が戦いの終わった場所を静かに照らし出している。
『きゅっ! やったね!』
ファルは地面に着地すると、得意げに小さな胸を張り、パタパタと尻尾を振ってレインの足元に戻ってきた。
フェリルも、戦闘の興奮が冷めたのか、優しく「くぅん」と鳴きながらレインの足元に体をすり寄せた。
「よくやったね、二人とも。怪我はないかい?」
レインが二匹の頭を優しく撫でてやると、二匹ともとても満足そうな、嬉しそうな表情を浮かべた。
ふと、物陰からその戦闘の一部始終を目撃していた人物がいたことに、レインは気づいた。
少し離れた大木の陰から、先ほどから森に入っていた別のベテラン冒険者――ルークのパーティの一人が、目を見開き、言葉を失ったような表情でこちらを見つめていたのだ。
彼らは、ゴブリンの討伐を横目で見つつ、「あの細腕の少年と、あんな小さなトカゲと犬じゃ、すぐにゴブリンに返り討ちにされるだろう」と高をくくって見物を決め込んでいたのだ。
しかし、実際に目の前で繰り広げられたのは、巨大なモンスターで押し潰すような荒っぽい戦闘ではなく、見事なまでに息の合ったチームワークと、見たこともない美しい青い魔方陣による洗練された連携戦術だった。
「おい……いまの見たか? あのガキ、魔法陣の光が赤くなくて……青かったぞ……?」
「あんな小さな魔獣を連れてるのに、なんであんなに動きがキビキビしてやがるんだ……?」
木陰から聞こえてきた驚愕のヒソヒソ声を耳にしながら、レインは静かに立ち上がり、相棒たちを優しく抱き寄せた。
世間の人々や他の召喚師たちは、まだ知らない。
力で支配し、恐怖で従えるだけの古いやり方だけが、この世界のすべてではないということを。
そして、この小さく頼りなげに見える落ちこぼれの少年と仲間たちが、いつか世界を根底から変えていく存在になるということを、この時の彼らはまだ誰も知る由もなかったのだ。
「よし、依頼の品も集まったし、ゴブリンの討伐も完了だ。町に戻ろうか、二人とも」
『きゅぁーい!』
『ワンっ!』
賑やかな鳴き声を響かせながら、レインと二匹の相棒は、充実感に満ちた足取りでオルテナの町へと帰路についたのだった。
後書き
第7話「初めてのクエストと、青い魔方陣の初陣」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ついに迎えた初めてのクエストと、レインたちの「青い魔方陣」による初陣を描かせていただきました。ファルとフェリルの見事なコンビネーションや、力に頼らないレインの優しい戦い方がしっかりと伝わっていれば幸いです。周囲の冒険者たちも、少しずつレインたちの異質で素晴らしい実力に気づき始めましたね……!
次回の第8話では、クエストの報告を終えたギルドでの思わぬ反響や、さらに新しい出会い、そして物語を大きく動かす新たな仲間(あるいは事件)との遭遇に繋がっていきます!
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それでは、第8話でお会いしましょう!




