第6話:冒険者ギルドの洗礼と、冷徹なエリート
登場人物
レイン・アークライト
主人公。アークライト家を出奔し、ミニドラゴンのファル、ウルフのフェリルと共に新しい旅を続ける心優しき召喚師。力による支配を否定し、対等な絆を大切にする。
ファル
レインの相棒である手のひらサイズのミニドラゴン。好奇心旺盛でお兄ちゃん風を吹かせつつ、ギルドの物々しい雰囲気に少し緊張している。
フェリル
レインの新しい仲間である小さなウルフ。鋭い感覚を持ち、レインの足元で周囲の様子を警戒しながらも、主人の心を支えている。
ガレルト
オルテナの町で出会った、魔獣を道具として荒々しく扱う高慢な若い召喚師。ギルドでもその特権意識を隠さない。
ギルドの受付職員
オルテナの冒険者ギルドで働く女性職員。実力主義の世界に身を置いており、最初はレインの一行を冷ややかに見なす。
前書き
『使役を捨てた召喚師の成り上がり ~最弱のミニドラゴンと、虐げられた仲間たちと歩む世界改革~』第6話をお届けします!
前回、最初の大きな町「オルテナ」に到着したレインたち。高慢な召喚師ガレルトとの遭遇を経て、いよいよ彼らが次に向かったのは、冒険者としての第一歩を踏み出す「冒険者ギルド」でした。世間の冷たい現実や、ガレルトとの再会、そして彼らの新しい挑戦を描く重要なエピソードです。ぜひじっくりとお楽しみください!
オルテナの町の中心部に位置する「冒険者ギルド」は、頑丈な丸太と石材を組み合わせて建てられた、非常に重厚感のある巨大な建物だった。
分厚い木の扉の前には、依頼を求めてやってきた屈強な冒険者たちがひっきりなしに出入りしており、周囲には常にピリピリとした緊迫感と、モンスター素材特有の独特な臭いが漂っている。
「ここが、オルテナの冒険者ギルドか……」
レインは建物の前で一度足を止め、深く息を吸い込んだ。
肩の上では、ファルが物珍しそうにあちこちをキョロキョロと見回し、レインの首元に前足をちょこんと乗せている。『きゅ……なんだか、ここはいろんな人がいて騒がしいね』と言いたげな表情だ。
そして足元では、フェリルがピンと耳を立て、ギルドから出入りする人間たちの殺気や喧騒を鋭い感覚で警戒するように、低く息を潜めていた。
「大丈夫だよ、二人とも。僕たちは登録手続きをして、当面の活動資金を稼ぐための依頼を探しに来ただけだからね。しっかり僕についておいで」
レインが優しく声をかけると、ファルは安心したように小さく鳴き、フェリルも尻尾を軽く振って従う姿勢を見せた。
二人の相棒の信頼を感じ取りながら、レインは重い木の扉を押し開き、ガヤガヤと活気に満ちたギルドのホールへと足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れた瞬間、膨大な数の冒険者たちが発する熱気と、酒の匂いが鼻腔をくすぐった。
中央には巨大な掲示板がいくつも設置され、その周囲には多くのパーティが群がって新しい依頼書を見比べている。カウンターのほうからは、酒を飲む豪快な笑い声や、昨日の成果について言い争う怒声が入り交じって響いていた。
レインの一行がホールに現れた瞬間、周囲の空間がわずかに静まり返ったような気がした。
それも無理はない。屈強な戦士や手練れの魔法使い、大型の魔獣を従えたテイマーたちがひしめくこの場所に、手のひらサイズのミニドラゴンを肩に乗せ、小さなウルフの子供を連れた少年がふらりと現れたのだから。
「おい、あれを見ろよ……」
「新入りか? それとも、どこかの貴族の坊っちゃんが遊び半分で見学にでも来たのか」
「おいおい、あんなトカゲと野犬を連れて、ここをどこだと思ってやがるんだ。モンスターの餌食になりに行くようなもんじゃないか」
あちこちから、呆れたような、あるいは値踏みするような冷ややかな笑い声が聞こえてきた。
だが、レインは周囲の雑音を一切気に留めることなく、まっすぐ正面にある受付カウンターへと歩みを進めた。古い因習に縛られていたアークライト家に比べれば、この程度の世間の冷笑など、吹けば飛ぶような微風にすぎなかった。
カウンターの前に立つと、事務的な眼鏡をかけた女性の受付職員が、冷ややかな、しかし仕事熱心な目をレインに向けた。
「いらっしゃいませ。ここは冒険者ギルドの登録および受付窓口ですが……お客様、もしや新規の登録でしょうか?」
「はい。冒険者として登録し、依頼を受けたいのですが手続きをお願いできますか?」
レインが穏やかな口調でそう告げると、職員の女性はふうと小さく息をつき、手元の分厚い台帳と、レインの肩の上にいるファル、そして足元にいるフェリルを交互にじろりと見据えた。その瞳には、あきらかに「また冷かしの素人が来たのか」という面倒くさそうな色が浮かんでいた。
「……承知いたしました。ですが、当ギルドの規約により、冒険者として登録するには最低限の戦闘能力、あるいはそれに準ずる契約獣の証明が必要となります。お客様が連れているそちらの……ええと、ミニドラゴンと小犬のような魔獣ですが」
職員の女性は言葉を濁し、わずかに眉をひそめた。
「彼らがあなたの契約獣(あるいは召喚獣)ということで間違いありませんか?」
「ええ、間違いありません。こちらのミニドラゴンが『ファル』、こちらのウルフが『フェリル』です。どちらも大切な私の相棒です」
レインが誇らしげに、しかし温かい笑みを浮かべてそう答えると、カウンターの周辺にいた他の冒険者たちから「おいおい、相棒だってよ」「冗談だろ、あれじゃウサギ一匹狩れねぇぞ」と、噴き出すような笑い声が漏れた。
職員の女性も、困ったような顔をして首を横に振った。
「お客様。私どもも商売ですのでお止めはしませんが……正直に申し上げまして、その戦力ではオルテナ周辺の森や平原に生息する低ランクのゴブリンや野良魔獣と遭遇しただけでも、命の保証はありません。登録自体は最低ランクの『ブロンズ』から可能ですが、無謀な依頼を受けて命を落とされても、ギルドとしては責任を負いかねますよ」
その忠告は、彼女なりの善意の警告だった。この世界の常識において、戦闘用として役に立たない魔獣を連れた召喚師は、ただの「死に急ぐ素人」でしかなかったからだ。
しかし、レインの意志が揺らぐことはなかった。
「忠告ありがとうございます。ですが、僕たちは僕たちのやり方でしっかりとやります。登録をお願いします」
そのまっすぐで淀みのない瞳を見た職員の女性は、これ以上何を言っても無駄だと悟ったのか、やれやれといった様子で登録用紙と魔力を読み取るための魔導プレートを差し出した。
「……わかりました。では、誓約書に署名を。名前と、主な戦闘スタイル……あなたの『職業』は何と記載しますか?」
「職業は、『召喚師』でお願いします」
レインがハッキリとそう告げた瞬間、カウンターの奥から、聞き覚えのある嫌味な笑い声が響いてきた。
「はっ! 召喚師だと? 笑わせるなよ!」
その声に導かれるように、周囲の冒険者たちがパッと道を空けた。
そこから歩いてきたのは、先程(第5話で)大通りですれ違ったばかりの、豪華な装飾をまとった高慢な若い召喚師――ガレルトだった。ガレルトは相変わらず巨大なオークを引き連れており、レインを見るなり、これ以上ないほどの侮蔑の色を顔全体に浮かべた。
「お前、さっき大通りで気味の悪いトカゲを連れてイキがっていたガキじゃないか。まさか、本気でここで冒険者登録でもするつもりだったのかよ!」
ガレルトの言葉に、周囲の冒険者たちも「なんだ、あいつの知り合いか?」「おい、あのガレルト様が相手にしてるぞ」と、さらに興味深そうに野馬の輪を広げた。
ガレルトは鼻で笑いながら、レインの目の前まで歩み寄ると、自分の連れている圧倒的な巨体のオークを自慢げに一瞥させた。
「見ろ、これが本物の召喚師の戦力だ。強力な魔獣を屈服させ、恐怖で縛り上げてこそ、この世界の召喚師としての価値がある。お前みたいな、トカゲの赤ちゃんみたいな雑種をチヤホヤして『相棒』などと寝言を抜かしている落ちこぼれには、一生かかってもこの境地は理解できまいよ」
ガレルトの周囲にいた取り巻きの冒険者たちからも、「そうだそうだ!」「お遊びならお家へ帰ってその魔獣たちと冒険者の真似事をしてな!」と、嘲笑のやじが浴びせられた。
普通の人間であれば、ここで怒りに任せて掴みかかろうとするか、あるいは悔しさに涙を流して逃げ出していただろう。
しかし、レインはガレルトの顔を冷ややかな、しかしどこか憐れむような目で静かに見つめ返すだけだった。
『……きゅっ』
レインの肩の上で、ファルが不安そうに小さな声を漏らし、レインの首元にピタリと身を寄せる。
そして足元では、フェリルがガレルトの威圧的なオークに向かって、低い唸り声をあげながら全身の毛を逆立てて威嚇していた。
「……言うべきことはそれだけかい、ガレルト」
レインは微動だにせず、透き通るような穏やかな声で言い放った。
「なんだと?」
ガレルトの顔に、わずかに不機嫌な険しさが走る。相手が怯えたり怒ったりする反応を期待していただけに、レインのあまりにも冷めた態度が逆に腹立たしかったのだろう。
「力で縛り、恐怖で従わせるしか方法を知らない君に、僕たちの絆の形を理解しろとは言わないさ。ただ――どちらが本当に強いのかは、言葉ではなくこれからの結果が証明してくれるはずだ」
レインのその静かで、しかし揺るぎない自信に満ちた言葉に、ガレルトはわずかにたじろぎかけたが、すぐに顔を真っ赤に怒らせて吐き捨てた。
「ほう……! 負け犬の遠吠えもそこまでだな! ほざくなよ、どうせ次の初級クエストの帰りに、どこかのゴブリンの餌食になって泣きついてくるのがオチだ。せいぜい、そのみすぼらしいトカゲと一緒に犬死にしないことだな!」
ガレルトは吐き捨てるようにそう言い放つと、ふん、と大きく鼻を鳴らし、オークを引き連れてギルドの奥へと去っていっていった。
その騒動のあと、ギルドのホールにはわずかな静寂が戻ったが、周囲の冒険者たちからの見る目は依然として「あいつはすぐに死ぬだろう」という冷ややかなものだった。
受付の女性職員は、複雑な表情を浮かべながらも、レインの魔導プレートの手続きを淡々と進めた。
「……手続きは完了しました。こちらがあなたの冒険者プレートです。ランクは一番下の『ブロンズ』となります。受けられるのは、薬草採取や簡単な害獣駆除などの初級クエストのみです。くれぐれも、無理はしないようにしてくださいね」
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」
レインは差し出された真新しいブロンズのプレートを受け取り、しっかりとポケットにしまった。
周囲からの冷たい視線、ガレルトのような傲慢な召喚師からの侮蔑、そして無謀だという冷徹な現実。それらはすべて、彼らの前途多難な旅路の厳しさを物語っていた。
しかし、レインの胸にあったのは絶望ではなく、むしろこれから始まる本当の戦いに対する静かな闘志だった。
(力による支配しか知らない彼らに、僕たちの「対等な絆」がどれほど強いものか、いつか必ず証明してみせる)
レインはファルを優しくなで、フェリルの頭をポンと叩いてから、掲示板のほうへと向き直った。
「さて、それじゃあ最初の依頼を選ぼうか。二人とも、準備はいいかい?」
『きゅあっ!』
『ワンっ!』
ファルとフェリルがそれぞれ元気よく応え、レインの新しい冒険者としての第一歩が、いよいよ本格的に幕を開けたのだった。
だが、彼らがまだ気づいていないのは、このギルドの隅で、そのやり取りをじっと観察していた「もう一人の人物」がいたことだった――。
後書き
第6話「冒険者ギルドの洗礼と、冷徹なエリート」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
いよいよオルテナの冒険者ギルドに登録したレインたち。そこでは、世間の冷たい現実や、高慢なエリート召喚師ガレルトとの再会が待ち受けていました。周囲の冷笑を浴びながらも、自分の信念を曲げずに一歩を踏み出すレインの姿や、ファル・フェリルの可愛らしくも頼もしい成長を描かせていただきました。
次回の第7話では、いよいよ初めてのクエスト(依頼)に出発し、レインたちが「絆の青い魔方陣」を使った鮮やかなコンビネーション戦闘を初めて披露することになります……!
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それでは、第7話でお会いしましょう!




