第3話:森の出会いと、小さな仲間
登場人物
レイン・アークライト
主人公。アークライト家を飛び出し、ミニドラゴンのファルと共に旅をする心優しき少年。モンスターを力で支配するのではなく、「対等な仲間」として接する。
ファル
レインの相棒である手のひらサイズのミニドラゴン。臆病だが、自分よりさらに怯えている小さな生き物と出会い、少しずつお兄ちゃんのような自覚と優しさを芽生えていく。
フェリル
森の中でレインたちが遭遇した、小さなウルフ系の魔獣の子供。「攻撃力が低い」「役に立たない」という理由で前の召喚師に捨てられ、人間に深い恐怖を抱いていたが、レインたちの温かさに触れて仲間となる。
前書き
『使役を捨てた召喚師の成り上がり ~最弱のミニドラゴンと、虐げられた仲間たちと歩む世界改革~』第3話をお届けします!
前回、アークライト家を出奔して初めての野営を行ったレインとファル。今回は、その夜の森で待ち受けていた「最初の出会い」を描きます。作品のテーマである「虐げられたモンスターとの絆」が本格的に動き出す大切なエピソードですので、ぜひじっくりとお楽しみください!
パチパチと乾いた薪が爆ぜる音が、静まり返った夜の森に響いていた。
赤々と燃え盛る焚き火の光が、周囲の闇を温かく照らし出している。その光景は、先ほどまでの緊張感を少しだけ和らげてくれるようだった。
「――っ!?」
しかし、遠くの草むらから聞こえた不穏な物音に、レインは反射的に身構えた。
腰に帯びた剣の柄に右手を添え、慎重に音の主を探るように視線を鋭くさせる。この辺りは夜になると凶暴な野良魔獣が活動を始める危険地帯だ。一族の過酷な訓練で培った戦闘勘が、レインの全身の神経をピリピリと逆立てていた。
『ぴ、きゅ……っ!』
レインの足元にいたファルも、ただならぬ気配を察知したのか、恐怖で全身の羽毛を逆立て、レインのブーツにしがみつくようにしてブルブルと小刻みに震え出した。大聖堂で浴びせられた怒号のトラウマがまだ残っているのか、脅威を前にするとどうしても体がすくんでしまうらしい。
「大丈夫だ、ファル。僕がついてる」
レインは低い、しかし落ち着いた声で相棒を安心させながら、一歩だけ音のした方へと踏み出した。
もし凶暴な魔獣が襲いかかってくるなら、力づくではなく、最小限の牽制で追い払わなければならない。アークライト家のような「叩き潰すための暴力」は使わないと、レインは心に誓っていたのだから。
ガサリ、と再び草木が大きく揺れた。
そして、闇の向こうから、何か小さな影がよろよろと姿を現した。
「……ん?」
レインは思わず、構えていた剣の力を緩めた。
そこにいたのは、牙を剥き出しにして襲いかかってくるような恐ろしい巨獣などではなかった。
体長は四十センチほど。灰色の柔らかな毛並みをしているが、その体はあちこちが泥まみれで、左の耳のあたりには鋭い刃物ででも斬られたような痛々しい古い傷跡が残っていた。まだあどけなさが残る、ウルフ系の魔獣の子供だった。
しかし、その目は恐怖と飢えに怯え、人間を見るなり「殺される」と言わんばかりに、その場にへたり込んでガタガタと震えている。
(これは……捨てられた魔獣か?)
レインはすぐに察した。
この傷、そしてこの痩せ細った体。人間たち――おそらく他の身勝手な召喚師たちに、「戦力にならない」「役立たずの落第品だ」と見なされ、使い捨てられた挙句にこの深い森へ放り出されたのだ。自分自身がアークライト家から「落ちこぼれ」として追放された境遇と重なり、レインの胸がチクリと痛んだ。
「怖がらなくていい。何もしないよ」
レインは音を立てないようにゆっくりと膝をつき、両手を地面につけた。敵意がないことを示すために、ゆっくりと手のひらを上に向けて見せる。
だが、人間に対してよほど酷い扱いを受けてきたのだろう。小さなウルフは「ヴ……ッ」と掠れた威嚇の声を絞り出しながら、後ろへ下がろうとしてバランスを崩し、その場に倒れ込んでしまった。もう立ち上がるだけの気力も体力も残っていないようだった。
その様子を、レインの背後から、おそるおそる見つめている影があった。
ファルだった。
『……きゅ?』
ファルは、自分の足にしがみついていた恐怖を忘れ、ぴくりと耳を動かした。
目の前で倒れている小さなウルフの姿が、つい数時間前、大聖堂の魔法陣の端で怯えて縮こまっていた「あの時の自分」と重なって見えたのだ。
誰も助けてくれない。冷酷な目で見下され、見捨てられる恐怖。あの時、レインが差し伸べてくれた温かい手がどれほど救いだったか。
『きゅっ……!』
ファルは小さな翼をパタパタと動かすと、レインの足元から離れ、トコトコとその小さなウルフへと歩み寄っていった。レインが「ファル、危ないかもしれないから離れていろ」と声をかける間もなく、ファルは傷だらけのウルフの目の前にちょこんと歩み寄った。
ウルフはびくっと体を跳ねさせ、弱々しく牙を剥こうとしたが、ファルはまったく怯えなかった。
むしろ、ファルは自分のポケットのあたりから、先ほどレインにもらった干し肉の切れ端を一生懸命にくわえ出し、それをトコトコとウルフの鼻先へと差し出したのだ。
「……ファル」
レインは目を見開いた。いつもは物音ひとつですぐに自分の影に隠れようとする臆病な相棒が、自分よりさらに傷ついた別の命を前にして、自ら歩み寄り、分け与えようとしている。その健気で優しい成長に、レインは胸が熱くなるのを覚えた。
ウルフは差し出された干し肉と、目の前にいる不思議なミニドラゴンを交互に見つめた。
しばらくの沈黙のあと、お腹の限界が勝ったのか、あるいはファルから発せられる敵意のない温かい気配を感じ取ったのか、ウルフは小さく鼻を鳴らすと、ガツガツと夢中で干し肉を頬張り始めた。
『きゅっ! もっとあるよ!』と言わんばかりに、ファルは自分の尻尾をパタパタと嬉しそうに振った。
「ふっ、君は本当に優しいな、ファル」
レインは優しい笑みを浮かべながら立ち上がり、持参していた水筒の水を取り出した。綺麗な布に水を含ませ、ゆっくりとウルフに近づく。今度はウルフも逃げ出そうとはせず、ただ怯えながらもレインの動きを見つめていた。
レインは優しく声をかけながら、ウルフの泥だらけの毛並みを拭い、乾いた傷口を丁寧に手当てしてやった。
力で服従させる契約の魔法など、ここには存在しない。あるのは、ただ純粋な「思いやり」と「優しさ」のキャッチボールだけだった。
治療が終わると、ウルフはすっかり安心したのか、その場で小さく丸くなり、うとうととまどろみ始めた。もう人間に怯える必要はないと本能で理解したのだろう。
「行き場がないなら、うちに来るかい? ……そうだね、君の名前は『フェリル』にしよう」
レインがそう告げると、ファルは『ふぇりる? うん、いい名前!』とでも言うように、高く可愛らしい鳴き声をあげた。
フェリルと名付けられた小さなウルフは、まるでその名を受け入れたかのように、ファルの隣にピタリと体を寄せて眠りについた。
パチパチと燃える焚き火の光が、一人と二匹の小さな家族を温かく包み込んでいく。
力による支配を絶対とする世界から逃れてきた者たちが、こうして小さな焚き火の周りで手を取り合っている。それは、世界を大きく変えていく改革の、あまりにも小さく、しかし確かな第一歩だった。
夜は深く更けていき、明日はどんな出会いが待っているのか。
レインの胸には、不安よりも遥かに大きな、温かい期待と決意が満ち満ちていた。
第3話「森の出会いと、小さな仲間」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ついに最初の仲間である小さなウルフ「フェリル」との出会いが描かれました。臆病だったファルがフェリルに優しく接する姿や、レインの優しさが通じ合う心温まるエピソードになっていれば幸いです。
これで「レイン」「ファル」「フェリル」の旅の仲間が揃い、物語はいよいよ次の舞台、最初の町や人々とのドラマへと進んでいきます!
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それでは、第4話でお会いしましょう!




