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混沌の神の再生  作者: 桐ヶ谷本真志
最強ではないが、着実に強くなっている。
9/16

月を切り裂く嵐

カン——


クラウディアの刃が空気を切り裂く。速く、正確に。


だがアベルは動かない。


剣が首の数センチ手前まで迫った瞬間、彼はわずかに首を傾けた。刃は髪の毛一筋の距離で彼をかすめて外れる。


クラウディアの目が見開かれる。


遅い。


その思考は本能的に浮かび、彼女自身を苛立たせた。


カン!


剣と剣が衝突する。しかしアベルの一撃に込められた力は彼女の腕に衝撃を走らせ、一歩後退させた。


「……何?」


彼女の握力が強まる。


普通じゃない。夢の中ですら、こんな動きをする相手はいなかった。こんな反応はしない。


これは単なる技術じゃない。本能——恐ろしく研ぎ澄まされた本能だ。


アベルは彼女を静かに見ていた。その立ち姿、呼吸、目の鋭さ、そのすべてを観察している。夢の中であっても、クラウディアはクラウディアのままだ。


「予想通りだな」


彼は呟いた。


クラウディアは眉をひそめる。その声……アベルに似ているが、もっと年上で、冷たい。


彼女は躊躇しない。


踏み込む。


カン! カン! カン!


剣戟が繰り返され、その音が虚空に響き続ける。クラウディアの攻撃は無駄がなく致命的。しかしアベルは最小限の動きで全てを捌き、ほとんど力を使っていないように見えた。


無駄な動きはない。隙もない。


クラウディアの速度が上がる。攻撃はより鋭く、より予測不能になる。


それでも——当たらない。


思考が加速する。


どうして届かない?


彼女は途中で動きを変え、斬撃をフェイントにして心臓へ突きを放つ。


アベルは横に一歩ずれる。


カチッ。


刃が逸らされ、その流れのまま彼の剣が彼女の首に軽く触れた。


一撃必殺。


クラウディアは固まる。


「……私が、負けた?」


信じられないという声だった。


彼女は一度も負けたことがない。


アベルは剣をわずかに下ろす。「躊躇している」


彼女は顔を上げる。「躊躇?」


「考えすぎだ。剣は鋭いが、頭が鈍い」


「……意味が分からない」


「分かるさ」彼は静かに言う。「お前は勝つことに慣れている」


沈黙が落ちる。


虚空そのものが重くなったような感覚。


クラウディアは一歩踏み出す。その瞬間、彼女のオーラが立ち上る——冷たく、鋭く、圧迫するように。


「本気を出す理由が今までなかっただけよ」彼女は言う。「今、それをくれてありがとう」


氷が足元に広がり、ひび割れながら外へと伸びていく。


アベルの目がわずかに光る。ようやくか。


[スキル検知:ムーンブレード]


「……新しいな」


アベルが呟いた。


温度が一気に下がる。クラウディアの剣に氷がまとわりつき、淡い青の光が彼女の体を包む。


彼女は息を吐く——


そして消えた。


カン!!!


空中で剣が激突し、爆発的な衝撃波が虚空を揺らす。アベルはわずかに後退し、頬に細い傷が走る。


一滴の血が落ちる。


クラウディアはそれを見つめた。


「……当てた」


信じられない声。


アベルは頬に触れ、血を見てから静かに笑った。「……それでいい」


久しぶりに、彼のマナが漏れ出す。


黒い。重い。圧倒的な気配。


虚空そのものが震えた。


クラウディアの本能が叫ぶ。危険だ。


彼女は跳ぶように後退する。その瞬間、アベルが目の前に現れる。彼女の認識を遥かに超える速度。


カン!


ギリギリで防ぐ。しかし衝撃で地面に叩きつけられ、足元がガラスのように砕ける。


彼女は咳き込みながら体勢を整える。「……何なの……これ……」


夢じゃない。これは夢じゃない。こんな感覚は夢ではありえない。


アベルは彼女の上に立ち、少しの沈黙の後に言う。


「挑戦が欲しかったんだろう?」


彼女の呼吸が止まる。


その声……聞き覚えがある。あまりにも。


目がわずかに見開かれる。「……アベル? 本当にあなた?」


アベルの表情は変わらない。しかし内側で何かが動いた。


気づかれている。


想定外だ。


クラウディアはゆっくり立ち上がる。剣はわずかに震えている。「……あなたは誰?」


虚空が一瞬だけ揺れる。


それは微細だが、確かに起きた変化。


遠く現実世界で、ルシウス・モーニングスターは窓から離れ、眉をひそめる。


「……奇妙だな」


空気中のマナが変わった。一瞬だけだが、確かに感じた。


虚空へ戻る。


アベルは静かに息を吐く。これはまずい。


だが止めない。


彼は再び剣を構える。


「……終わらせろ」


クラウディアは彼を見つめる。心臓が高鳴る。理性は疑い、直感は警告する。それでも——彼女は笑う。


剣を握り直す。「やっと本物っぽくなってきたじゃない」


氷が再び広がる。空間が圧迫される。


二つの存在が向かい合う——真実を隠す者と、それに気づきかける者。


そして動いた。


カン!!!


カン!!!


衝突が響き、クラウディアの剣がアベルに弾かれ、腕に衝撃が走る。その事実だけで十分だった。この相手は普通じゃない。強いだけではなく、制御されている。精密で危険だ。


冷気が剣に集まる。「……なら、手加減はしない」


氷が刃にまとわりつき、オーラが高まる。彼女は踏み込む。その動きは滑らかで、まるで見えない流れに導かれているようだった。


「ルナ・ゲイル・セヴァランス」


剣が弧を描く。一瞬は単純に見える——だが風が追従する。冷たい不可視の力が刃に巻きつき、空気を歪めながら加速する。


カン!


アベルは防ぐ。しかし接触した瞬間、風が彼の防御を抜け、脇腹を切る。細い血の線。冷気が傷に残り、動きをわずかに鈍らせる。


彼は一歩下がる。


『これが彼女の型か』


クラウディアは止まらない。流れるように次の攻撃へ。


カン! カン! カン!


刃が途切れない流れのように動く。アベルは最小限の動きで捌くが、完全ではない。今度は腕に浅い傷。さらにもう一つ。


クラウディアは目を細める。『届いてる……でも足りない』


構えが変わる。流動性が消え、より鋭く、意図的になる。踏み込みを変える。


今度は待つ。


アベルが動く。剣が落ちる。


クラウディアの目が鋭くなる。今。


「ルナ・カタクリズム:シャッター・リバーサル」


カン!


剣が交わり、その瞬間、彼女は精密に三度打ち込む。防御ではない。崩しだ。


アベルの剣が僅かにずれる。


それだけでいい。


クラウディアは踏み込み、全てを込めて次の一撃を放つ。


カン!!!


鋭い亀裂音と共にアベルが押し返される。


「……取った」


だがその言葉は言った瞬間に違和感を持った。


アベルは立っている。圧されてもいない。驚きもない。むしろ——興味。


「……いいな」


空気が変わる。


彼が一歩踏み出し——消えた。


クラウディアの目が見開かれる。速すぎる。


振り返る。


カン!!!


衝撃で剣が弾かれ、地面に叩きつけられる。腕が震える。回復する前に次の一撃。


また一撃。


カン! カン! カン!


一撃ごとに重く、速くなる。後退を強制される。呼吸が乱れる。


『適応している……』


いや——最初から抑えていた。


その事実が最も重い。


彼女は歯を食いしばる。「まだ終わってない——」


言葉が途切れる。


アベルが止まっていた。


剣をわずかに下ろし、静止している。


そして風が集まる。


暴風ではない。圧縮された制御された風。刃に絡み、鋭く研ぎ澄まされる。背後に虎のような気配が形を成し、虚空を震わせる。


クラウディアの体が固まる。


動けない。


「……何それ……」


アベルは剣を上げる。


「テンペスト・アーツ」


風が唸る。


「ホワイトタイガー・スラッシュ」


動いた。


その瞬間、目の前の全てが消えた。音も抵抗もない。ただ一つの絶対的な斬撃。


クラウディアの視界が白く染まる。


彼女は目を見開いたまま息を吸い、現実世界の部屋で目を覚ました。全身が汗で濡れている。心臓が激しく鳴る。


「……何だったの……」


夢にしては、あまりにも現実すぎた。


視線がゆっくりとドアへ向く。


——


廊下に立ちながら、私は独り言を呟く。


「……思っていたよりギリギリだったな」


危険だったのは事実だが、それ以上にクラウディア自身が予想より遥かに強かった。


拳を握る。


認めたくはないが、今のままの俺では、神々の中で最弱にすら勝てないだろう。


自分の部屋へ向かい、ドアを開けて中に入り、後ろで静かに閉めた。

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