どうやって私は彼に勝てたんだろう?
朝の光が中庭に差し込む中、クラウディアと俺はいつも通り訓練している。
カン。カン。
俺たちの剣は一定のリズムでぶつかり続ける。クラウディアは今日は鋭い。動きが綺麗で、昨日よりも集中している。昨日と違って、今日は笑っている。
「本当はもっとできるでしょ。証明してみなさい」と彼女は一歩踏み込みながら言う。
カン。
俺は彼女の一撃を受け止めて弾き返す。「そんなことない」と言う。
彼女はためらわず、すぐに次の攻撃に繋げる。「あるわよ」と彼女は言う。「あなたには無限の可能性があるんだから、自分が何者か見せてみなさい。」
なんで急にこんなことを?
俺は一歩下がって彼女の刃を避ける。彼女は俺を見て目を細める。
「動きが安定しすぎてる」と彼女は続ける。「持ってる力を全部使ってない。」
カン。
俺はまた防ぐ。「今日はどうしたんだ?」
彼女は小さく息を吐く。「別に。」
しばらく続けた後、彼女はようやく剣を下ろす。「今日はここまで。」
俺は少し力を抜いて息を吐く。「ああ」と言い、そのまま地面に倒れ込む。
彼女は少しだけ俺を見ると、振り返って屋敷の方へ歩いていく。
俺はしばらくその背中を見て、それから自分の手に目を落とす。昨日から様子が違う。
これはよくない。
その夜、屋敷は静まり返っている。皆が眠っている中、俺はベッドに座って考えている。ホワイトタイガースラッシュを使ったせいで体がまだ少し痛むし、マナも完全には戻っていない。あの技は思った以上に負担が大きかった。
俺は一度目を閉じる。今必要なのは力じゃない。制御だ。今は制御の方が重要だ。
目を開けて立ち上がる。「マリク」と小さく呼ぶ。
「うん。」
声が頭の中に響く。
「これから何かやる。」
「何を?」
「役に立つこと。」
俺は部屋を出て、誰もいないことを確認してから戻り、ドアを閉める。
一息ついて、ドメインを発動する。部屋が消え、いつもの空間に置き換わる。壁も床もない、静かな虚無。
【スキル:無限領域 発動】
俺はそこに立ち、集中する。「準備しておけ。」
手を少し上げてエネルギーを集め始める。今回はただの身体を作るわけじゃない。マリクとの戦いの後にシステムが与えたスキルを使う。
【スキル:魂転換 発動】
最初は仕組みがよく分からなかった。システムはただ解放しただけで、説明はなかった。このドメインの中で何度も試して、ようやく理解した。
これは魂を形に結びつける技だ。気を媒介にして繋げる。魂を壊したりコピーしたりするわけじゃない。ただ導いて固定する。そして一度結びつけば、その構造に従い、俺に応じる。
俺はもう一度手を上げる。「集中しろ。」
まず身体を作る。気で全体を支え、魂が入っても崩れないように安定させる。
その後、マリクの魂を呼び出す。紫に輝く球体として、俺の作った器の上に浮かぶ。
それを一気に身体の中に押し込み、完全に結びつける。
「…待て。」
マリクの声が変わっている。前より若く、ずっと人間らしい。
身体が安定していくのを見守る。白い髪が肘のあたりまで伸び、紫の目が開く。違和感のあった気配は消えている。完全に一つにまとまっている。
俺は小さく息を吐く。「…ああ。これでいい。」
俺は彼を見る。「これがお前の体だ。」
「つまり、完全に入ったってことか?」
「ああ。」
彼は指を動かし、肩を回して確認する。動きは滑らかで自然だ。
「他の影の連中にもやっておけばよかったな。こんな能力が手に入るって分かってたら、もっと魂を抜いておいたのに。」
だが今さらどうにもならないので、気にしないことにする。
【通知】
【名前を付与できます:____】
「名前か。」
「名前?」
「ああ。」
「人間の姿につける名前だな。」
少し考えて…決めた。
「シロ。」
【名前を付与します:シロ】
マリクが繰り返す。「シロ。」
俺は頷く。
「いい名前だな」と彼は言う。
「気に入れよ」と俺は返す。
俺は少し体を向け、剣を作り出す。「この体で戦えるか見てみたい。」
マリク——いや、シロは剣を見てから俺を見る。「今か?」
「今だ。」
彼は剣を取る。その瞬間、姿勢が変わる。
剣を使う戦い方はまだ見たことがない。
俺も剣を構える。彼も同じように構える。
「待て」と俺は言う。
ポーションを取り出し、一気に飲み干す。
【通知】
【マナが回復しました】
【MP:2300/2300】
これが俺のマナの正確な数値を見る初めてかもしれない。
俺はシロに向き直る。
「ヴァイレオン。」
体が大きくなり、身長と体格が変わる。完全に同じではないが、ほぼ並ぶ。
「これで差は埋まる。」
互いに見合う。
そして同時に踏み込む。
虚無が果てしなく広がる中、音もなく静まり返っている。
カン。
剣がぶつかる。だが手応えがない。俺の攻撃は最初から逸らされていたかのように外れる。
…何だ?
もう一度踏み込む。
カン。カン。カン。
角度を変え、速度を変え、リズムを崩す。
意味がない。
すでにそこにいる。
反応でも予測でもない。
ただ、そこに置いている。
「…何なんだこれは。」
答えはない。
彼が前に出る。
カン。
軽く触れるだけで体勢が崩れる。足が一瞬滑る。すぐに引く。
握りを強くして再び攻める。
カン。カン。カン。
一瞬だけ押せた気がする—
カン—
止まる。
刃が手首に触れている。
あと一歩で—
「力が足りない」と彼は言う。
俺は引く。「力が全てじゃない。」
彼が動く。
カン。
綺麗な一撃。受け止めるが衝撃が腕を抜ける。すぐに次が来る。
カン。カン。
速さでも力でもない。
正確さ。
全てが最適。無駄がない。
「…おかしいだろ。」
剣が一瞬ぶつかり合う。近くで見ても表情は変わらない。
「お前は力を使っていない。」
視線を鋭くする。「必要ない。」
「そうか?」
わずかな動き。
隙ができる。
トン。
刃が首元で止まる。
静寂。
…そこまでか。
彼は剣を下ろす。「制御はできてる。でも力を使うのを躊躇ってる。」
俺はゆっくり息を吐く。
そして握りを強くする。
「…いいだろ。そこまで言うなら、全部使う。」
空気が変わる。
風が集まり始める。刃に圧縮され、重く鋭くなる。静止した空間すら歪む。
彼の目がわずかに揺れる。
「…前とは違うな。」
背後に気配が生まれる。重く、捕食者のような何か。虎の輪郭が風の中に浮かび上がる。
剣を上げる。
「テンペストアート。」
風が収束する。
「ホワイトタイガースラッシュ。」
動く。
距離が消える。
一閃。
絶対。
一瞬—
何もない。
そして—
彼が動く。
一撃は空を切る。
すでに横にいる。
「…直線的すぎる。」
だが—
俺はすでに動いている。
カン。
再び衝突。風はまだ刃に残っているが、不安定だ。
彼の目が細くなる。
「…なるほど。」
初めて、彼がマナを使う。
淡い紫の流れが刃にまとわりつく。
空気が張り詰める。
すぐに分かる。
「…やっぱりな。」
彼が踏み込む。
カン。
衝突が変わる。
圧倒される。まるで意味がない。衝撃が体を貫く。すぐ次が来る。
カン。カン。
押される。足が滑る。
攻め続けてくる。
一撃ごとに近づく。
防ぎきれない。
「…終わりだ。」
最後の一撃に入る。マナが刃に集中する。
呼吸を整える。
…今。
風が動く。
外ではない。
内側へ。
圧縮。
強制。
精錬。
最後の瞬間、体勢を変える。
受けるでも防ぐでもない。
合わせる。
カン—!!
衝撃が走る。
一瞬—
止まる。
そして—
刃がずれる。
わずかに。
踏み込む。
一動作。
止まる。
首元。
静寂。
マナが消える。
風も消える。
動かない。
「…制御の勝ちだな」と彼は言う。
俺は息を吐く。「…ああ。」
彼は剣を見る。「力も制御もある。でも使い方が分かってない。」
肩の力を抜く。
「…違う。」と俺は言う。「…惜しい。」
少しの間、立ち尽くす。
「前は圧勝だったよな。何が違う?」
彼は剣を肩に乗せて笑う。
「…気分だ。」




