少し休ませてください。
「この領域から脱出するには、生者の世界と影の領域を繋ぐポータルを作る必要がある」マリクが言う。
……へえ、さすが天才だな。どうして思いつかなかったんだろうな。
マリクはため息をつく。
「もっと簡単に言おう。この城を破壊しろ。これが今、お前とこの領域を繋いでいる錨だ。壊せば、生者の世界へ戻れる」
「……最初からそう言えばよかっただろ」
「お前ほどの存在なら、わざわざ説明しなくても理解できると思ったんだがな」
自分でもよく分からないが、顔が少し熱くなる。
「当然分かってたさ」
「ほう?」マリクは薄く笑う。
「なら、これ以上教える必要はないな。健闘を祈る」
……ほんと、余計なこと言ったな。
城を壊すのは時間がかかる。
普通なら。
俺は膝をつき、手を石の床に当てる。
「【ヴォイド】」
黒い魔力が生き物のように広がり、玉座の間から廊下へ、城全体へと侵食していく。
目の前に黒い球体が現れる。
「ああ、そうだ……これもだな」
マリクの残したコアを取り出す。
一つはシステム用。
もう一つは売却用。
これで問題は解決だ。
床が震え始める。
石畳が浮かび上がり、球体へと引き寄せられていく。松明、柱、玉座、天井のシャンデリア――すべてが飲み込まれていく。
城は崩れない。
消える。
喰われる。
まるで存在そのものが、黒い穴に吸い込まれていくように。
球体は徐々に小さくなる。
圧縮されていく。
色が変わる――黒から、深い紫へ。
そして――
解放される。
凄まじい魔力の波が放たれ、視界が光に飲み込まれる。
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【レベルアップ】
【レベルアップ】
【レベルアップ】
「……ん?」
目を開けると、システム画面が表示される。
【名前:アベル・モーニングスター】
【種族:人間/?】
【レベル:26】[本来の力の0.2%]
【ステータスポイント:5】
【筋力:20】
【敏捷:15】
【知力:10】
【魔力:24】
【運:7】
【クラス:なし】
【称号:なし】
【スキル:ゴースト、ヴォイド、ソニックリープ、インフィニティ・ドメイン、レプリケート】
【属性:風、火、土、水、影】
【アルシウム:なし】
……一気に上がる。
最初はレベル5。
狼とフェニックスで10。
マリクで17。
そして今――
26。
城ごとまとめて消せば、そりゃこうなるか。
画面が静かに閉じる。
気がつくと、地面に寝転がっている。
見上げると――
星空。
澄んでいて、やけに明るい。
「……戻ってきたか」
ゆっくりと立ち上がる。
【ヴォイド】は、制御された特異点みたいなものだ。
放っておけば、魔力が尽きるまで全部を飲み込む。
だから制限する。
城だけを対象にする。
それ以外には触れないように。
さっきの爆発は、余った魔力の放出だ。
……それと同時に、空間を引き裂く。
だから戻れる。
……下手をすれば、別の場所に飛ばされる可能性もあるが。
……まあ、考えないことにする。
周囲を見渡す。
巨大なクレーター。
まるで隕石でも落ちたみたいだ。
「……完全に俺のせいだな」
ドン、ドン、ドン――
足音が響く。
「急げ!爆発はこの辺りからだ!」
……撤収だな。
「【ゴースト】」
体が透けていく。
そして――消える。
……これは初めてだな。
本来はすり抜けるだけのはずだが。
完全に不可視になっている。
手を見下ろす。
何もない。
……面白い。
森を抜けながら、兵士や冒険者たちの横を通り過ぎる。
みんなクレーターへ向かっている。
あの魔力を感じているんだろう。
当然だ。
あれだけ派手だったしな。
屋敷に戻る。
門をすり抜け、廊下を抜け、自室へ向かう。
中に入ると、装備が消え、寝間着に戻る。
……魔力切れか。
ベッドに顔から倒れ込む。
「……制御、まだまだだな」
「森が丸ごと消えたのよ!」
片目を開ける。
妹が立っている。
……だと思った。
「……へえ」
「へえじゃないでしょ!?湖に黒い球体があって、そのあと大爆発って――!」
「はいはい、分かったから……寝かせてくれ」
妹の表情が止まる。
そして、ゆっくりと険しくなる。
「……寝かせてくれ、ですって?」
メイドが顔を出す。
「アベル様、大丈夫ですか?」
「問題ないよ」
メイドは去る。
妹が振り返る。
「アベル・モーニングスター。今、何時か分かってる?」
「……朝?」
「昼よ」
……なるほど。
「ここまで寝かせてあげたことに感謝しなさい」
彼女は剣を手に取る。
「訓練場。10分」
「行かなかったら?」
「来れば分かるわ」
扉が閉まる。
……はぁ。
着替えて、訓練場へ向かう。
妹はすでに待っている。
「いいわね」
俺は剣を手に取り、向き合う。
強くなるためだ。
何があっても。
……
……それでも、やっぱり眠い。




