彼女
玉座の間は、アベルが歩くにつれてさらに広がっていく。進むほどに空気は重くなり、周囲の光は薄れていく。
照らしているのは、ただの松明だけだ。
静寂を切り裂くように、低い唸り声が響く。
彼は足を止める。
さらに深く、近くへと、その声は増えていく。
影の中から、いくつもの存在が姿を現し始める。
深紅の狼たちが闇から現れる。
巨体を低く構え、爪が石床を削る。視線はアベルに固定され、その口の中では赤い魔力が収束していく。
「……なるほどな」
一体が瞬時に消え、目の前に現れて爪を振るう。
アベルはわずかに身体をずらす。
当たらない。
別の一体が背後から襲う。彼は一歩だけ移動する。
それも外れる。
さらに複数が一斉に飛びかかり、彼を押し潰そうとする。
アベルは一瞬だけそれを眺め、そして息を吐く。
「……よし、もう遊びは終わりだ。あとは任せる」
彼の隣で、青い魔力が揺らぎ始め、形を成していく。
その姿は一人の女性へと変わる。
黒いボディスーツを纏い、その上にフード付きのジャケットを羽織っている。黒髪はわずかに覗くだけだ。
その瞳は左右で異なり、片方は赤、もう片方は青。
彼女はわずかに頭を下げる。
「……呼んだ?」
「処理しろ」
「……了解」
狼たちは即座に動き出し、一斉に襲いかかる。
その瞬間、彼女の姿は消える。青い閃光へと変わる。
最初の狼が跳びかかるが、着地する前に首に一閃の傷が走る。数歩進んだところで崩れ落ちる。
別の個体が横から突進する。彼女は振り向きざまに顔を切り裂き、体勢を崩させる。すぐに踏み込み、追撃を入れるとそれも倒れる。
二体が同時に襲いかかる。彼女はその間を低く抜け、短剣を閃かせる。一体は脚を失い倒れ、もう一体は振り下ろした攻撃をわずかに後退して回避され、そのまま胸を貫かれる。
残る狼たちは距離を取り、口を開く。その口の中で赤い魔力が膨張し、放たれる。
だが彼女は後退しない。前へ踏み込む。
短剣が青く光り、振るわれる。魔力の奔流は斬り裂かれ、さらに刃に吸い込まれるように消えていく。
狼たちは一瞬だけ動きを止める。
その瞬間、彼女が動く。
一体が視界から消える。次の瞬間、切断され倒れる。
別の一体が突進するが、防がれ、脚を斬られて崩れ落ちる。
最後の一体が跳躍する。彼女は何も見ずに短剣を投げる。それは眼球を貫き、動きを止める。すでに彼女はその場に到達し、刃を引き抜きながら首を断つ。
三体が残るが、その動きは鈍る。
一体が攻撃する。彼女は受け止めるが、わ




