被害者に関する間違いがありました
洞窟は静まり返っている。
その時——
[通知]
[レベルアップ]
アベルは足を止める。
[レベルアップ]
空気が張り詰める。
アベルの前に、画面が現れる。
彼は微笑む。
「レベル100……到達したな」
[名前:アベル・モーニングスター]
[種族:人間/?]
[レベル:100][本来の力の15%]
[筋力:95 → 97]
[敏捷:87 → 89]
[知力:90 → 92]
[魔力:112 → 114][MP:9542/9546]
[運:79 → 81]
[クラス:なし]
[称号:捕食者狩り]
[スキル:ゴースト、ヴォイド、ソニックリープ、インフィニティ・ドメイン、レプリケート、ソウル・トランスミューテーション、ステルス、スキル融合、再生]
[属性:風、火、土、水、影]
[アルシウム:なし]
———
画面は消える。
『これだ』
レベル100に到達した報酬——それはクラスの獲得だった。
シロが闇の中から現れ、彼の隣で止まる。
「手に入れた」
彼は小さな容器を差し出す。
アベルはそれを受け取る。
冷たい。
ゆっくりと開ける。
中には、折りたたまれた手紙が一通。
それだけだ。
封もない。
印もない。
ただの紙。
彼は取り出し、広げる。
視線が文字を追う。
最初は何の反応もない。
「何て書いてある?」とシロが聞く。
「セレスティア家。元老院に属する家の一つだ。どうやら当主が“予知”を見たらしい。世界の終わりが来ると——」
彼は言葉を止める。
「どうした?」とシロが問う。
アベルは真っ直ぐにシロを見る。
「……その中心に、クラウディアがいるらしい」
シロはアベルを見つめるしかない。言葉が出ない。
「だから暗殺者を送り込んだ。運命を止めるために」
「……なるほど」とシロは答える。「もしよろしければ、アベル様——」
「くだらない話だ」
シロの言葉は途中で遮られる。
「殺せば解決すると思ってるなら……俺が別の方法で救えない理由はないだろ」
シロの沈んでいた表情が、少し明るくなる。
(もし見つからないなら——作ればいい)
その考えは、影の神ノワールを思い出させる。
アベルは手紙を一度折る。
彼の手に青い魔力が灯る。
紙は一瞬で燃え尽きる。
煙も、灰も残らない。
消滅する。
「痕跡は残さない方がいい」
光が消える。
再び静寂が訪れる。
シロは彼を見つめる。
「……先ほど、魔力が変わっていた」
アベルは前を向く。
「前にお前と戦った時、俺は全力だった」
シロは耳を傾ける。
「強くなるにつれて、全力を出す必要がなくなった」
淡い青い光がアベルの周囲に現れる。
穏やかで、静かな海のようだ。
「それに合わせて、魔力も変わった」
青い光が揺れる。
やがてそれは、静かな波から荒れ狂う津波へと変わる。
シロが見た紫の魔力が再び現れる。
以前よりも、強く、鋭く、洗練されている。
そして——消える。
再び青だけが残る。
「本気になると、戻る」
シロは目を細める。
「……つまり、あれが全力ではなかったと」
「違う」
アベルの声は静かだ。
「全然な」
短い沈黙。
「昔……神だった頃は——」
彼は言葉を切る。
そして続ける。
「今の俺じゃ、あの時の20%にも満たない」
シロは黙ったまま、やがて頭を下げる。
「……承知しました」
軽く礼をする。
アベルは頭をかき、振り返る。
「よし、帰るぞ」
二人は洞窟を後にする。
———
屋敷は変わらず賑わっている。
音楽が流れ、声が響く。
表面上は、何も変わっていない。
メイドがトレイを持って歩いている。
ワイングラスが整然と並ぶ。
客の間をすり抜ける。
誰にも気づかれずに。
その時——
誰かにぶつかる。
「あっ……!申し訳ありません!」
慌てて一歩下がる。
目の前に立っているのは、アベルの母——キラ・モーニングスター。
「大丈夫よ」と彼女は言う。
メイドは頭を下げる。
「申し訳ございません、奥様」
キラは少しだけ彼女を見つめる。
「疲れているのね」
メイドは一瞬ためらう。
「……大丈夫です」
「少し休みなさい。飲み物でもどう?」
優しくトレイを示す。
メイドは視線を落とし、やがて頷く。
「……ありがとうございます」
キラは微笑み、夫の方へ歩いていく。
メイドはグラスを一つ取る。
持ち上げ、口をつける。
一口。
そしてもう一口。
ゆっくりと下ろす。
「……」
違和感。
手の力が抜ける。
グラスが滑り落ちる。
床に当たり、砕ける。
その音が部屋を切り裂く。
彼女は崩れ落ちる。
激しく。
音楽が止まる。
すべてが止まる。
「なっ——!?」
人々が駆け寄る。
「大丈夫か!?」
反応はない。
誰かが脈を確認する。
その表情が変わる。
「……死んでいる」
沈黙が広がる。
やがてざわめきに変わる。
「何が起きたんだ?」
「急に倒れて……」
「いや……もう……」
恐怖が広がる。
人々は後ずさる。
立ち尽くす者もいる。
周囲を見回す者もいる。
その中で、クラウディアは見つめている。
体が冷たくなる。
視線はメイドに釘付けだ。
砕けたグラス。
ワイン。
彼女の手が震える。
「……あれ……」
声はかすれる。
目が見開かれる。
あのグラス。
自分のものだった。
呼吸が乱れる。
(あれ……私の——)
すべてが遠く感じる。
その時——
「……大丈夫か?」
振り返る。
そこにアベルが立っている。
すぐ後ろに。
まるで、突然現れたかのように。
彼女の表情が和らぐ。
そして、涙が浮かぶ。
一歩踏み出し——
強く抱きつく。
「あなたじゃなくて……本当によかった……」
声が震える。
彼女は離さない。
アベルは固まる。
少し顔が赤くなる。
「……ああ」
わずかな間。
「お前もな」
彼女は少しの間抱きしめたまま、
ゆっくりと離れる。
背後では、人々が集まっている。
声が重なり、空気は張り詰めている。
華やかだった宴は、
一瞬で事件の場へと変わる。
アベルはクラウディアの向こうを見る。
横たわる遺体。
動かない。
彼の目がわずかに細くなる。
(魂が……まだ残っている)
彼は何も言わない。
ただ見つめる。
静かに。




