狩人
「噓だろ……あいつ……」
時は進んでノシュキルの広場にて。
熾烈を極めているレオンとウルフの決戦は――
「――レオンの奴、ウルフ相手に競り勝ってやがる!」
歓喜の声を上げるのはビーディー。
隣のシンピは驚きに満ちた表情で二人の闘いを見つめていた。
まさかレオンがとっくに自分の力を超えているとは、嬉しい驚きだったのだ。
シンピが小さく笑う。
「強くなったな、レオン」
――くそっ、どうして!
「『楯』!」
レオンの攻撃を防ぐため、ウルフが小型の防御魔法陣を展開する。
「関係、ないっ!!!」
しかし、魔獣の血を持つレオンから繰り出される人間離れした一撃は楯をものともせずウルフの身体を吹き飛ばした。
「ぐううっ!」
ウルフが苦悶の声を上げる。
その緑の瞳には明らかに焦りの色が浮かんでいた。
――どうして、この私が!
「くそっ!」
「言ってる場合か?」
悔しさを前面に出しつつウルフが顔を上げると、その眼前には既にレオンの短剣が迫っていた。
間一髪で凶刃を躱すも、休むことなく繰り出される攻撃に対処出来ずウルフは重い蹴りを腹部に喰らう。
傍から見ても、どちらが圧倒しているかは明確であった。
「仕方あるまい……!」
決意を固めたウルフは動きを最小限に抑え、レオンに対し草むらに潜む毒蛇のように狙いを定める。
“切り札”を外すわけにはいかなかったのだ。
そして、蛇の眼はレオンの動きの中に一瞬の間を見出す。
――いける!
ウルフが右の拳を握り締め、意識と魔力を集中させる。
その一連の動作には寸分の狂いもなかった。
「『半神の拳』!」
大きく目を見開くと同時にウルフが呪文を唱え、大地を割る程の力を持つ渾身の一撃を繰り出す。
だが――
「『狂戦士化』」
拳が己に到達するよりも早くレオンの口が呪文を紡ぐ。
すると半魔獣であるレオンの身体は更にその速度を上げ、風よりも早くウルフの一撃を躱してみせた。
「……な、に?」
茫然。
空気を裂いた己の拳を見やるウルフの顔面にレオンの膝蹴りが炸裂し、その鼻孔からは血が噴き出す。
決着はもう着いたも同然であった。
「もう終わりか?」
レオンは獲物に対し、半ば一方的な狩りの終焉を確認する。
しかし、ここで負けを認められる程ウルフは利口ではなかった。
「ま、まだだ……!」
顔面から血を滴らせつつ、地に落ちた王が力の入らない足で立ち上がる。
その情けなさすら感じさせる醜態に、レオンの脳が怒りで満たされる。
ミスト神父の姿をこれ以上侮辱するな、と。
「じゃあ今すぐ終わらせてやるよ……!」
短剣を煌めかせレオンがウルフの息の根を止めるため歩みだす。
その時、ウルフがニヤリと口端を吊り上げた。
「『やれ』!」
「レオン、後ろだっ!」
ビーディーの叫びもむなしく、鳥型魔獣の鋭い爪がレオンの不意を突く形で急襲する。
「なっ……!」
注意が完全にウルフに向いていたレオンがこれを避けるのは不可能に近い。
「ハハハ! これで終わりだ!」
ウルフが勝ち誇ったように下卑た笑みを浮かべて見せる。
しかし、ウルフは大きな誤算があることに気づいていなかった。
「『転移』!」
ウルフの耳に呪文の声が到達した瞬間、レオンと魔獣の間に一人の少女が突如として現れる。
そう、ウルフは理解していなかったのだ。
レオンには背中を預けた相棒がいるという事実を。
「お待たせ。後ろは任せなさい」
蒼き刀身が煌めき、襲い来る魔獣を一瞬にして両断する。
美しき金の髪を風になびかせる蒼眼の彼女こそ、紛うことなき魔獣王の相棒であるエルフ、その名は――
「――リンネ」




