一人
それは前日の夜。
レオンの夢の中での出来事だった。
「……何しに来た」
ぶっきらぼうに言うのはもう一人のレオン。
真っ暗な深層意識の中で揺らぐ赤い炎越しに、レオンとレオンは相対していた。
「そう言うなよ。少し聞きたいことがあって来たんだ」
以前の魔龍動乱の時のような敵意はそこになく、どこか一体感にも似た穏やかさを持つ二人の一人はゆっくりと向かい合った。
もう一人は未だ仏頂面だったが、それが拒否ではないとレオンはなんとなく理解できた。
だから、先に口を開いたのも表のレオンが先だった。
「結局のところさ、お前は何者なんだ? 何処から来て、どうして俺の中にいる」
もう一人はその質問を鼻で笑って「そうだな」と一つ呟いた。
「以前、俺はティガー・ハルベルト、お前の親にある〈魔獣王〉から分離された……そう言ったな」
レオンが頷く。
今の言葉は確かに、魔龍動乱の最中でレオンがもう一人から身体を取り戻す際に聞いた言葉だった。
もう一人はそんなレオンを一瞥して、話を再開した。
「だがそれは半分正しくて……半分違う」
的を射ないもう一人の物言いに、レオンは首を傾げる。
「どういうことだ」
「俺はお前ってことだよ。どこまでいってもな」
諦めたようにそう言って、もう一人は続ける。
「お前が自己を守るために生み出したもう一つの人格、と言うのが本来正しいと思う」
「俺が自分を守るためって……何からだよ」
戸惑いつつ、レオンはもう一人に疑問を投げかけ続ける。
それは、自分自身を知るためでもあった。
そんなレオンのことを想ってか否か、もう一人も無暗に勿体つけたりすることはなく、ただ静かに答え続ける。
「〈魔獣王〉だ。お前は父親から〈魔獣王〉を受け継いだが、まだ幼いお前の人格に〈魔獣王〉は荷が重かった。精神的な受け皿ができていなかったんだ」
「だから……」
「ああ。だからお前は受け皿として俺を作り出した。それが〈魔獣王〉を受け継ぐ者に与えられたシステムなのか……何故なのかは分からないが、無意識的なものだろう。そして俺は〈魔獣王〉と一体になり、もう一人のお前としてここにずっといたわけだ」
「そういう、ことだったのか」
もう一人から語られた事実をゆっくりと飲み込むように、レオンは深く息を吞む。
たしかにそれならば、もう一人がレオンと同じ姿をしている理由にも、昔からレオンの中にいるのに知らなかった理由にも説明がつく。
「……どうだ。これで満足か」
敢えてなのかは分からないが、もう一人はあくまで突き放すような言い方をしてみせる。
しかし、それがただの確認であり、心配の色すら孕んでいることもレオンは理解していた。
「ああ。合点がいったよ」
「そうかよ」
真っ暗な深層意識の中を、一瞬の静寂が支配する。
「……ありがとうな。ずっと支えてくれて」
レオンが小さく言うと、もう一人は心底嫌そうに顔をしかめて見せた。
「知るかよ。俺が嫌でもそうなるようお前に作られてるんだからな……そんな事よりさっさと休め。明日だ。明日、必ずウルフを殺す。分かってんだろ?」
「……ああ」
そう答えると同時に赤い炎は搔き消え、レオンの意識は緩やかな眠りへと落ちていった。




