右で駄目なら左も試そう
海沿いの森から大勢の魔獣が姿を現す。
ウルフの軍勢だ。
「レオン!」
軍勢目掛けて一目散に駆けだしたララがレオンの名を叫ぶ。
「ああ、分かってる……『勝て』! ララ!」
レオンがその言葉を口にすると同時に、ララの身体が魔獣としての力を誇示し始める。
爪と牙は正に獣のように逞しく鋭利なものとなり、髪も全身を覆い隠すほどに長く伸び、声高に野性を主張する。
そしてその全ては血のように鮮烈な赤に染まり、凄まじい殺気とオーラを放っていた。
魔獣の軍勢を前に、赤き怪物と化したララがニヤリと笑う。
「逃げなよ。今のうちに」
ララが超前傾姿勢を取り、軍勢に突っこんでいく。
その姿はさながら弾丸のようであった。
「レオン、私達も加勢するわよ」
リンネの提案にレオンは頭を縦に振る。
いくら怪物状態のララが強いとは言え、数が数だ。
一人で戦わせるのは流石に厳しい。
「ドラクル!」
レオンが上空の魔龍に呼びかける。
「俺たちは地上の敵を対処する。海から来る船団は『任せた』」
その言葉に魔龍の口元が緩む。
そしてそれと同時に魔龍の巨体がララと同様の赤いオーラに包まれた。
忠誠の赤だ。
「任された。水平線の上に立つ怨敵を必ずや殲滅して見せよう……我が身に替えてもな」
「出来れば無事に頼むよ」
「努力はしよう」
レオンと魔龍は小さく笑って、それぞれ敵のもとへと駆けだした。
「ララが魔獣の気を引いてる。俺たちは裏から回るぞ」
「ええ……山の方面は大丈夫かしら」
リンネが心配そうに呟く。
「あっちには師匠とビーディー、それにみんながいる……大丈夫だよ。きっとな。今は目の前の敵に集中しよう」
「ふふ」とリンネが少しだけ笑う。
「なにがおかしいんだよ」
「いや? あんたも少しはそれらしいこと言うようになったじゃないと思ってね」
「別に……言うほどでもないだろ」
「そうかしら? ほら、やるわよ! 『座標転移』!」
軍勢との距離が縮まったところでリンネが魔法により蒼の剣を抜く。
魔獣達も接近してくるレオン達に気づいたようだった。
「リンネ、少し下がれ」
「は? なんで……」
その問いに答えるより早く、レオンの口は呪文を紡ぐ。
「『爆裂弾』!」
すると魔獣達に向けられた左の掌から炎の球が飛び出し、魔獣のうち一体に着弾すると派手に炸裂した。
「魔法!?」
リンネが驚愕の声を上げる。
それもそのはず。
数日前までレオンは魔法を出すことすら敵わなかったのだ。
「あんたいつの間に……!」
「へへ、猛特訓……って言いたいところだけど、構えるのを左手に変えたら前より上手くいくようになってな。っと、無駄話してる暇はなさそうだな」
レオンの言う通り、リンネが前方に目を向けると魔獣達がこちらに向かってきているのが見えた。
「それじゃあいくぞ!」
「ええ……苦しまずに殺してあげる!」




