開戦
そして、決戦の日。
レオンはノシュキルの港に立っていた。
眼前に広がるは荒波立つ北海。
そして遠くには見慣れない船の群があった。
「あれがウルフの軍団か」
レオンが静かに呟く。
神妙な面持ちのレオンとは対照的に、隣のリンネはどこかからかうように笑って見せた。
「緊張してるの?」
「まあな」
少し困ったようにレオンは軽く口端を上げる。
「ただまあ、心配ってわけでもない」
「そう。それならいいけど」
海風でなびく髪を払って、リンネもまた海を見やる。
彼女もまた、連邦の命運を占う決戦を前に多大なプレッシャーを感じていた。
「レオン」
背後から聞きなれた声で呼びかけられ、レオンが振り返る。
そこにいたのは、レオンにとって最初の契約者であるララだった。
「ララ、どうだった?」
「うん。やっぱり来てる。多分もうすぐ」
「そうか。やっぱり同時に襲撃してきそうだな」
レオンが目を閉じ、大きく息を吐く。
――大丈夫、勝てる
強く念じて、ゆっくりと瞼を開く。
海の向こうに見える船団は、先程よりもその影を大きくしていた。
「レオン、あいつらが砲を構えたわ」
リンネがエルフ特有の超人的な視力で視認した情報を報告すると、それから間を置かずに遠くから爆発音が聞こえてきた。
開戦の合図だ。
「レオン!」
リンネの切羽詰まった声に応えるようにレオンが声を張り上げる。
「『防げ』! ドラクル!」
レオンの声に呼応し、上空より魔龍が姿を現す。
彼こそがレオンにとって二人目の契約者であった。
「新たな主よ。貴様に貰った新たなる命、貴様の為に此処で燃やし尽くそう!」
魔龍が漆黒の翼を拡げ、ノシュキルに向けて放たれた砲撃を防ぐ。
その姿は威風堂々たる全盛期の姿そのものであった。
「頼んだぞドラクル、『焼き払え』!」
主の命令に応え、魔龍が牙の生えそろった大口に灼熱の炎が湛える。
黒い風のように船団に飛びかかり、炎を吐いて海上に地獄を生み出した。
レオンは痛む心を抑え、命を果たして戻ってきた魔龍を笑顔で出迎えた。
「よくやったドラクル」
「主の命令とあれば当然のこと……フッ。この熱、ウシクを思い出すな」
「そうなのか? ……だけどドラクル、今回とウシク紛争とじゃ決定的な違いがある」
汗まみれの右手を握り締め、レオンは自分にも言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「今回は俺たちが勝つってことだ」
魔龍が不敵に笑う。
負けられない戦いが今、この町で始まりを迎えていた。




