優しさ
「すまないと思っている。お前には悪いことをした」
過去を話し終えたシンピの口から一番に出てきたのは謝罪の言葉だった。
「どうして謝るんですか」
問うと、シンピはバツが悪そうに目を伏せた。
「仲間だったウルフがお前の人生を狂わせた。あの時に私がウルフを止められていれば……殺すことができていれば、お前は両親の下で妹と平穏に日々を過ごせていたはずだ。そうあるべきだった」
シンピが窓辺の椅子から立ち上がり、レオンに向かって深く頭を下げた。
「本当にすまない。すべては私の甘さが招いたことだ」
己が師と仰ぐ者の謝罪を受け、レオンは何とも形容のし難い感情に襲われていた。
それは哀しみというべきか、それとも怒りというべきか。
ただ一つ、レオンの脳内にはハッキリとした一つの推論が浮かんでいた。
――この人はきっと、死にたがっている
レオンの導き出した推論に根拠はない。
ただ優しく、されど悲しそうに話すシンピの月光に照らされた横顔を見ていると、何故だかそのように思えて仕方がなかったのだ。
「顔をあげてください」
促され、シンピは背筋を伸ばし真っ直ぐにレオンと目を合わせる。
レオンの瞳は真剣だった。
「俺はあの日、師匠に助けられなければここにはいません。それにリンネやララ、ビーディーにベル……みんなとも出会えなかった」
少し悲しげにレオンは笑う。
「感謝してるんです。これっぽちも恨んでなんかいません……だから、死なないで下さいよ。まだお礼だってできてないんです。お願いしますよ、師匠……!」
月明かりに煌めく一筋の涙がレオンの頬をソッと伝い落ちる。
そうして、かけがえのない師匠への想いは堰を切ったように溢れ出した。
「……そうだな。まだ未熟なお前らを置いてはいけないか」
そう言ってシンピは、子供のように涙を流すレオンを抱き寄せる。
「約束ですよ師匠、絶対ですからね……!」
「ああ。約束だ」
この日、シンピが少しだけ泣いていたことを、レオンが知ることはない。




