ミラ
「私とビーディー、お前の両親……そしてウルフは同じパーティーのメンバーだった」
「ウルフが……!?」
考えてもいなかった真実に、レオンは衝撃を覚える。
「話すタイミングがなくてな。すまない」
「まあ……いいですけど」
少々不服ではあったものの、今回の本題はそこではない。
レオンはシンピの話の続きを聞くことにした。
「お前の母親の名はミラ。テディーレ出身で元狩人の冒険者だった」
月明かりの差し込む小さな部屋でシンピはその言葉を入りとして改めて話し始めた。
「正義感の強い子でな。彼女の信念に従って依頼をこなしていくうち、私達のパーティーは連邦最強と呼ばれるまでになっていった」
「あの頃は楽しかったよ」そう話すシンピは懐かし気に天を仰ぐ。
しかし、その声色はすぐにどこか翳りを見せた。
「そうなってくると連邦やギルドの上層部と接する機会も増えてな……思えば、ウルフの様子がおかしくなっていったのもその頃だった」
シンピは悲しそうに、悔しそうに眉をひそめる。
「上層部は度々、私達の正義にそぐわない依頼をしてくることがあった。もちろん断ってはいたが、ウルフはそれだけじゃ気が済まなかったんだ」
不穏になってきた語り口に、レオンが生唾を飲み込んだ。
重い声色のままシンピは続ける。
「奴は連邦そのものに粛清が必要だと主張し、私達の賛同を得られないと分かると姿を消した」
「それって、もしかして」
「ああ。恐らくそのもしかして、だ。ウルフは魔獣王の力を使い、ウシク紛争を起こした」
ウシク紛争、連邦史上最悪と言われる事件。
その名が出た時、レオンは緊張感にも似た息苦しさすら感じた。
シンピの声が静かな怒気を孕んでいるように思えたからだ。
「当然、私達も対応に当たることとなった……ミラとティガーの間には、まだ赤子のお前達がいたにも関わらずな」
レオンは強く拳を握りしめる。
「母さんを置いていくって選択肢は……!」
「あったさ。だが、ミラ自身がそれを許さなかった。『仲間の眼は私達の手で覚まさせなきゃいけない』なんて言ってな……私も、それを止められなかった」
そう話すシンピからは大きな後悔が感じられた。
それも、この後に起こる惨劇を思えばきっと当然のことで。
「だからミラはお前達を預けることに決めた。故郷の、信頼できる幼馴染の神父の下に」
「その神父って……」
「ああ。お前の育て親、ミスト神父だ……まさか今になって彼が犠牲になると、ミラは思ってもみなかったんだろうな」
ミスト神父の姿をしたウルフを思い起こし、レオンは奥歯で怒りを嚙み締める。
シンピはどこか悲しげな瞳でレオンを見やった後に言葉を続けた。
「そして、ミラとティガーはウシク紛争で命を落とした。ウルフと相打ちになって……そう、思っていたんだがな」
「だけど――ウルフは、奴は生きていた」
「その通りだ。どうも力自体は削がれているようだがな……これが、私の話したかった過去の話だ」




