表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
膨大な魔力を持つ俺は、魔法の才能が無い  作者: そら
魔剣覚醒と闘技大会
34/37

動き出す運命

お待たせしました!

どうぞお楽しみくださいませ。


 ―選手通路―


 コツ、コツ、コツ……。自分の歩く足音が響く。歩くたびに衣服の擦れる音や、自分の呼吸音が脳に届く。それさえも煩わしく感じる程に、俺は今、目の前の魔剣『零の氷刃(アルマス)』を見つめる事だけに集中していた。


 ケイ・アマガサとザクス・クレイルの試合を思い出す。誰の目から見ても、ケイ・アマガサの剣の腕は俺やフィンラルよりもずっと上だろう。そのケイ・アマガサさえも一切寄せ付ける事無く叩き伏せて見せた<剣聖>を、俺はこれから相手にするのだ。

 面と向かって試合開始をする以上、奇襲は出来ないし、奇策も恐らくは裏をかく前に対処されてしまうだろう。それでも何か策は無いかと、思考を巡らせる。


『俺に身体を貸せば、渡り合う事くらいは出来ると思うが?』


 と、グレドラードが言う。

 永い眠りから醒めたばかりで、その力は全盛期の三分の一にも満たないらしい。それでもあの<剣聖>と渡り合えるというのだから、さすがは魔王ということなのだろう。

 だが、この戦いにおいて俺は、コイツに身体を貸すことは無いだろう。それは身を持って【世界最強】を体験してみたいと思っているからだ。


『クハハ、貴様のやりたいようにやってみよ!!』


「ああ。瞬殺されないように気を付けるよ」


 そう言って俺は、ゲートを見つめる。反対側のゲートからこれでもかと言うほど重厚なプレッシャーを放っている。


(ああ、喉が渇くな……。喉は乾くのに、手汗はびっしょりだ)


『なに、アイツのプレッシャーを前にして、それでもなお立ち向かえるのだ。それだけでも大したもんだ』


「そりゃどーも。……なぁ、一つ頼みがあるんだが」


『??なんだ?言ってみろ』


「俺の心の声に反応するのはやめてくれないか?聞こえてしまうのは仕方ない。だが、そのまま反応されてしまうと、俺のプライバシーなんて何もないじゃないか」


『そんなものか?俺にはよく分からんがな』


「とにかく!俺の問いかけ以外には反応しないでくれると助かる!!」


『まぁ、それで貴様が納得するのであれば、良かろう』


 グレドラードからの了承を得て、俺は安堵する。


(よし、そろそろ向かうか!!)


『こんな時くらいは反応しても良かろう?心してかかるのだな!!』


 その言葉を聞いて俺は、手に滲む汗をズボンで拭き、立ち上がる。


「応っ!」


 そうして、ゲートへと向かい、歩き出した。




 ―闘技場・客席―


 未だ、興奮の収まりきらない観客たちを他所(よそ)に、実力者たちは次の試合に注目を移していた。

クレスタ・グローリィやケイ・アマガサなどの出場選手や、ランドルフ・グローリィ、【禍罪】幹部の蘭や【聖アメリア十字教団】のアメリア・ニムレット。そして……。


「何とか間に合ったね……えぇと、ヴェルト・ダンツァー、だったっけ?本当に彼が?」


 客席最上段の出入り口から姿を現した糸目で白髪の男が、()()()言葉を発す。その発言を不審に思った、予選でヴェルトと戦った男――イリーガル・ストレーが男に近づく。


「なぁ、あんた。一体誰と話してんだ?それに、ヴェルトが、なんだって?」


 白髪の男は、キョトンとした顔をして口を開いた。


「……あぁ、そうか。忘れていたよ。()()してなかったね。えーと、キミは、ヴェルト君の知り合いかな?」


「知り合い、っつーか、アイツと戦ったんだよ。それより、俺の質問に答えろ。ヴェルトに何か用があるのか?」


 白髪の男は、ストレーを無視して、再びブツブツと独り言を始める。


「お前……ッ!バカにしてるのかよっ!」


 白髪の男は、方目を僅かに開ける。


「ああ、そうだよね。――うん、決めた。悪いんだけど、キミの記憶をもらうね?……【(げん)】!」


 掌を上にして【現】と唱えると、五色の玉が現れる。そして男は緑色の玉を頭上へ放り投げる。


「【発】!」


 投げられた緑色の玉が割れると、二人を覆うように光が包み込む。


「遮断フィールド。これで周りからはボク達の姿は視認できないんだよ。そして……」


 今度は赤色の玉を放り投げ、【発】と唱える。


「ぐ、今度は、な……に…………っ」


 ストレーがその場に倒れ込む。ストレーの額に赤い光が集まりだす。その光を、白髪の男は口から吸い込むように取り入れていく。


「うん、やっぱり『アルマス』で間違いなさそうだ」


 男は遮断フィールドから外に出る。


「おい、テメェ、ナニモンだ?一緒に居た雑魚はその中か?」


「これはこれは!<風神>クレスタ・グローリィさん!探す手間が省けましたよ。……【転】!」


 展開されていた遮断フィールドが、クレスタを包み込む。


「何を企んでやがる、テメェ!!」


「それはこれから、お話させて頂きます。ですが、今はまだボクがココにいる事を知られるわけにはいかないんだ。このまま次の試合を観戦していてもらうよ」


「……大人しくしてると思うか?」


 クレスタが素早く男の後ろに回り込み、魔剣『獣爪風切(ダインスレイフ)』を振るう。


「単調で短気、そして単純。どういうことか分かるかな?」


 『獣爪風切』がその黒い玉を割ると、黒い霧がクレスタの身体に纏わりつき、縛り上げた。

 男が眼を見開く。蛇のような瞳孔を剥き出しにして、笑みを携えながら。


「答えは簡単。今のキミではボクには勝てない。……それと――」

「ボクはね、お願いをしたつもりじゃないんだ。命令したんだよ、キミに。もう一度言うよ。このまま次の試合を観戦していてもらう」


「…………っ!!チッ」


 力技では解けない拘束に、クレスタは為す術もなく苛立ちだけを募らせていった。




 ―医務室―


「俺は大丈夫だから、ヴェルトの応援をしてくると良い」


 グリムが笑顔でティアーナたちに語りかける。


「それに、俺も集中しておきたいからな。いよいよ次は決勝だ。今年は特に、落としたくないんだ」


 それを聞いたフィンラルが頷き、ティアーナやミーナを入口へと促す。


「団長、何かあったら、【思念通知(クリフ)】で呼んでくださいね」


「あぁ。ありがとう、ティアーナ。その時は遠慮なくそうさせてもらうよ」


 パタン、とドアが閉じる。


「………………君は行かないのか?アーシャ。いや、精霊界<世界樹(ユグドラシエル)>の(おさ)様、かな?」


 揺れたカーテンから、スッと姿を現すアーシャ。


「お気づきでしたか。やはり()()()、聞いてらしたのですね」


 あの時――そう。アーシャがグレドラードと対話するために、全員を眠らせた時だ。薄れゆく意識の中、俺は自分自身に痛みを与え、意識を保った。


「アーシャ。君がグレドラードを敵視するのは分かる。だが、早まるな。あいつは魔王である以前に、ヴェルト・ダンツァーという一人の人間だ」


 その言葉に、アーシャが頷く。


「ええ。承知しております。それよりも今は……」


 アーシャが観客席に目を配る。


「ああ。この試合を注目している者の中に、明らかに目的を脱しているものがいるな。魔力反応が三つ、突然消えた」


「ええ。それに、先日ミーナさんの話に出ていた組織の方もいらっしゃるようですわ」


 ふーっ、とグリムが溜息をつく。


「やれやれ、問題児ばかりじゃないか」


 肩を落とすグリムに、アーシャがクスクスと笑った。


「本当に、数奇な運命に囚われているみたいですね、ヴェルトさんも、貴方も」


 グリムとアーシャは、選手通路から歩いてきたヴェルトに視線を送る。


「……決勝は、ザクスさんになるでしょう。フェイト・グリムさん、あなたはどうするお心算(つもり)ですか?」


「質問の意味がよく分からんな。俺は全力を以って優勝を狙う。それだけだ」


 その答えに、アーシャが首を横に振る。


「気付いているのでしょう?ザクス・クレイル、彼からは貴方と同じ、勇者フリクトの――」


 グリムがアーシャを目で制す。


「……そうですね。私が口を出す問題ではなかったですね。ただ、これだけは伝えておきます」

「<瞬断>では、勝てませんよ。これだけは断言できます」


 そう言って、静かに部屋から去っていった。




 ―闘技場―


 穏やかな笑みを携えて、ザクスが俺を見下ろす。


「クク、今日は楽しもうじゃないか」


「さすが<剣聖>様だな。随分と余裕なことで。せいぜい油断していてくれ。度肝を抜いてやる!」


 ザクスを指差して、俺は宣言する。


『会場の皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより準決勝第二試合、<剣聖>ザクス・クレイル 対 <氷獄>ヴェルト・ダンツァーの試合を開始いたします』


 アナウンスが流れると、俺は腰を落とし、剣に手を添える。ザクスは依然として、見下ろすように立っている。


「ヴェルトっ!!」


 後ろから声が聞こえて、俺は振り返った。そこには息を切らして客席の一番前まで走ってきたティアーナと、少し後ろにフィンラル、ミーナと続き、たまたま同じ場所に居たのであろう、クラレンス・オリヴァーの姿も見えた。


「負けるなっ、ヴェルトっ!」


 シンプルだが、一生懸命な応援を感じ、俺は拳を彼女の方へと突き出す。


「応っ!」

『試合、開始ッッ!!』


 ティアーナに応えると同時に、試合開始の合図が響き渡る。目の前には相変わらず、何の構えもしていない<剣聖>がそこに立っている。


「『薄氷金剛鎧(コフィン)』っ!!」


 防御魔法を掛け、再び腰を落として構える。


「力を貸してくれ、『零の氷刃(アルマス)』」


「まさかとは思うが、お前が戦うのか?」


 ザクスが続ける。


「悪い事は言わない。()()()を出せ。秒で終わってしまうぞ」


「それはどうだろう……なっ!!」


 魔力を剣に込めて、剣を乱雑に振るうと、氷属性のアルマスの力で、鋭く尖った氷柱(つらら)となってザクスに向かって無数に飛んでいく。


「『氷塊刃(アイシクルエッジ)』っ!!」


 ザクスは微動だにせず、氷塊刃をまともに受けた。


 ドドドドッ!ドドドドドッ!と、次々と氷柱が打ち込まれていく。次の瞬間――


 ブォン!と大きな風を切る音が抜けると、打ち込まれていった氷柱が一斉にパキーン!と音を立てて割れる。


「どうした?まだ何かするのだろう?」


 ザクスはたったの一振りで、まるで埃でも掃うかのように涼しい顔でそう言った。


「足止めにもならないのか……クッ、化け物かよっ!!」


 俺は再び『氷塊刃』で牽制しながら動き回る。


(魔力量だけは膨大にある!出し惜しみする必要なんてない!!)


 ただひたすらに動き回り、打ち込む。

 大雑把に動いているようで、実はある一点に集中していた。それは、ザクスが動いた時に生じる【音】であり、その音の種類を聴き分ける為に、全神経を研ぎ澄ませている。


 ザリッ、ザザッ


(ここだっ!!)


 重い物を引き摺ったような音を感じ取り、俺は直接攻撃に転じる。

 ザクスの正面から斬りかかるが、初撃を防がれてしまう。そのまま地面に片腕を着いて回転し、背後を取ると、勢いそのまま斬りつける。


「『裂氷斬(パイルフロスト)』!!」


 『零の氷刃』の刀身が青白く光り、ザクスを斬りつける。半身を捻って回避するザクスだが、切っ先が右腕をかすめる。


「なるほど、なかなか面白いやつだな。将来性も申し分ない」


「いいのか?余裕を見せすぎて」


 俺はザクスの右腕を指差して答える。


「『裂氷斬』は、斬りつけたもの全てを凍結させる。もう満足に右腕は使えないぞ!」


「そうかな?キサマの方こそ、俺を過小評価しすぎているのではないか?」


 そう言うと、ザクスは(すく)みあがる程の殺気を俺に向ける。


「それとも、強気の言葉で自分を奮い立たせているのか?どちらにせよ、滑稽なものだ」


 ザクスが右腕に力を込める。


「子供騙しに付き合っているほど暇ではない!!」


 ザクスが闘志を剥き出しにすると、凍結していた右腕の氷が勢いよく割れた。


「この程度で俺を倒せると本気で考えていたか?いや、違うな。お前は最初から俺に勝つことを目的としていない」


 瞬き程の刹那の時間、ザクスが真横に立っている。


「力試しのつもりだったのだろうが、そんなものに付き合ってやるほど俺はお人好しでもなんでもない」


「ク……!!ずあっ!」


 『裂氷斬』を放つも、ザクスはノーガードでアルマスの攻撃を受ける。しかし、その攻撃は皮膚に届くことなく止められた。


「なっ!!?」


「何を驚く?その程度の魔闘値でどうして剣が届くと思っていたのだ」


 俺は先程ザクスが立っていた付近にまで飛び退き、構える。


「もともと勝つつもりのない奴と剣を交えてもつまらん。さっさと――」


 ザクスが剣を抜く。その瞬間にこれまでとは比べ物にならない殺気が支配した。


「――代われ!」

次回へ続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ