消える二人の『無限遠点』
間が空いてしまい申し訳ございません。
最新話になります!
―シスマーニ闘技場―
『さあさあ、いよいよ準決勝の始まりです!お集まりの皆様、ここから先は人の域を超えた者同士の戦いです。今日ここで戦う四人こそ、この世で最強の四人なのかもしれません!!』
うおおおぉ!!と、観客たちが盛り上がる。
観客席を見渡すと、予選の時に見かけた顔がチラホラいる事に気付く。俺が倒したイリーガル・ストレーもまた、見物していた。俺の視線に気が付いたのか、フイ、とそっぽを向いてしまった。嫌われたものだ。
闘技場内には俺と、目の前にザクス・クレイルが笑みを携えており、その隣にはシャルール・レオニスが目を閉じて凛とした佇まいで立っていた。俺の横には団長が腕を組みながら微動だにせず立つ。
どうやら、緊張しているのは俺だけらしい。
『皆様も待ちきれない様子!!それではこれより、準決勝を開始いたします!!』
会場から、歓声や指笛、風船などが飛び交う。
『シャルール・レオニス選手、前へ!』
シャルール選手が目を開けて、数歩前へ出て立ち止まる。
『同じく、フェイト・グリム選手、前へ!』
団長が腕を組むのを止め、歩き出す。
そして、俺とザクス・クレイルは、各々入口まで戻る。
会場内に団長とシャルール選手のみとなった瞬間に、結界が張り巡らされる。
「この瞬間を、待ちわびていたよ」
話す男の腰には、魔剣【与奪刀】を帯びている。
「私もだ。今日は、去年を超える時間を過ごそう」
答える男の手には、以前、俺が従えたBランクの魔剣【一陣斬】が握られていた。
場内の二人が構えを取る。その更に奥では、壁に寄り掛かるようにして、ザクス・クレイルが腕を組んで見据えていた。
『これより、準決勝、第一試合を始めます!試合開始ッッ!!』
いよいよ因縁の対決が幕を開けたのだった。
ザッ!
ザッ!
二人の剣士が腰を落とし、やや前傾に構えて間合いを測る。
「……いいのか?【終焉ノ一振】で来なくても」
シャルールがやや、不満げに言葉を発する。
「ふふ、弟子に教えられた技があるんだ。この技は俺とお前のレベルの戦いでも通用するって事を、見せてやりたいと思ってね」
と、不敵に返す。
「ほう、面白い!!見せてもらおうか……。つあっ!!」
ズゴオォォォン!!
シャルールはミュルグレスを思い切り地面に叩き付けると、そのまま前方のグリムへ向けて衝撃波が奔る。
それをグリムは避けようともせず、同じく【一陣斬】を地面に叩き付け、衝撃波を奔らせる。
衝撃波がぶつかり合い、その地面の中心が盛り上がる。
「ふふ、いくぞ、シャル!!」
そう言ってグリムが飛び上がり、斬撃を飛ばす技、『裂空斬』を三発放つ。
ここで、シャルールが違和感を覚えた。しかし、飛んでくる斬撃を処理しなければならない。
違和感の正体がつかめないまま、目の前に迫る斬撃への対応は二つ。一つは三発の斬撃を受けきること。もう一つは斬撃を回避すること。攻撃自体は単調なので、シャルールにはどちらの行動も可能だった。
しかし、彼はギリギリまで考えた。違和感の正体を。しかしその考えも空しく、裂空斬が迫る。
「チイッ!!」
ガキン!!ギィン!!ギィィン!!!!と、シャルールは全ての斬撃を受け流した。そこで違和感の正体をようやくつかみ取った。
グリムの姿が見えないのだ。更に、目の前の視界はユラユラと空間が揺らいでいる。
「な……っ」
違和感の正体が分かっても、理解が追い付いていなかった。
「ふふ、さすがの君でも驚いたようだね」
目の前の現象――陽炎のような、しかし、陽炎では説明がつかない不可思議の中から、グリムの声が聞こえ、やがて空間の歪みが元に戻っていくと、グリムが姿を現した。
「その技を、お前の弟子が使ったと……?」
「俺も驚いたんだよ。身を隠す術なんてのはいくらでもある。しかし、身を隠す為だけに空間を歪めるなんて発想を、あいつはやってのけた」
グリムが嬉しそうな表情を浮かべる。
「俺達のレベルの戦いで通用する事実が出来た以上、あいつはこれから先の戦いでも自分に自信を持って戦えるだろう。それが俺には嬉しいのさ」
「ふん、すぐに打ち破ってやるさ」
言い終わると同時に、シャルールが爆発を発動させつつ、魔力抵抗を身に纏う。二人の周りで無数の爆発が起きる。
グリムはそれを裂空斬を駆使しながら躱していくが、シャルールもそれは分かっていた。その上で、更に爆発の魔法を発動させる。詠唱を付与して。
「逃げ道など、失くしてしまえばいい。躱せるものなら躱してみろ!!」
地面一体が魔方陣と化し、光の玉がグリムとシャルールの間に浮かび上がってくると、凄まじい威力で爆発した。
ズゴオオォォン!!!!と爆音が響き、爆風が場内を暴れ回る。
「大爆発……。全方位爆撃ならば、流石に無傷ではあるまい……」
幾重にも纏った魔力抵抗が粉々に砕け散り、シャルールの右肩に防ぎきれなかった傷痕が残る。
やがて、視界が晴れていくと予想通りと言うべきか、グリムの姿はなかった。
「ふー。なかなか無茶をするじゃないか、シャル」
言葉と同時に、グリムが姿を現す。
「ケロッとしやがって。あれを防ぎきる性能なのか、その技は」
「いいや。防ぎきれなかったよ」
グリムがそう言って背中を指差す。その背中は服が破け、火傷を負っている。
「はは、なるほど。絡繰りが読めたぞ。そう言うことか。そりゃ、お前が褒め称える訳だ。反応しきることさえ出来れば全ての攻撃が無効化できる、そうだな?」
「空間そのものを捻じ曲げる事により、一時的に新たな次元を作り出す。その次元は、一切の干渉を受け付けない。容易に触れれば、元の空間に戻ろうとする力と、次元を維持しようとする力によってバラバラになってどこかの空間に飛ばされる。 この技の弱点はお前が実践した通り、切った空間しか次元を生み出せない事と、次元の内側からは抜け出せないということだ」
そう言って、グリムは【一陣斬】を鞘に納めると、【終焉ノ一振】に手を掛ける。
「さて、お前も去年のままでは、ないんだろう?」
その言葉を聞いて、不敵に笑みを浮かべて【与奪刀】を構えるシャルール。その構えは最速で突きを狙う『フェンシング』というスポーツの構えに酷似していた。
「もちろんだ。退屈はさせんさ……ゆくぞっ!!!!」
グリムとシャルールは物理抵抗を発動する。そして……
ヒュン
「!!」
グリムが張った物理抵抗があっさりと砕け散る。そして、グリムの左肩に血が滲む。
「見えなかっただろう?今のが俺の奥義『刺突・乙式』だ。そしてこれが……!!」
シャルールが動き出した瞬間、グリムは自分の周囲に、シャルールの気配を感じた。その気配が放つ威圧感や殺気は本物そのものであり、しかし、そこにはシャルールの姿が無いのだ。
殺気の無いルートに飛び込むグリム。しかし、着地と同時に再び殺気に取り囲まれる。
(なんだ?この威圧感の正体は、一体……)
「ふふ、どうしたグリム。来ないのならこちらから往くぞ!!」
再び『乙式』の構えを取るシャルール。その見えざる一撃を瞬時に感じ取り、グリムは上空へと避ける。
「……ビンゴだ!!」
上空へ飛びあがったグリムの右足を、何かが貫いた。そのまま地面へと為すすべなく落ちていく。
「『刺突・甲式』」
「……くっ、なるほど。これはなかなかに厄介だな」
グリムが立ち上がり、構える。
「まずは『乙式』。これはいわゆる『ノーモーション』で放たれた突き技だな?」
「ご名答。それに加えて、相手の遠近法を利用しているのさ。お前の眼にも、俺が『乙式』を放つ動きは殆ど捉えきれなかっただろう?」
それを聞いたグリムが納得したような表情を見せる。
「そうか!!消失点か!!」
「そう。通常、平行な二つの線はどこまで行っても交わる事はない。そこに無限遠点として必ず交わると仮定した時、そこが消失点として成立する……。ふ、お前の裂空斬と同じで、作り出した物は疑似的ではあるがな」
(二つの平行な線……これは、『俺の視界』と『シャルの立っている位置=シャルの姿』であり、俺がそこまで行かない限りは交わる事はない。つまり、消失点ではありえない。違う。この仮説はどこかに見落としがある。何か……)
そこで、グリムが一つの仮説に辿り着いた。
「二つの平行な線……俺はこれを『俺の視界』と『シャルの立っている位置』として仮定した。だが、これでは、お前の動きが消える消失点ではありえない」
グリムが【終焉ノ一振】を構える。
「ならば、平行な線とは何か……。それは、『俺の視界』だけでは無く、『シャルの立っている位置』と、『シャルが放つ殺気の行き先』だろう?」
不敵に笑う両雄が構える。
一人は、フェンシングのような構えを。
一人は、左腕を突き出し、剣を持つ右腕を頭上に構える。
「「往くぞ!!」」
同時に発せられた言葉に、会場全体が息を呑んだ。
次回で決着します!お楽しみに( *¯ ꒳¯*)✨




