魔王の真意
やっと主人公が覚醒しました!!
『精霊の長……アーシャと言ったかな?我に何か用があるのだろう?』
「ヴェルトさんの中に封印されている何かがある事は見抜いてはいましたが、まさか魔王……それも、六百年前の戦争を引き起こした張本人、グレドラードとは思っていませんでした」
アーシャが目を細め、続ける。
「何点か、質問をしても?」
『良いぞ。我は今気分が良いからな』
それを聞いたアーシャが早速、一つ目の質問を口にする。
「あなたの目的はなんでしょうか?」
『ふむ。そこの剣士に先ほど似たような質問をされたが、現状この世界に興味が無い。と言うより覚醒したばかりで、今のこの世界を知らぬ。人間界レイクラント、第三魔界や、その他の魔界。神界エデンズウェルに精霊界ユグドラシエル。我が我の目的を持つには、判断する材料が少なすぎるのだ』
眼を見開き、アーシャを見つめる。
『貴様が教えてくれるなら、我の目的も答えられるかも分からんがな』
「ふふ、他人が語った所で、魔王が素直に聞き入れるとは思えませんが」
『ククク、言ってくれる。まあ、そうさな。今しばらくはこやつ……ヴェルトの『復讐』に力を貸してやろうと思うとるが』
「『復讐』ですか」
(ほう。警戒されたか。先ほどのヴェルトの言葉に偽りが混ざっていた事に気づいていたのやも知れぬな。クク。喰えん女よ)
「その『復讐』に手を貸すという事は、あなたは同じ魔族を手にかけるという事ではないのですか?」
『ふむ、確かにな。だが、それ自体は珍しい事でもないだろう?人間同士でも争うのだ。戦争にまで発展した物は、我が眠りに付いた後にもあったのであろう?』
「そうですね。人間界ではこの六百年の間で四度、国家間の戦争が起こりました。そして二つの国が滅びました」
『人間というのは時に愉快で、時に不愉快なものよな。全てに置いて『自分の都合』を延長させた考えしかできん。他種族よりも同族の争いが多いのは、そのせいだと、未だ気づいていないと見える』
アーシャが頷く。
「それには同意します。しかし、それは多かれ少なかれ、精霊界以外、全ての世界で起こり得る事でしょう」
『ほう?精霊界では同族での争いはない、と?』
アーシャがすぐさま肯定する。
「その通りです。私たち精霊は、共通して共感を共有している……魔法で言う【完全一致】を、『世界樹』を通して宿している種族です。稀にその道から外れる個体もいますが……」
『世界に一つしかないとされながら、世界のどこにも無い巨大な樹、だったか?我も好奇心で行ってみたいとは思っていたのだがな。いかんせん、方法が面倒臭いのでな』
基本的に、精霊種は人間の見る『夢』の世界に住むとされている。魔界や神界のように、時空や次元の狭間などにある訳ではないので、場所として特定できない世界なのだ。
『ふふ、まあ良い。貴様の質問の答えだが、個人的にはどっちでもよいのだ。単純に、こやつの復讐を見届けてみたいと思っただけの事。同族だろうが、格上だろうが関係ない』
そう。愉しければいいのだ。
「では、ヴェルトさんより、相手の魔族の方が面白そうだと判断すれば、寝返るという事でしょうか?」
『寝返る?何を訳の分からない事を言っておるのだ。我がいつ、こやつらの仲間になったのだ?……。まあ良い。……その時はそうだな。何もせん』
「はい?」
『何もせん、と言ったのだ。と言うより、何もできん。こやつの身体に我自身が封印されている以上、できる事といえば精々、魔力の供給を止める事くらいだ。それに、こやつに死なれた時、我がどうなるのかも分からぬしな。まあ、一緒に死ぬのもそれはそれで良いだろう』
その言葉にアーシャは驚きを隠せなかった。
目の前にいるのは圧倒的な魔力を誇り、暴虐の限りを尽くしてきた魔王グレドラード。その魔王の口から『死ぬのも良い』と出たのだ。
『何をそんなに驚くことがある?貴様もそこそこ生きているのなら分かるだろう?退屈こそが死よりも辛き地獄だとな』
「生憎と、この世に生を受けてまだ六百七十五年です。その境地には、至っておりませんわ」
『クックッ……だが、案ずるな。我はこの人間の世界を手中に収めよう等とは考えておらん』
「…………その言葉を、信じろと?あれだけの戦争を起こした貴方を」
アーシャの目付きが鋭いものに変わる。視線に殺気を込めて魔王を睨みつける。
『別に信じろとは言わぬ。だが、こやつを通して我が感じたこの世界や人間は、我にとって興味深いものだった。面白いと感じた。それだけだ』
その言葉に、その表情に、嘘は見つからなかった。
アーシャはゆっくりと目を閉じ、再びゆっくりと開ける。
「随分と、丸くなったものですね、魔王グレドラード」
『フン。気に入らなければ消し去ってやることには変わりはない。ただ、『人間』だからと、一括りに考えるのはやめた。それだけの事だ』
「その言葉を六百年前に聞いていたら、フリクトさんも――」
それ以降、アーシャの言葉が続く事はなかった。
フリクト……その名前を出した途端に、目の前の魔王の殺気だけで、完全に気圧されてしまったのだ。
『…………気が変わった。話はここまでだ。良いな小娘』
アーシャは全神経を集中させて、力なく一度だけ頷いた。
―選手控室・ヴェルトの部屋―
(フリクト……貴様も転生しているのだろう?)
鏡に映るヴェルトの姿をした自分を見つめる。そして、ソファに腰を下ろすと目を閉じた。
(そろそろ目を覚ませ!次の対戦相手の試合が始まるぞ)
そんな声が脳内に響く感覚を覚え、俺は目を開けた。
「……ん、いつの間に寝てたんだ」
『まったく、ようやく起きたか。すぐに始まるぞ』
俺は目を擦りながらモニターに目をやると、闘技場には既に二人の剣士が向かい合って立っていた。
―闘技場―
『只今より、二回戦最終試合、ザクス・クレイル 対 ケイ・アマガサ の試合を始めます』
「フフ、君と戦うのを楽しみにしていたよ、アマガサ君」
不敵に笑みを溢す<剣聖>
「ええ。俺もです。いい勝負になるかはわかりませんが、楽しみたいですね」
負けちゃいない<天笠流>
「愚問だろうけど、ここまでのような戦い方をするつもりは無いだろうね?」
「全力で当たりますよ。それに、別にここまでも手を抜いて戦っていた訳じゃない」
『試合、開始っっ!!』
開始の合図と共に、ケイがザクスの後ろに一瞬で回り込んだ。
「身体が温まる前に終わっていただけの事っ!!」
キイィィン!!と互いの得物がぶつかり合う。
ザクスは最初の位置から一歩も動くことなく、それどころか、振り返ることもなく、ケイの一撃を受け止めている。
「その歩法……確か【懸り足】、だったかな?」
「ご名答。行き先が読めないでしょう?もっとも、俺の気配を察知して防がれちゃいましたが……」
ザクスがニヤリと笑みを浮かべる。
「まだだ。まだ足りないな。もっと見せてみろ!!こんなものではないのだろう?」
「当然です!」
ザクスの挑発に乗っかる形で、ケイは刀を鞘に納める。
「次は当てますよ」
ケイが前傾姿勢を取る。そしてそのままの体勢で上空へ飛びあがった。
「上空では、動きが単調化しやす――っ!!」
ザクスの言葉が止まる。ケイは空中でもう一度方向転換をしたのだ。いや、二度……三度と。
「前後左右だけでは、足りないんですよ、ザクス・クレイルッッ!!」
空中を飛びまわっていたはずのケイが、いつの間にか足元に着地しており、そのままザクスの心臓めがけて刀を突き出していた。
辛うじて反応したザクスが体を捻って躱そうとするが、避けきれず左肩を容赦なく貫かれている。
「反応速度は流石ですね。終わらせるつもりで放ったのですが」
「こんなに楽しい戦いを、簡単に終わらせるものか!!」
肩を貫かれているにも拘らず、微塵も闘志は衰えていなかった。
「とは言え、結果が見えてしまった。君のその剣、もう俺に当たる事はない」
「なんだって?今この状況が分かっていっているのか?明らかにあなたは今、重傷を負っているのですよ?」
その言葉を受け、ザクスがとんでもない行動に出る。
「あっははははは!!重症、重症かぁ!時間が経てば治ると分かっているにも拘らず、重症だって?!だから温いんだよ、貴様らの攻撃は!!」
そう言うと同時に、帯刀していた小刀を自らの右足に突き刺した。
「『絶対に死ぬことの無い結界』で戦っているのだぞ?なにを恐れることがある?俺を殺すつもりで全力で来い。覚悟を決めろ。貴様の目の前に立っているのは、紛うことなき『最強』なのだから!! さあ、どうした?ハンデが足りないというのなら、左足もくれてやるぞ!!」
その光景を見て、ケイが一瞬怯む。が、覚悟を決めたのだろう。目付きが変わる。
「…………行きます。天笠流奥義【哭々千閃】」
ケイが無造作に刀を振る。すると、ウォォ、ウオォン、とまるで苦しみを訴える声のようにこだまする。そのまま、先程見せた歩法【懸り足】を駆使した、上下左右、更には空中に至るまで、目にも留まらぬ速さで移動する。
「鬼共、人退治の時間だ」
徐々に間合いを狭め、ウォォォン、という鳴き声と共に確実にザクスに迫ってゆく。
「さて、料理は冷めないうちにいただくとしようか」
ギン! ガキン! ギィィン!
ザクスは、ケイと全く同じ動きで、全ての斬撃を剣で受け止める。
やがてケイの動きが止まり、ザクスから十分な間合いを取りつつ、問いかけた。
「ク……なぜ、あなたが【瞬映】を使えるんだ!?」
「理屈が分かれば簡単な事だ。『気』の扱いを極めた者のみが感じることの出来る、空中での重力と引力がプラスマイナスゼロになる瞬間に、貴様は『空気を蹴る』ことにより移動していたのだろう?懸り足を使えば移動先も読めない故に、相手は対応できずにそのまま切り刻まれる、違うか?」
「ッッ…………!!」
「ま、俺は『気』を使えないからな。もっと簡単な方法を取らせてもらったまでだ。本当に単純に、魔力で空中に足場を作って移動していただけの事だ」
淡々と説明するザクスに、納得できない様子でケイが詰める。
「俺は常に懸り足で移動していた!!なぜ場所を特定できた!?」
「あまり俺を過小評価するなよ。その程度のスピードで、見失うとでも思ったのか?先の戦いでクレスタだったか?彼が見せたスピードを身に付けてから言うんだな」
それを聞いたケイが、刀を再び鞘に収め、構える。
「どうやら、あなたは噂以上に『最強』らしい。最後に我儘を聞いてはもらえないだろうか?」
「訊こう」
「一撃も受けずに負けを受け入れられるほど俺は大人じゃない。最後まで抗わせて欲しい」
それを聞いたザクスが、本当に嬉しそうに笑う。
「ははははっ!!いや、すまない。どうやら俺も、貴様を過小評価していたようだ。いいだろう。楽しませてくれた礼だ。俺の技を一つ見せてやる。瞬きするなよ。その身に、その魂に刻め!」
突風が身体を抜ける感覚が、ケイを襲う。
瞬きなどする暇もなく、頭が理解する間もなく、ケイの胸部には、ぽっかりと穴が開いていた。
「【穿】」
ザクスが最後に発したのは、技の名前だろうか?などと考えている内に、ケイの意識は深く深く、落ちていった……。
天笠、散る!




