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『まぁ、こんなものか』
頭の中で声がする。
『及第点だ。とりあえず、覚悟は見せてもらった。しばらくは我が力、存分に振るうがいい』
――あの時。
俺は強く願った。そして、取引を持ちかけた。
(どうしても殺したい奴がいるんだ。俺はその為だけに生きている!!俺の中に居たんだ、お前も分かっているだろう?)
『ほう?人間如きが、俺に願うか……面白い』
(それが叶うのならば、後の事はどうでもいいんだ!!この身体も、お前に差し出したっていい!!だから……力を貸してくれないか?)
『見せてみろ。要求を呑むも呑まぬも、貴様次第よ』
目を開けると、そこには一人の金髪の男が立っていた。
エメラルドの瞳が、俺を射抜く様に見つめてくる。
「お前、なかなか面白いな。よくもまぁ、今までそんな化け物を身体に宿していて平気だったものだ」
<剣聖>ザクス・クレイルが薄く笑みを浮かべる。
「ッ!?……この力を、コイツを知っているのか?」
「六百年前の霊魔大戦で、たったの二日で三つの国を滅ぼした、第三魔界の最強魔王グレドラードだろう?」
『変われ』
グレドラードが俺の身体を強制的に支配する。
『どうやら、貴様はただの人間ではないようだな』
「ククッ、その紅き目……【緋色の宝石眼】だな? 【禁ジラレタ聖書】には最高位の悪魔は、独自の魔眼を有する、とあったな。もっとも、効果までは知れないものが多かったが」
(霊魔大戦?デモンズロード?タブーバイブル?ハァ?)
知らない単語がバンバン飛び交う。かろうじて理解できるのはガーネット・アイズと呼ばれた単語だけだ。これは恐らく、俺の右目の事だ。
『貴様、何度目だ?』
グレドラードが魔力を込めて睨みつける。が、ザクスは一切の怯む素振りもなく答える。
「さあ、君が何を言っているのかは分からないが、一つだけハッキリしたことがあるよ」
最強の剣士、ザクス・クレイルが瞳を見開き、歪な笑みを浮かべる。
「この大会は最高だ!!魔剣【絶対正義】に<星砕>、更には魔王グレドラードときた!!」
また知らない単語だ。<星砕>……?称号か?称号持ちは四人だけのはずだが?
「おっと、お仲間が来たみたいだよ。私も試合が始まるから、失礼するよ。彼もまた、特別な臭いがするからね」
そう言い残して、<剣聖>は去っていく。
そしてすぐに、グリムとフィンラルが駆けつける。
「ヴェルト!!」
フィンラルが呼ぶ。
「おい!大丈夫なのか?ヴェル……」
『煩い』
強大な魔力をぶつけられたフィンラルが、呼吸困難に陥り両膝を折る。
「フィンラル。意識をしっかり保て。ゆっくり、少しずつ呼吸しろ」
『ほう。貴様は平気なのだな』
「魔王と対峙するのは、三度目だからね。それよりも、君はヴェルトの身体をどうするつもりなんだい?」
グリムは最大級の警戒をし、前傾姿勢を取っている。
『ククク。コイツは随分とモテモテのようだなぁ。まあ、心配しなくて良いぞ。今すぐ取って食おうなどとは考えてはおらん。というより、何も考えておらん』
その言葉を聞いて、その場にいる全員が口を揃えた。
「「「は?」」」
『……考えてもみろ。我が居た時代は六百年前で、我はつい先ほど、ようやく覚醒したのだ。その昔はこのくだらん世界を我が手中に収めようとも思ったが、正直今となってはどうでも良い』
俺には解っていた。奴の言ってることは全て本当だった。
『むしろ今は、コイツや貴様ら人間に興味が出てきておる。せいぜい我を楽しませてみろ』
グリムの後ろから、足音が近づいてくる。
「ヴェルトっ!!」
ティアーナだ。
血相を変えたティアーナが駆け寄ってくるが、違和感に気付いたのか、目の前で立ち止まる。
「貴方は、何者ですか?……ヴェルトを、ヴェルトを返して!!ヴェルトの身体から出て行きなさい!!」
劈く程の叫びをあげるティアーナを、団長が抑制する。
『ふぅ。どうしてこうも女というのはすぐに感情をむき出しにするのか。人間も、神族も魔族も、そこだけは共通なのだな』
「ふざけないで!!ヴェルトを返しなさい!!」
その瞬間に、ティアーナに向けて恐ろしいほどの、言葉にして例えるなら、濃い殺気を放つと、殺気に中てられたティアーナが倒れ込み、痙攣を引き起こし、泡を吹く。
『女。それ以上囀るな。貴様はコイツの特別なのは知っておる。だが、我には一切関係ない。次に口を開いたら、塵芥一つ残らないと思え』
グレドラードが軽く溜息をつく。
『こうも煩いのは敵わん。貴様らの望み通り、我はしばらく奥に戻る。……えぇと、貴様!グリム!次の試合、楽しみにさせてもらうぞ』
そう言って、俺に人格が入れ替わる。
「っっ!!くそ、好き勝手に…… ッ!ティア!!」
ティアーナに駆け寄る。
「大丈夫だ。気絶しているだけだよ。それより……」
団長とフィンラルの視線が刺さる。
「お前に何が起きたのか、詳しく話してもらえるか?あと、ピアスをしろ。そろそろフィンラルが中てられる」
俺は慌てて魔力隠匿のピアスを着けて、ティアーナを休ませるために医務室へと向かった。
―医務室―
二回戦第四試合は、俺とクレスタの戦いの傷痕を整備してから行うという事で、今暫くかかるとの事だ。
ベッドではティアーナが軽くうなされつつも眠っている。合流したミーナとアーシャさんが心洗綻体をかけてくれている。
「お前の膨大なその魔力の秘密が、まさかこんな大事とはな……」
話を聞いたフィンラルが驚きを隠せない様子だ。同じくミーナも目を大きく見開いてぱちくりさせていた。アーシャさんは相も変わらず、ただニコニコとしており、よく分からなかったが……。
「ごめん。隠すつもりは無かった、とは言えないな。俺の中で兆候は確かにあったから」
「お前の様子を見て、何となく気づいてはいたんだ。だが、まさかこんなに早く覚醒してしまうとは思っていなかった。謝るのは寧ろ俺の方だ。すまないな、ヴェルト」
団長がスッ、と頭を下げる。
「そんなっ!団長が悪い訳じゃな」
「そんな事より!!……今後、貴方はどうするつもりなのかしら?この際だから、ハッキリと言うけれど、さっき貴方が垂れ流していたあのとんでもない魔力、明らかに人間のそれとは違っていたわ。 今のあなたの魔力は人間のモノに近いけれど、それでも昨日までのモノとは違うわよ」
ミーナが一呼吸、間を開けて続ける。
「ヴェルトさん。貴方はこれから、『人間』として生きるのか、それとも『魔王』として生きるのか。選択をしなければならない場面が必ず来ますわ」
(俺は、もう、『人間』には戻れない。戻るつもりもない!)
などと、心の中で思っても、言いだす事ができなかった。 団長も、フィンラルも、そしてティアーナも。俺にとって何よりもかけがえのない仲間だと思ったからだ。
「……ヴェルト」
「ティア!目が覚めたか。身体は?」
ティアーナは大丈夫、と首を縦に振り、笑って見せた。
「……途中からだけど、聞こえていたわ。ヴェルト、『人間』とか『魔王』とか、周りはそれしか見ないと思う。だから、ミーナさんが言う選択もしなければいけないかもしれないけれど……」
ぎゅっ、と胸の辺りで小さな手が強く握られる。
「その前にヴェルトはヴェルトなの。それだけは、忘れないで」
以前、【零の氷刃】を使う特訓中に、団長に言われた言葉を思い出した。
『あまり考えすぎるな。今、分からないことは考えたって答えは出ないんだからな。魔剣とどんな会話をしたのかは知らんが、お前はどこまで行ってもお前でしかない。それを忘れるな』
「はははっ」
可笑しくなって笑ってしまった。
『人間』ではなくなった俺は、仲間として受け入れられなくなるのが怖かった。
「うん、決めたよ。ここにいる皆になら言える。俺はヴェルト……『ヴェルト・グレドラード』だ」
ダンツァーを捨てる。
「『人間』であり『魔王』でもある」
人間を捨てずに、魔王を受け入れる。
「そして、ミーナじゃないが、俺にもある目的がある。俺の妹……『ミリア・ダンツァー』を殺した魔族を探し出す事だ」
「見つけて、どうするつもりなんだ?」
フィンラルの質問に、俺は少しの嘘をついた。
「分からない。相手次第ではあるけれど、最悪の場合はこの手で復讐したいと思っているよ」
もちろん、いっさい赦す気はない。何が何でも見つけ出して、絶対に殺す。
今までは、それを為す力が無かった。俺はあまりにも無力だった。だが、この力を使いこなす事が出来れば――
そう考えた瞬間、俺の手が喜びで震える。
(ようやくだ。ようやく足りないものが揃った!!)
「一通り、お話は終わりましたか?」
アーシャさんが口を開く。天然と言うかなんと言うか、結構シリアスな話だったはずなのに、緊張感が感じられない口調なのだが、なんとなく今はそれが救われる気になる。
「では、皆さんが少しでも休まるよう、この魔香でリラックスして下さいね」
そう言うと、すぐに甘い香りが部屋に広がる。
心地良い香りが意識を支配していく。意識がまどろむ寸前に、団長の声が聞こえた気がしたが、吸い込まれるように俺たちは眠りに付いた。
「…………」
『ふむ。我との対話が望みか?精霊の長よ』
グレドラードが切り出すと、アーシャはゆっくりと眼を開いた。
寒い季節が来ましたね
コート買わなきゃ!




