選ばれし者
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―ホテル・アインス<一四〇五号室>―
夕食後、フィンラルがミーナを送ると言うので二人と別れた後、俺と団長、ティアーナは俺の部屋に集まっていた。
『私に力を貸して』と言うミーナの想いは強く伝わってきたのだが、この件は一旦保留となった。
ミーナが知る限り、蘭の禁呪は【思念探知】と呼び、魔力で繋がった者の思考や記憶までも覗く事ができるのだと言う。
禍罪と言う組織の目的が分からない以上、そして、他の幹部達も蘭と同様、もしかしたらそれ以上の強さを持っている可能性だってある。現時点で答えを出す事は出来ないと、全員が判断した。
しかし、蘭が俺に興味を持ったような発言をしていた事もあり、協力体制は取る方針で一先ずは落ち着いた。
「なぁ、団長。俺が寝ている間の二つの試合、どうなったのか説明してもらえないかな?あと、ザクス・クレイルの魔闘値(162)は、いくらなんでも低すぎやしないか?」
それを聞いて、団長が説明を始める。
「では、後者の疑問点から説明するぞ。簡単な事だ。<剣聖>ザクス・クレイルは、何一つ実力を出さずに勝利したのさ」
俺は耳を疑った。
「はあ?! ちょっと待ってくれ!対戦相手のスケイル・レティーシア選手の予選は見ていたが、かなりの実力だった筈だぞ」
「分かっているさ。彼女は前回の大会で俺が倒した相手だからな」
団長は真剣な眼差しで続ける。
「それでも、ザクスは剣を抜くことなくレティーシア君を倒して見せたのさ。 更に言えば、魔法も使わずに、ね」
「信じられない……。そんな事が……」
だが、可能なのだ。それだけ、次元が違うという事なのだろう。
「予測でしかないが、俺の最大の魔闘値が五万とするのなら、ザクスの魔闘値は軽くその十倍はあるだろうな」
「マジかよ……」
俺は驚愕、と言うよりは呆れに近い感情を持った。
団長も十分に化け物染みた強さだ。少なくとも、俺はこの人より強い人間を知らないのだから。
そんな団長の十倍って聞かされても、想像が追い付かない。
「だが、忘れるなヴェルト。魔闘値はあくまでも基準だ。高い方が絶対に強い訳じゃない。三千の奴が三万の奴に勝つ、なんて何度も見てきている」
俺は頷く。
「レティーシアは、鎖鎌と水弾による変則波状攻撃でペースを握ろうとしたが、ザクスは全て見切っていた。 攻撃が当たらず焦りを覚えたレティーシアが、会場全体を覆う程の浸食水害を放とうとしたのだが、後ろに回り込んだザクスが両手でレティーシアの両耳をこう、パーン!っと強く張ってそのまま気絶した」
団長が自分の両耳を掌でパンッと叩いて見せた。
「うわぁ、エゲツないな……。じゃあ、もう一つの試合は?」
ただただ剣聖の凄さを知っただけで一切の参考にならなかった為、俺の興味はもう一つの試合、エリオット・クレイドル対ケイ・アマガサへと移っていた。しかし、こちらも似たような試合展開だったのだ。
スピードに勝るケイ・アマガサを抑える為に、エリオットは予選で見せた植物を成長させる魔法【促進】と、操る魔法【活性】を使い牽制を試みる。が、触手のように襲いくる蔦や根を身軽に回避し、蔓を切り捨てる。
傍目には、エリオットがうまい具合にアマガサの動きを抑えて、防戦一方にさせているように見えたかもしれないが、実際は逆だった。
アマガサにはエリオットが付け入る隙がなかった。幾度か仕掛けた攻撃も、その全てに反撃を合わせてくるのだ。攻め手に欠き、魔法維持の為に使い続けている魔力がとうとう尽きて、エリオットはギブアップした。
「――魔力が尽きかけたエリオットの巨大植物をアマガサが一刀両断!戦闘続行不能と判断したエリオットはここでギブアップ、という訳だ。ザクスにしろ、アマガサにしろ、とんでもないレベルにいることは間違いない」
団長にそこまで言わせるのだから、<剣聖>は勿論の事、ケイ・アマガサも問答無用で怪物クラスなのだろう。
「ねえ、ヴェルト。その二人もそうだけど、明日の試合は大丈夫なの?クレスタ・グローリィ選手、あの人もそうとう強いわよね?」
ティアーナが心配そうな目を俺に向ける。
「ああ、アイツは強い。正直な所、今の俺が戦っても、十回に七回は負けるんじゃないかな。でも、三回は勝てると思ってる。それに……」
「それに?」
団長とティアーナが同時に反応する。
「なんて言えばいいのか……俺、今、すげえ成長してる実感があるんだ。今日の試合でもそうだったんだけど、どうすれば勝てるのか、脳が知ってるような感覚があってさ。さっきの言葉とは矛盾するようだけど、負ける気がしないんだ」
団長がフッ、と笑う。
「まあ、なんにせよ今日はもう休もう。考えすぎて身体が動かなくなる事だってある。今更足掻いたところで、どうにもならんさ」
そう言って立ち上がり、団長は自分の部屋へと帰っていった。
「じゃあ、俺達も寝るとしようか」
「そうね。……ねえ、ヴェルト」
「ん?」
ティアーナへと振り返ると、俺の左胸に握り拳をトン、と当てる。
「負けないでね!頑張って!」
「ああ!任せておけ!!」
心配しつつも応援してくれるティアーナの笑顔に励まされ、俺は眠りについた。
―翌朝―
七時ちょうどに目を覚ました俺は、寝ぼけた頭を覚醒させようと、洗面台に向かう。筈だったのだが……。
ガチャ
「……アレ?蛇口はどこだ?」
俺が開けた扉は冷蔵庫だった。
三秒後、冷静になった俺の頭が、顔に熱を送る。
(無いぞ、俺!それはやっちゃいけないだろう!どんなボケだよ!!)
と心の中で突っ込んだ。
顔を洗って歯を磨き、髭を剃る。しっかりと頭が働き始めたところで、部屋に戻ると、ティアーナが起きていた。
「ヴェルトぉ。おはよぉ~」
なんとも気の抜けた声が可愛い。
胸元が少しはだけていて、控えめな胸のおかげ?で谷間とは違った魅惑的な『空間』がそこには有った。
彼女がベッドから立ち上がると、ふらふらとした足取りで冷蔵庫を開ける。
「……あれぇ?といれぇ?」
(ティア……それもう俺がやった……!)
五秒後、顔を真っ赤にして、無言でトイレへと向かうティアーナの姿がそこにあった。
―シスマーニ闘技場―
「今日も今日とて、お集まりいただいた皆々様!お待たせいたしました!決勝トーナメント二回戦、そう!準・決・勝!!が開始でございます!! ここに立つ選ばれし八名は、誰が優勝を手にしてもおかしくない実力者だぁ! 『聖剣』アシュカロンは、一体誰の手に渡るのか!栄光を手にできるのはたったの一名!これよりスタートです。お楽しみにぃ!!!!」
選ばれし八名、と言うフレーズが、俺を奮い立たせる。
団長や、<剣聖>と肩を並べて立っているような、特別感のある言い回し。それだけでここまで浮かれそうになるのだから、俺はもしかしたらかなり単純なのかもしれない。
第一試合は、フィンラルと、シスマーニ第一ギルド【聖印騎士団】団長、<与奪>の異名を持つシャルール・レオニスから始まる。
控え室で、フィンラルが俺にこう言った。
「ヴェルト。今日の試合は全て集中して見ておいた方が良い。ここまでレベルの高い大会はそうそう無いだろうからね」
もちろん、そんなことは言われなくても分かっていた。異名を持った実力者が四人もいるのだ。
そして、目の前のこの男、フィンラル・ゼルファルドもまた、肩を並べるにふさわしい実力者であることも。
俺は何度も団長に戦いを挑んでは返り討ちにあっていた。そんな俺を周りは笑い飛ばした。
だが、フィンラルだけは違った。フィンラルは俺が『いつか団長を倒せる』と言い続けてくれた。
『特訓』と言う名目で、俺とフィンラルは何度も試合をして、その度に俺は敗北した。
そんな俺だから分かることがある。フィンラルは強い。それも、団長に負けない程に。
俺は控室でソファに腰を下ろし、試合の開始をゆっくりと待つことにした。
ちなみにティアーナとミーナは、アーシャさんの元で観戦している。団長は、「ここから先は群れないでおこう」と言って、自分の控室へと入っていった。それには俺もフィンラルも同意した。
一際大きな歓声が上がる。視線を上げると、二人の男が同時に姿を現していた。
目線を逸らさずに中央へと歩む二人。やがて足が止まり、シャルールの視線が右方面へと向けられる。
その先にはフェイト・グリムの控え室があり、彼もまた、二人の戦いを見届ける為に眼差しを送っていた。
「やはり気に入らないな、シャルール・レオニス。あなたが今気にするべきは、グリム団長ではなく私のはずでは?」
「ふん。いつまでも二番手に甘んじている奴に興味はない。悪いが沈んでもらう」
「どう思おうと、あなたの勝手ではあるが、間違いは正しておく必要があるね」
(ヴェルト。打倒グリム団長は、俺たち二人の目標だからな!!)
フィンラルが剣を抜く。その細身の剣の名称はレイピアと呼ばれており、シルエットがとても美しい。その正体は魔剣【退魔の剣】。いかなる魔法もこの剣の前では通用しない。
合わせて、シャルールも剣を抜く。その赤黒く長い刀身には誰もが目を引かれる。
「甘んじているだって?その言われようは心外だよ。一日だって忘れたことはない。いつだって俺達の目標はフェイト・グリムを超えることだ!!」
「それは叶わぬ夢だ。お前はここで負けて終わりだ」
二人の握られた剣先が交わり、試合開始の火蓋が切られたのだった。
いよいよ二回戦開始です!




