力の使い方
ヴェルト君動かすの久しぶり!
お待たせいたしました!最新話です(*^▽^*)
―選手入場ゲート―
クレスタの試合を見届けた後、俺は戻ってきた団長に事の顛末を伝え聞く。
結果はミーナが負けた事。禁呪による魔力の消耗と、シイラの一撃を喰らい、今は救護室でフィンラルとティアが付き添っている事。シイラは自らの騎士道精神の為に、ミーナに戦いを挑んだこと。
俺は内心、怒っていた。
シイラ・ベスティア……。騎士道精神と謳ってはいるが、なんて事はない、ただの我儘だ。その我儘を聞いたおかげで、ミーナの寿命はさらに減ったんだ。
そして、ミーナもミーナだ。命より大切なものなど有りはしないんだ。彼女は、自分の命を軽んじている。ある意味で、自分の命を捨てたのだ。
(冗談じゃない……っ!)
俺の脳裏に、目の前で死んだ幼い少女が過る。
不条理に追いかけられ、理不尽に殺された俺の妹。
(そんなにも、お前たちの命は軽いのか?)
歯を食いしばる。
(そんなにも、他人の命は軽いのか?)
身体が熱い。握った拳から血が流れる。
(だったらその命、俺によこせ!!ミリアを……その命を……! くそっ!!くそおっ!!!!)
ヴェルトは、煮え滾る想いを内に秘め、闘技場へと歩き出した。
―救護室―
「うんっ。魔力の波長も安定してきたから、もう安心してもいいかな」
ティアーナが額の汗を拭いながら、笑顔で言うと、フィンラルは安堵の表情を浮かべた。
「そうか、良かった」
「フィンラルさん、ここは私に任せて、ヴェルトの試合を応援してあげて下さい」
フィンラルは一瞬、呆気にとられるが、すぐに笑って
「はははっ、俺よりも、君の応援の方が、彼の場合はやる気が漲るんじゃないかな? という訳で、ここは俺が付いているから、声を掛けてあげるといい。まだ間に合うかもしれない」
ティアーナは「でも……」と、一瞬言い淀むが、すぐに「ありがとうございます!」と言って部屋を後にする。
「ミーナ、俺には君が、死にたがっている様にしか見えないよ……」
無垢な子供のように眠る彼女に向かって、そう呟いた。
―闘技場―
闘技場は、今し方終わったばかりの戦いの影響でボロボロになったので、スタッフの魔法による修理・構築をしている所で、会場のモニターには、ここまでに試合のダイジェストが映し出されていた。
「こちらでお待ちください」と促された俺は、足を止めて壁に寄り掛かる。
しかし、身体が動いていないと、考えが先立ち、苛立ちばかりが募る。
「ヴェルト!」
後ろから声を掛けられ、俺はハッと、苛立ちの意識から我に返る。
「随分と怖い顔をしてるのね。誰かさんでも緊張することがあるのかしら?」
なんて冗談を飛ばしてくれる。今は会話が出来るだけでもありがたい。意識を持っていかれなくて済む。
「ああ。何となく、落ち着かなくてな。でも、もう大丈夫だ。ありがとう」
ティアーナの頭をぽんぽん、と軽く叩いて見せる。するとティアーナは嬉しそうに笑った。
その笑った顔が、妹と重なる。一瞬、心臓が跳ねる。
「?……ヴェルト?」
「なあ、ティア。人の命は平等だよな?誰かの命は軽くて、誰かの命は価値がない、なんて事はないよな?」
「えっ?」
そう言った所で、スタッフに「ヴェルト選手、お待たせしました。どうぞ、入口へ」と声を掛けられ、俺はティアーナの答えを聞かずに背を向けて、歩みを進める。
『さあ、修理も終わってダイジェスト映像も堪能したところで、待たせたな!第六試合が始まるぜっ!第六試合は、再びの賭け試合、ヴェルト・ダンツァー 対 クラレンス・オリヴァーだ!投票結果は、こうなっているぞっ!』
投票数がモニターに映し出され、場内がざわつき始める。
クラレンスが圧巻の四千九百五十二票に対して、ヴェルトは千三百一票であった。
『これは少々、差が開いているぞーっ!ヴェルト選手にとっては、面白くない結果でしょう。見返してやる、くらいの気持ちで向かってほしい所です!!』
(くだらない)
元々、こういったギャンブルが好きではない俺は、普段からくだらない、とは思っていたが、こういった事が好きという気持ちは理解できる。映画のワンシーンなどでは、俺もワクワクしながら楽しんでいる。
しかし今は、正体不明の苛立ちが、心に靄をかけ、頭を支配しているようで、自分が自分じゃなくなったようだった。
『おーっと!そのヴェルト選手が颯爽と入場だー!』
会場が沸き立つ。
<生活賭けてんだ!負けんなよー!>
<ま、当たりゃラッキー位なもんだ。せいぜい頑張ってくれや>
などと勝手な事を言う奴らに、俺の苛立ちはもはや、臨界点に達しようとしていた。
『反対側から、クラレンス・オリヴァー選手の入場だ!その熟練の槍術を魅せてくれるのでしょうか!!期待しましょう!』
クラレンスは、不敵な笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「やあ。よろしく頼む」
「……。ええ、お手柔らかに」
クラレンスが握手をしようと手を伸ばすが、俺は応じずに背を向けて下がる。
そんな俺の態度を見て、またも不敵に笑う。
俺はどうしてしまったのだろう。
何をこんなに苛立っているのだろうか。
いくら考えても分からない。わからない。ワカラナイ。
(……本当に?)
『それでは、試合――開始っ!!』
クラレンスが、槍を空中に投げる。
魔力で繋がれた槍は、まるで鎖鎌のように、俺をめがけて飛んできては持ち主の元へと戻っていく。
俺は槍が戻るタイミングに合わせて、クラレンスへと間合いを詰める。
ズゥゥゥン!!と地響きが鳴る。
足元が崩れていき、俺はバランスを失う。そこに再び槍が飛んでくる。
半身を捻ってギリギリ躱すも、まだ揺れが続いており、立ち上がることすら出来ていない。
「ヴェルト君。君に力の使い方を教えてあげよう」
そう言って、伸ばされたクラレンスの指先が光ると、左の肩に衝撃が走った。
「痛ッッ!!」
放たれた光は俺の左肩を貫通し、壁の魔法障壁に阻まれ消えた。
「ホラ、ぼーっとしてないで、次が来るぞ」
ようやく揺れが収まり、俺は飛び退いて光の矢を躱す。そのまま駆け抜け、距離を詰めようとすると――
ズゥゥゥン!!
再び地面が音を立てて崩れる。
しかし、俺はそれを読んでいた。
「ふふ、確かに空中では地割れの効果はない。だがな!!」
放たれた槍が、俺の左の太ももを貫き、俺は真下へと落下する。
ゴシャ!と鈍い音を立てて地面に激突する。
「空中には、逃げ場はないんだよ、ヴェルト君」
俺は歯を食いしばりながらも立ち上がる。
「もういいだろう、降参したまえよ。それだけの深手だ。もう君に勝ちの目はあるまいよ」
そう言って、俺に指を向ける。指先に集められた魔力が光っている。
<こりゃ、勝負あったな>
<ちっ、クラレンスに賭けとくべきだったか>
戦闘中だというのに、そんな声が鮮明に聞こえ始める。
(分からない、わからない、ワカラナイ)
「……なぜこうも、命が『違って』感じるのだろうか」
その瞬間、あれだけ頭の中を支配していた苛立ちが全て消え去った。
「ああ、そうか」
俺は理解したのだ。理想と現実は違うのだと。『命の価値はみな平等』などと、誰が決めたのか。
とんでもない誤解だ。
『俺にとって』の命の価値が、そんな理想論と共存し、葛藤していた。それが俺の苛立ちの原因だった。
そう認識した瞬間に、確かにあるのだ。序列が。優先される命の順位が。
「……何を言っている?」
クラレンスが、まるで訳が分からないといった表情で問いかけてくる。
「いいや。それよりも、もっと力の使い方ってやつを教えてくれよ」
そう言って俺はクラレンスを挑発する。
「ほう、まだ強がれるか。いいだろう!!力の差を知るのもまた一つの勉強だ!」
そう言って空中から槍を、指先から光の矢を飛ばして攻撃してくる。
冷静になったからだろうか、着弾点が見える。
槍を剣で弾き、光の矢を躱す。その動作で、傷口が広がり、血が流れ出る。
「零の氷刃っ!」
アルマスの凍気を操り、出血を抑え、痛覚を麻痺させる為に、傷口を凍らせる。
「ふっ!!」
クラレンスへと一気に間合いを詰める。
「無駄だ!何度でも繰り返すだけだぞ!!」
(ここだっ!)
俺は全力で飛び、クラレンスは指先を空へと向けた。
しかし、空には誰もいない。
飛び上がるフェイントをかけてその実、俺はただ前へと大きく踏み込んだだけだ。
地割れが起きるはずの魔法陣も発動せず、クラレンスは為す術なく俺の懐への侵入を許した。
「ガハッ!!……な、なんだ、とっ……」
「どうやら、力の使い方は俺の方が上手だったみたいだな」
脇腹からの一閃が致命傷とみなされて、俺は勝利を手にした。
『勝者、ヴェルト・ダンツァー!!』
高らかに俺の名前が宣言され、歓声が沸きあがる。
その瞬間、呪歌【不殺の呪い】が発動され、傷口と魔力がみるみる回復していく。
「ふう。落ちる前に回復が発動してくれてよかった。ヴェルト君、説明してくれないか。なぜ、私の地割れの魔法が発動しなかったのか」
ヴェルトはクラレンスに手を差し伸べる。
「地割れの影響を受けてしまうから、空中に飛び上がるしかない。しかし空中では身動きできずに狙い打ちにされる。ならば、地割れを起こさせなければいい。魔方陣ごと、凍結させてもらいました」
クラレンスがヴェルトの手を取る。
「魔力隠匿で覆い、更に念を入れて地面の下に描いた魔方陣だったのだが、見抜かれていたというのか」
それに対して、俺は首を振る。
「いいえ。ただ、そこに有るとなんとなく……いや、確信めいた感覚があったんです。それに無意識に従っただけで……」
クラレンスが立ち上がる。
「それよりも、試合前に失礼な態度を取ってしまい、すみませんでした。直前に色々あって、苛立ちのまま試合に臨んでしまったので」
「気にしないでくれ。私もその感情を勝負に利用しようとしていたのだからな」
そう言ってクラレンスは、俺の手を上げると、歓声が更に大きくなった。
そのまま促され、俺は勝者のゲートをくぐる。
クラレンスもまた、来た道を戻り、退場する。
その際にクラレンスが一度振り返る。
「最後に見せた彼の右目は、一体……」
勝者の背中は既に、闇へと消え去っていた。
眼とか古傷とか大好きです!




