刹那の一振り
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―選手控室・フィンラルの部屋―
「いやー、ギリギリだったねぇ」
団長がフィンラルの肩を叩く。
「正直、骨折した時点で、敗退は覚悟しましたね。ただ、凌いでいる内に、活路が見えまして」
「そう!その話を聞きたいんだよ!」
俺はフィンラルを急かすように口調を強める。
「まず、あのルークってやつは何者なんだ?傀儡の魔法は、生身の人間に使うのは、大会のルール上では禁止の筈だよな?」
「彼は、正真正銘、生身の人間だよ。魔法で創られた、ね」
フィンラルが答え、呼応するように団長が口を開く。
「さっきも言ったが、あれは恐らく禁呪【創造スルハ想像】で、間違いないだろう。昔、王城の書庫に記述が記されていた物と特徴が一致している部分が多い」
「一致している部分?」
「まずは魔法の特徴だ。通常、傀儡の魔法と言うのは、魔力を媒介とする以上、発動者と常に繋がっているものだ。分かりやすく言うのなら、魔力の糸をくっつけて操る、と言ったところだな。 だが、ミーナの使っていた魔法には、その糸も無ければ、魔力の波長をリンクさせている訳でもない。しかも、ミーナとルークの魔力の根源が、全く一緒だった」
俺もフィンラルも頷く。
そう、だからこそある種の気味の悪さを感じていた。
魔力は、人それぞれで色や形が違う指紋のようなものだ。それが全く同じ、と言うのは本来あり得ないことなのだ。
「それがどういう事を表すのか。ミーナとルークは全く同じ人間である、という事。もしくはミーナもルークも、どちらも魔法体であるということだ」
「――っ!!」
フィンラルの肩が僅かに跳ねる。
「あくまで可能性の話だ。そうと決まったわけではない。ただ、そうだった場合、誰が何の目的で送り込んできたのかを知る必要がありそ――」
「その必要はないわよ」
団長の言葉を遮り、ドアが開かれる。
「魔法学で言えば、私がオリジナルで、ルークが魔法体、という事になるわね」
「……驚いた。もう動けるのかい?」
フィンラルがミーナに歩み寄る。
「おかげさまでね。お兄さんも、傷が治ってるみたいね。 凄いのね、【不殺の呪い】の効果は。 それよりも、お兄さん。最後の『ごめんね』は、何に対しての謝罪だったのかしら?」
ミーナがフィンラルに詰め寄る。
「はは、聞こえてたんだね。あれは単純に、君の大事な人を、紛いなりにも『殺し』てしまったから。そして、それは君から寿命を奪ってしまったことと同義だからさ」
フィンラルの回答に満足したのか、ミーナはにこやかに笑う。
「じゃあ、今度はこっちからだ。試合中にも聞いたけど、君は何故、この大会に参加したんだい?」
「ふふ、約束だものね。……一つは、くだらない承認欲求の為よ。私は確かにここに居て、彼は確かに世界にいた。その事実を、認めて欲しいと思ったから」
そうか、とフィンラルは彼女の頭を優しく撫でる。
「ふふ、撫でられるのは嬉しいけれど、お兄さん。私、もうあなたの倍くらいは生きているわよ?」
「「「え”っ!!?」」」
その場にいた全員が声を揃えて驚愕する。
「……えーと、団長。これも、あれか?若返りの禁呪でも使ってるとか、なのか?」
「……。そういう魔法も無いではないが、どうやら、違うよう……だ……?」
珍しく歯切れが悪い。それだけ驚いたのだろう。
無理もない。姿だけなら、公園で遊んでいる子供たちに交じっていても何の違和感もなさそうだ。
顔立ちだって、どう見積もっても二十歳前後にしか見えない。フィンラルの倍くらいであるなら、五十歳前後の筈だ。
すると、団長が「そうか!」と声を出し注目される。
「その見た目も、『禁呪』の影響だね?」
「うふふ、その通りよ。察しが良いのね」
「どういうことだ?」
俺は素直に疑問を投げる。
「その前にまず、君が使った魔法は【創造スルハ想像】で間違いないかい……ですか?」
「話し方はそのままで良いわよ?その方が私も話しやすいもの」
団長はどこかホッとしたような表情を見せる。
「そうね、間違いないわ」
「ふむ。つまりこういう事だ。この禁呪は、術者の魂を分け与える代償を払う代わりに、術者の想像や記憶を完全なる個として生み出す事ができる。成長する時間をも分け与える事になるんだ」
「もうちょっと分かりやすくならないか?」
「落ち着け、俺も整理しながら話しているんだ」
そんなやり取りをみて、ミーナが口を開く。
「そうねえ。例えば、私の元の寿命が百歳と仮定して、五十歳分の魔力を使ってルークを生み出すとするわね?その場合、私もルークも、残りの寿命が五十歳までになるわ。ここまではいい?」
全員頷く。
「この魔法を使った場合、成長する為の時間も、私とルークで二分割。つまり、普通の人は一年で一歳年を取るのに、私達は二年使うって事ね。ま、実際には魂だけじゃなく、魔力も使っているから、もう少しだけ制限は緩いわね」
「えーと、でもそれはあくまで『身体の成長』であって、寿命までの時間は変わらないって事、だよな?」
「そうねえ。私の年齢は五十一歳で、もう数えるのも止めてしまったけれど、見た目の年齢は恐らく十八歳くらいかしら?成長スピードは、六、七年に一歳程度……で伝わるかしら?もっと言うなら、残りの寿命はもう二年も無いと思うわ」
それを聞いたフィンラルが勢いよく立ち上がる。
「落ち着いて、お兄さん。わたしね、最後にあなたに出会えて、私の想いを思いっきり出し切ることができたんだもの。だからこうして、お話しに来たんだもの。勿論、後悔が全く無い訳ではないけれど、あなた達なら、私とルーク達が生きていたことを、認めてくれると信じたから」
そうして彼女は、昔話を語る。
物心ついた時には、両親は既に居らず、とある教団に育てられた事。
その施設には、同じ境遇の子供たちが沢山いて、魔法の適正検査と、教団に伝わる禁呪の実験が行われていた事。
教団に追われる身となって、一緒に逃げた子供たちは次々と捉えられ、あるいは殺された事。
その時には既に、彼女の精神が壊れてしまっていた事。
「――そして、私は気が付いたの。一緒に逃げてきた〇〇七〇は、初めからいなかったことに。私が創造した想像だった」
滑稽な話よ、と彼女は寂しげに笑う。
フィンラルの拳が小刻みに震えているのは、単なる同情などではないだろう。
自分では量り知ることの出来ない彼女の闇を知り、知って尚、どうする事も出来ない憤りなのだ。
「……。話の途中済まないが、どうやら俺の試合が近いようだ。すまないが、行ってくる」
窓の外を見ると、いつの間にか始まっていた第二試合― ガイル・シュルト 対 <与奪>シャルール・レオニスの試合が、既に決着が着きそうな状況だった。
ガイルは地面に方膝を着き、シャルールを見上げる。一方で、シャルールは剣先をガイルへと向けて立ち塞がる。
見た所、シャルールにダメージは見受けられず、ガイルの方も大きなダメージは見受けられないのだが、立ち上がったガイルは、左足を引きずるように移動し、右腕はだらりと下がり揺れていた。
「ふふっ、あいつもまた、この一年で相当腕を上げたようだ。 フィンラル、二回戦はかなり荷が重いんじゃないか?」
「それでも、やれる所までやってみますよ」
「ふっ、そうだな。では、俺も準備に向かうとしよう」
そういって、団長は部屋を後にする。
「すまないが、ミーナ譲。団長の試合が終わるまで、話の続きは待ってくれないか?」
「勿論よ。貴方達のリーダーさんがどのくらい強いのか、私も興味があるわ」
そう言って、彼女はソファに腰を下ろした。俺たちと一緒に団長の出番を待つことにしたようだ。
―選手通路―
通路の先から歓声が聞こえてくる。
二回戦の決着がついたのだ。
勝敗は気にならなかった。アイツが負けるなどとは思ってもいないから。
歓声が途切れることなく、勝者を告げる実況のアナウンスが入る。
「勝者、シャルール・レオニス!!」
グリムはニヤリと笑い、歩き出す。
ゲートを潜り、闘技場へと出る。勝者の通るゲートに顔を向けると、シャルールがグリムを見て笑い、すぐさま背を向け去っていく。
「おやおや、意識してくれてるじゃないか」
そう呟くと、彼の魔剣【終焉ノ一振】が呼応する。
『お互い様だろう?武者震いしてるじゃないか』
「ははは、間違いないな。要は、相思相愛って事だ」
『一回戦で、無様は晒せないな、フェイト』
「無論だ。油断せずに全力で当たるさ」
グリムがレーヴァテインを地面に刺し、胡坐をかく。
試合直前でも集中を欠かさないよう、座禅を組むのだ。
シャルールの勝利に盛り上がっていた観客達も、その光景を前に次第に静かになっていく。
数分間の沈黙を破るように、グリムの対戦相手であるレイヴァン・マクダウェルが姿を現した。
「シャルールにしか興味はないか?ミスター・フェイト」
グリムは未だ、座禅を組んだまま動かない。
「オーケー。こちらとしても、あなたはただの踏み台だ。そうやって余裕をかまして、足元を掬われる結果になっても、文句は無しでお願いする」
時計の針が動く。
「それでは、三回戦開始の時間となりました!」
再び観客が湧き始める。
「皆さんご存知!昨年の覇者!フェイト・グリム選手! 対するは、シスマーニが誇る双頭ギルド<天裂蒼牙>の実力者、レイヴァン・マクダウェルだぁ!!」
さすがにホームなだけあって、レイヴァンコールが響き渡る。
そんな中で、静かにグリムは目を開き、立ち上がる。
「さて、始めようか」
一言だけ呟き、剣を抜く。
「それでは、第三回戦、フェイト・グリム 対 レイヴァン・マクダウェル!試合開始っっ!!」
「行くぞ!ミスター・フェイト!!」
試合開始のコールと共に、レイヴァンが詰める。
が、ただ突っ込むような無策ではなく、速度を変えてグリムの横を、後ろを、縦横無尽に駆ける。
フェイントを混ぜたり、時々小さな魔法の火の玉などで牽制をしつつ、脚を止めずに動き回る。
レイヴァンが横を通り過ぎる瞬間に、グリムは剣を薙ぎ払うも、空を切る。
その隙を逃すまいと、レイヴァンは全速力で、すれ違いざまに抜刀する。
その一閃は確かに、グリムの首を捉えていた。
「――シイッ!! もらっ…………た……?」
何が起こったのか分からず驚愕し、硬直するレイヴァン。グリムは【終焉ノ一振】の柄でレイヴァンの顎を跳ね上げる。
レイヴァンの身体が宙を舞う。吹き飛ばされながらも、その眼はグリムを捉えており、反撃の意思が残っていた。しかし……。
グリムが腕を伸ばし、人差し指を相手に向ける。レイヴァンの着地間際で、二発の爆発が起こる。
上半身をカバーしていた防具をも弾き飛ばす威力の魔法が二発ともにクリーンヒット。
誰の目から見ても、戦闘続行は不可能だった。
肉の焼けた臭いが立ち込める中、言葉を忘れた実況者が慌ててマイクを握る。
「……しょ、勝者、フェイト・グリム選手!!!!」
勝者の名前が宣言され、ようやく歓声があがるが、どこか盛り上がりに欠ける。
恐らく、観客の殆どは何が起こったのか理解できていないのだろう。
グリムの初撃。薙ぎ払われた剣撃は、空振りではなかった。
レイヴァンの腰に携えられた剣を、鞘ごと両断していたのだ。この時点でもう勝敗は決していただろう。
「ふぅ。意識はあるかい?」
「…………」
レイヴァンから返事が返る事はなく、グリムは「やりすぎた」と反省し、闘技場を後にするのだった。
『爆発二発はやり過ぎじゃないか?』
「ははは、そうかもしれないな。だが、油断するよりはいいんじゃないか?遺恨も残らないだろうし、ね」
そんな会話が、勝者の通路に響くのだった。
英語にドイツ語にフランス語……。
安直に組み合わせてみたら、カッコいいと思った今日この頃です。
次回もよろしくお願い致します!




