禁断の狂気
大変お待たせいたしました!
最新話、お楽しみくださいませ!
【〇〇三七は、何も持たずに育てられた】
物心付いた時から両親は居らず、同じ制服を着た大人たちと、自分と同じ服を着た子供たちが傍に居た。
その子供たちは、身体に焼き付けられた烙印番号で呼ばれていた。
彼女の首筋には、『〇〇三七』と、烙印が押されていた。
【〇〇三七は、欲しい物は全て手に入れていた】
子供たちは週に一回、『テスト』を受ける。
少女は常にトップの成績を記録していて、大人達から常に期待を寄せられていた。
成績優秀者には、おもちゃ、お菓子、一人の部屋でも、何でも与えられるのだ。
少女は、『パパ』にご褒美に何が欲しいかと問われた時、少女は『本当の家族』と答えた。
『パパ』は下卑た笑みを浮かべて少女を抱きしめた。
【〇〇三七は、組織に疑問を持つようになっていた】
ある日、子供たちの数が減っていることに気がついた。
『実験』に行って戻らない者、『実践』に行って戻らない者。
そんな中、特に仲良しだった〇〇六九が呼ばれて、部屋から連れられる。彼は笑顔で「まっててね」と言ったきり、二度と戻ることは無かった。
【〇〇三七は、仲間と一緒に組織を脱走した】
当然のように追手が掛かり、最初は十人いた仲間も、次第に数を減らしていった。
残りが四人になった時、生存率の高い方法を取ることにした。
片足を失った〇〇五〇と、その恋人である〇〇六一が切り出したのだ。
〇〇三七は〇〇五〇を抱きしめて、頬にそっとキスをする。ごめんねの代わりに……。
〇〇三七は、〇〇七〇と指を絡めて、百七十八時間ぶりの人里の灯りを見下ろしていた。
〇〇六九と同じ顔の少年が、愛おしくて堪らなかった。彼女はこの感情を抑える術を知らなかった。
本当の家族が欲しいと願ったとき、パパが教えてくれたこと。
おぞましいと思えたあの行為を、〇〇七〇としてみたいと思った。
〇〇三七は、子を宿すことは、ついぞ叶わなかった。
―シスマーニ闘技場・選手控室―
「よっ!調子はどうだ?」
フィンラルに与えられた控室に、俺と団長、ティアーナにアーシャさんで激励に来ていた。
「ふふ。好調だよ。今朝なんか、『茶柱』、なるものが立った。これがなかなかどうして、縁起が良いそうだ」
「あら!それじゃあ、期待できますわね」
アーシャさんがニコニコしながら胸の前で手を合わせる。
「はは、フラグじゃないことを祈っておくよ」
俺の軽口に、うるせえ!とフィンラルは軽く怒ってみせた。
どうやら強い緊張はしていないらしく、至って冷静なようで、俺も安心した。
「ミーナ・ファレン、だったか。予選の戦いぶりを見るに、確かに強いけど、付け入る隙もあったな」
「うむ。だが油断は禁物だ。相手もまた、フィンラル同様、手の内を見せていない様子でもあった」
団長の言葉に、フィンラルは頷く。
「ネックなのは、相手の魔力の流れが見えなかった事だな。よっぽど魔力隠匿に長けているのか……。まあ、今気にしても分からないものは分からないからな。常に警戒しておくさ」
フィンラルは立ち上がり、壁に立てかけてある剣に手を伸ばす。
すると、剣が淡く光り出したかと思えば、ふわっと浮かんで、フィンラルの手に収まる。
「いよいよですね。応援してます!」
ティアーナが笑顔で送り出す。
俺は拳を握り、フィンラルの背中にコツン、と当てる。
フィンラルは無言で片手をヒラヒラと振って、部屋を後にした。
「さて、俺達も控室に戻ろうか」
「あ、それでは、私のゲストルームで観戦しませんか?」
と、アーシャさんが提案してくれたが
「すみません。俺も団長も、フィンラルの試合を見届けた後は、すぐにイメージトレーニングに入るので、控室で観戦します」 と断った。
少し残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔で
「わかりました!でも、試合前には激励に来させてくださいね!」 と答えた。
「では、我々も行こうか」
団長が切り出して、それぞれの部屋へと戻っていった。
―闘技会場―
「観客のみなさーん!大変お待たせしましたっ!!それではこれより、第六八回、闘技大会決勝トーナメントを開催いたしまーす!!」
わあああぁぁ!!と、大歓声が上がる。
「一回戦から注目の好カード!ともに初参加ながら、実力は折り紙つき!!みなさんはどちらに投票したかな?投票結果は……こうなったっ!」
司会が後ろの巨大モニターを指差すと、フィンラルとミーナの顔と名前が写し出される。
「投票数、六千二百五票!フィンラル選手が三千九百十二票!ミーナ選手が二千二百九十三票となりました!個人的にはイケメン剣士は負けてしまえと思うので、ミーナ選手に勝ってほしい所ではありますが!」
会場が、わはは、と沸く。
「それでは早速、選手に入場して頂きましょう!」
西門、東門に同時に煙幕が上がり、東門より、フィンラルが先に姿を現わし、中央へと向かう。
少し遅れて、西門からミーナ・ファレンが、相も変わらず、その小さな体に似つかわしくない大剣を、片手で持ちながら笑みを携えて歩みを進める。
ミーナは中央に着いても歩みを止めずに、フィンラルへと詰め寄る。
「お兄さん、格好良い顔立ちしてるわね。うふふっ」
「光栄だね。君もなかなか、可憐なお嬢さんだ。こういう場でもなければ、ダンスのお相手を申し出たいところだ」
「あら?いいじゃない。踊りましょう?ただし――――」
ミーナが後ろへと飛び退く。
「試合、開始ぃぃっ!」
審判の試合開始の合図とともに、ミーナが凄いスピードで間合いを詰める。
「――っ!!」
ドゴォォン!と、けたたましい音と共に、土煙が上がる。
「ただし、踊るのは、あなた一人かもしれないけれども、ね」
ペロッ、と舌を出して、ミーナが言う。
「なかなか、やんちゃな一面もあるようだ」
フィンラルは笑みを浮かべてはいるが、ミーナの操る大剣の攻撃範囲に、防戦一方になっている。
しかも、迂闊に近づけば、予選でも見せた体術が飛んでくる。
「大きい得物の弱点は、懐に入られた時に、攻撃手段を持たないこと」
フィンラルは、意を決して、ミーナの攻撃のタイミングを計り、零距離まで間合いを詰めた。
が、勿論ミーナもそれを読んでいたので、すぐさま剣を手放し、掌底を放つ。
「くっ――!」
フィンラルが後方へと飛ばされる。足で踏ん張ってはいたが、軽く五メートルは流されただろうか。
しかし、威力が死んだ瞬間に、再び間合いを詰めにかかる。
「もう一つ。上空からの攻撃に、迎撃手段が乏しいこと!」
懐に入ると見せかけての上空からの攻撃。
零距離の戦闘に向けて無手で構えていたミーナは、一瞬対応が遅れた。
魔法で大剣を上空へ動かして、直撃は免れたが、フィンラルはすかさず零距離の間合へ入り、掌底を入れる。
ミーナの軽い身体は、簡単に吹っ飛び、地面に叩き付けられる。
「格好良い上に強いなんて、素敵ね、お兄さん。うふふ」
よろよろと立ち上がりながら、それでも尚、口元には笑みを浮かべてそんな事を言ってのける。
「君のダンスのお相手には、なれているだろうか?」
フィンラルもまた、余裕を見せるようにそう口にする。
「愉しんでいるわ!こんなに高揚したのは久しぶりよ」
目を見開き、嗤う。
そんな彼女の顔を見て、フィンラルは一瞬、足が固まってしまう。
まるで狂気に触れたかのような身体の強張りを感じたのだ。
そしてミーナはその一瞬を逃さなかった。
「ずあっ!」
自分よりも大きい剣を振りかざしながら飛び上がり、思いっきり振り下ろす。
硬直していたフィンラルは、避けきれないと判断して、剣に魔力を流し込み、ギリギリ一撃を食い止める。
しかし、その圧倒的な重みに身体が悲鳴を上げた。
(ぐっ!!左手首、折れたな、こりゃ……)
まともに受けたフィンラルの左手首は、赤黒く変色し、ぼっこりと腫れ上がり始める。
踏ん張った足元には、巨大なクレータが出来あがる。凄まじい土煙が巻き起こり、客席から二人の姿が完全に隠れてしまう。
「あら?完全に仕留めたと思ったのに、本当に強いのね、お兄さん」
「ふふ、可憐なお嬢さんを、一人で踊らせる訳にはいかないからね」
とは言ったものの、フィンラルには既に余裕はない。
後手に回って様子見をしていたが、このままではジリ貧。勝負に出ることにした。
(土煙に紛れて魔法で牽制しつつ、確実にダメージを与える!)
「今度はこちらから行かせてもらうっ!!」
そう言ってフィンラルは土煙に姿を消し、ミーナの死角から、無数の火球を放つ。
が、ミーナもそれは当然お見通しであり、飛び上がり回避する。飛び上がった先にも火球が向かったが、大剣を振り払い、簡単に消し去る。
ミーナは着地と同時に、火球が飛んできた方向へと一気に距離を詰める。
「――っ!!」
何かに足を取られる。
地面を見ると、数か所に渡り、小さな沼があった。
ミーナは思い切り地面を蹴っていた分、泥濘に足を取られて、全く動けないでいた。
「もらった!!っはあああぁぁァァ!!!!」
ミーナの後方からフィンラルが姿を現し、剣を抜く。
一閃。
土煙が薄れてきたが、まだ影で見える程度だった。
その影は、線の細い男から伸びた剣が、小さい少女の身体を貫いていた。
やがて完全に土煙が晴れると、驚愕の光景がそこにはあった。
「がはぁっ!!ぐっ……き、君は…………っ!!」
「うっふふふふ、あーっはははは!!」
フィンラルの剣は、少女の脇腹をかすめ、そこで止まっていた。
代わりに、フィンラルの鳩尾を、槍先の鉄球が抉っている。
「紹介するわね、お兄さん。彼は二度と戻ってくることの無い私の最愛。ルーク・ファレンって言うの」
そこには、無表情でモーニングスターを構えるミーナの双子の弟、ルークが立っていた。
「ぐうっ、バカな……っ!これは明らかな、ルール違反じゃないかっ!」
ミーナは意にも返さず、言葉を続ける。
「ねえ、お兄さん。アナタには、ルークが人間に見える?作り物に見える? 私の愛しの、愛しの、愛しの、いとしのイトシノ……イトシノぉぉぉっ!!!!」
ミーナは、ルークと共に波状攻撃を仕掛けてくる。
何とか躱し、あるいは受け流しているが、深手を負ったフィンラルは徐々に傷を増やしていく。
(なぜだ!?何故試合が止まらない? こんな明らかな反則行為……っ!?反則ではない、のか?)
攻撃を受けながら感じる違和感が、確かにあった。
同じなのだ。
ミーナの大剣に纏っている魔力と、ルークが槍に纏っている魔力が、寸分の狂いも無く同じであった。
更に言うなら、術者であるミーナとルークの魔力の根源まで、一切の濁りも無く、全く一緒であった。
―選手控室・グリムの部屋―
「団長!!」
俺は急ぎ、グリム団長の控室へと入っていった。
「これは一体、何が起きているんだ?あれは、明らかに反則じゃないか」
団長は、窓から目を離さずに口を開いた。
「禁呪……【創造スルハ想像】、想像を創造すると言われている失われたはずの魔法だろう」
「あの、ルークってやつそのものが魔法だってのか?まさか……」
理解が追い付かず、逆に混乱する。
「俺も詳しいことは分からんが、とにかく今は見届けるんだ。フィンラルはまだ諦めていない」
俺は頷き、再び戦いに集中する。
―闘技会場―
「っ!なる、ほどっ!!」
ガキィィ、とミーナの大剣を弾き、フィンラルは再び距離を取る。
「見えてきたよ。ルーク・ファレン。君はミーナの……魔法で作られた存在、なんだね?」
ルークは相変わらず無表情で、代わりにミーナが答える。
「そう。その通りよ。でも、そんな風に言ってくれたのは、お兄さんが初めてかも。他の人はルークの事を『偽物』とか言って認めてくれないもの。『存在』としてみてくれたのはお兄さんだけ」
そう言って、愛おしげにルークの首筋に指を這わせる。
「私はルークであり、ルークは私。私の記憶のルークを『使って』、私自身の命を『投影』して魔法を発動しているわ。だから、私が死なない限り、ルークも死なないの」
フィンラルはぞっとした。
目の前の少女は、ルークを『自分と同一』と言う、ある意味、『信仰』で行動し、そしてそれを全て生きる理由としているのだと悟った。
「……君は何故、この大会に参加を?」
「私とルークに勝つことができたら、教えてあげる」
ミーナが大剣を構える。
「ま、重症のお兄さんには、無理だと思うケド……ねっ!!」
意表を突くミーナの攻撃。
魔法で大剣の重量を操作し、フィンラルに向かっておもいきりブン投げる。
フィンラルはそれを躱すが、すぐにルークが槍で何度も突き、なぎ払い、また突いてくる。
しかし、フィンラルの意識は最初から、ミーナではなくルークに向けていた。
「ずあっ!!」
一瞬、強い光が弾ける。
ボト、と地面に腕が落ちる。
その腕には『〇〇六九』と烙印番号が記されていた。
「…………うそ」
ミーナが呟く。
「そんなはず、ないわ。そんな、そんな……うわあぁぁぁぁ!!!!」
叫び声に呼応するかのように、ルークが残った腕で槍を取り、フィンラルに仕掛ける。が、見切っていたフィンラルは体を捻って回転。そのまま勢いを利用して横薙ぎ一閃。
再び光が弾けると、ルーク・ファレンは『消滅』した。
「ルーク……?嫌、いやぁっ!!嫌、嫌、嫌あっ!!!!」
ミーナはフィンラルを激しく睨みつけ、魔力を最大に高める。
「やめた方がいい。君はさっき言った。君自身の命を『投影』していると。使えば使うほど、強く魔力を込めれば込める程、君の寿命は減ってしまう。詳しくは分からないけれど、そういう魔法なんだろう?」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!」
聞く耳を持たず、ミーナは禁呪【創造スルハ想像】を発動する。
すると、今度は四人の少年少女が現れる。
片足が無い少女。支える少年。そして、ルークが二人。
「うふ、うふふふふ……あははははは!!!!ねえ!これが私の大事な大事な大事な、愛しい家族なの!紹介す……」
ミーナが言い終わる前に、その全てをフィンラルが切って伏せた。
「この剣は、魔剣【退魔の剣】と言って、この剣で切った魔法は全て『例外なく消滅する』んだ。それ以外の攻撃は、至って普通の剣だけどね」
「あはは、あは、あははははははは…………」
魔力が尽きたミーナは、その場に為す術もなく倒れこんだ。
「勝負あり!一回戦、第一試合。勝者、フィンラル・ゼルファルド!!」
フィンラルはミーナに近づき一言だけ呟き、会場を後にした。
「……ごめんね」
一回戦から飛ばしすぎた感は否めないです。
後悔はしていない!です!笑




