第六十八回闘技大会・予選②
最新話、お楽しみください٩(๑òωó๑)۶
―選手控室―
試合を終え、元の控室へと戻ろうとした所で、俺はスタッフに呼び止められた。
「ヴェルト選手。勝ち上がった選手は、こちらではなく、個別の控室へとお願いしております」
どうやら、勝者は個別に控室が用意されているらしい。
「ああ、分かりました。ただ、ちょっと確認したいことがあるので、五分だけ戻らせてください」
そう言って、俺は予選選手の控室へと入っていく。
そこには、まさにこれから予選を行う選手たちと、既に敗退が決まり、帰り支度を進める選手がいた。
(多分、戻ってきてるはずなんだが……。ん?あそこにいるのは)
部屋の角に、荷物を纏めているイリーガル・ストレーを見つける。
丁度いい。あいつにも用事がある。
「よう、ストレー。さっきはどうも」
ストレーは一瞬目を見開き驚いたような表情をしたが、俺がここに来た意味を察したのか、すぐに気まずそうな表情に変わる。
「あ……お、おう。ダンツァーか。俺の完敗だよ。でっけえ啖呵を切ったってのに、あんなにあっさりと負けちまっちゃぁ、格好つかねえやな」
乾いた笑いと共にストレーが言う。
「まぁ、勝負は時の運とも言うしな。それよりも、約束、覚えているよな?」
「もちろんだ。俺も謝罪を入れようと思っていたんだが……。どこにも見当たらないんだよな、アイツ」
まぁ、ストレーに雑魚呼ばわりされたにも関わらず、それでもその視線は俺を睨みつけていたのだ。そもそも耳にすら入っていなかったのかもしれないが。
まぁ、それでもケジメはケジメだ。ストレーには『彼』への侮辱を誤ってもらう。
「ストレー。彼の名前は知っているか?」
「え、あぁ……。確か、フェノ・ドゥって名前だったはずだ」
それを聞いて、俺はニヤリと笑う。
「よし、ストレー。一回だ。一回で済ませよう」
「はぁ?な、何をだよ?」
訳が分からない、といった表情でイリーガル・ストレーが問う。
「決まってるだろう。謝罪だよ、しゃ・ざ・い」
二分後、大きな声で廊下に響き渡るストレーの謝罪の言葉。建物内にいれば、間違いなく聞こえているだろう。俺は満足して、その場を後にした。
―個別控室―
大会中、俺専用の個室だと紹介されたこの部屋。
(ホテルの部屋も、この部屋も、広すぎるんだよなぁ)
ただ一つ、ホテルの部屋と違って、この部屋には、必要最小限の物しか置いておらず、剣の素振りには困らない。遠慮なく振らせてもらおう。
部屋の中には、大きな窓があり、そこから闘技場が見えるようになっている。どうやら、闘技場の周りを一周するように、ここと同じような部屋が作られているようだ。
そして今、休憩時間が終わり、予選第六ブロックの試合が始まる所だった。
部屋には、スピーカーも備え付けてあり、実況・解説なども手動で切り替えることができるようだ。
俺は、実況を入れるよう操作し、窓際に椅子を置いて観戦することにした。
「(ガガッ)……くブロック、試合……開始っ!!」
第六ブロックの勝者は、クラレンス・オリヴァー。
両方の先端に付いた槍が、前後左右に隙が無く正確に敵を貫いていた。
一人だけ、彼に匹敵する実力者がいたのだが、クラレンスが槍を地面に刺した瞬間、いつの間に描いていたのか、魔法陣が発動した。
地属性の魔法で、魔法陣の内側だけ、立つことも困難なほどの地震を起こすのだ。
発動の瞬間、クラレンスは槍を引き抜きつつ上空へ飛びのき、地震から逃れる。そのまま相手を一刺し。決着となった。
第七ブロック、勝者はカイト・ピエールだ。
彼はまず、見た目が奇抜であり、ある意味全員が注目していた。
ピエロなのである。しかし、試合が終わってみると、納得せざるを得ない、といった感想になってしまった。
彼には武器が無いのだ。というより、身に付けているもの全てが武器なのだ。
剣や槍などではなく、そのポケットから何故その大きさのボールが出るのだ!と突っ込んでしまいそうになるほど馬鹿デカいボールを取り出し、玉乗りを始める。しかし、サーカスではよくある光景で、球の上で転んでしまい、そのまま玉が転がっていく。
「邪魔だ」と、剣で薙ぎ払う。すると、ドカン!と大爆発。それだけで約半数が失格となった。
次に、何故か身に付けていた猫の尻尾を臀部から取り外し、まるで中に針金でも入っているのかと思うくらいに真っ直ぐに伸ばす。それを手裏剣のように鋭く投げつけると、正確に相手の喉や額に直撃。等々、多彩な攻撃を放って見せた。
第八ブロックの勝者、スケイル・レティーシア。
実況によると、前回の決勝トーナメントの一回戦で団長と戦い、負けているようで、リベンジを狙っているとの事。
しかし、実力は確かで、フィンラルと同様、手の内を全く見せずに勝利。
強いて言うならば、得物が鎖鎌、という事だけしか情報が得られなかった。
第九ブロックにて、戦慄が走る。
俺は一人、異質な存在を目で追っていた。
テレビなどで、数回見た事がある、あれは恐らく……『着物』と呼ばれる東方の正装だったはずだ。
すると彼が、東方の国からの参加者で、『天笠流』の使い手なのだろう。
(……お手並み拝見、といこうか)
早速、開会式でのスピーチが効いていたのか、彼の傍には五人が囲むように集まった。
(いくらあのスピーチを聞いた後だとしても、あそこまであからさまに手を組まれると、見てるだけの俺としては、何とももどかしい物だな)
三人が同時に仕掛ける。
間合いだというのに、『天笠流』は構えのまま、剣も抜かず、一歩も動かない。
(まだ動かない?なんだ?何かを狙っているのか?)
そうして、動かないまま、三人の得物が振り下ろされ、そのまま『天笠流』の後ろへと駆け抜ける。
しかし、地面に倒れこんだのは攻撃した三人の方だった。『天笠流』は尚も構えのまま、微動だにしていない。
(何をした?魔法、ではないな。魔力流が全く反応していない……。となると、一体……)
残る二人が、息を飲み後ずさる。
そして意を決したのか、前後で挟み込み、攻撃を仕掛ける作戦のようだ。
すると『天笠流』は、構えの足を左右逆に置き、再び静止。
それを見た二人は恐らく、舐められた、挑発されたのだ、と勘違いをしたのだろう。
すぐさま、同時に切りかかる。
後ろにいた男が飛び上がり、全体重を乗せた大槌を振り下ろす。
前にいた男は逆に、腰の位置を限界まで落とし、低姿勢からの切り払いを狙っている。
(なっ!?)
『天笠流』は、前に出した左足を蹴って後ろへ飛び、そのまま右足を軸に回転。右手での薙ぎ払いで後ろの男と視線を合わせる事無く撃破する。飛び退きながら回転したことで、前方の男の切り払いは空振りし、体制が整っていない所を、その回転のまま軸足を蹴り、前方へと飛び、切りつけた。
軸足は空中にあったのに、だ。
このブロックに、彼に匹敵する実力者は居らず、第六ブロックの勝者は『天笠流』、もとい、天笠・渓となった。
(ケイ・アマガサ……。最初に三人を同時に倒した正体不明の攻撃、そして、空中からの身のこなしと、二回飛ぶなんて離れ業……。とんでもない化け物だ、ありゃ)
開会式でのタクヤ・ツバキの優勝宣言も、パフォーマンスなんかじゃなく、本気の言葉だったのだ。
試合を見ていた全員がそれを悟ったのだった。
続く第十ブロック、勝者はミーナ・ファレン。
第二ブロックの勝者、ルーク・ファレンの双子の姉だそうだ。
双子というだけあって、体格は子供のように小さく、軽い。
そして扱う武器もまた、いや、ルークをも超える禍々しさだった。
それは自分の身長よりも遥かに大きな大剣で、恐らく重さもまた、ミーナよりも重いだろう。
しかし、彼女は重さを感じさせない見事な剣捌きを見せる。
その攻撃範囲を活かし、多人数を巻き込む回転切りや、懐に入られた時には、剣を放して、蹴りを放つ。
どうやら体術もこなすようで、その一撃はしっかりと顎を捉え、脳を揺らすのだった。
第十一ブロックの勝者、エリオット・クレイドル。
彼がこの試合で使ったのは、一つの魔法だけだった。
正直、俺は彼の戦術には度肝を抜かれた。
彼が使った魔法は、植物を操る魔法だ。
土の下に魔法陣を描き、発芽と成長の魔法を同時に発動させる。
そして、茎や蔓で全員の両手両足を縛り上げてしまった。それも、魔力を極力隠した状態で。
この大会で唯一の、誰も傷一つ付かない試合だった。
最終、第十二ブロックの勝者はレイヴァン・マクダウェル。
彼は、クレスタと同じ第二ギルド<天裂蒼牙>に所属しており、指折りの実力者である。
この予選でも、腰に携えた剣を抜くことさえなく相手を全く寄せ付けずに圧勝。彼もまた、一切の手の内を見せる事はなかった。
こうして、第六十八回闘技大会の決勝トーナメント出場者、十六名が出揃った。
<剣聖>ザクス・クレイル
<瞬断>フェイト・グリム
<与奪>シャルール・レオニス
<戦華>シイラ・ベスティア
のシード選手を筆頭に
ガイル・シュルト
ルーク・ファレン
フィンラル・ゼルファルド
クレスタ・グローリィ
ヴェルト・ダンツァー
クラレンス・オリヴァー
カイト・ピエール
スケイル・レティーシア
ケイ・アマガサ
ミーナ・ファレン
エリオット・クレイドル
レイヴァン・マクダウェル
予選で確かな手応えを感じながら、緊張と期待を胸に、俺は再び闘技場へと向かうのだった。
いよいよ本戦スタートじゃ!!!




