零の氷刃
少しだけ書き溜めていたので二日続けて更新します!
―聖アルメリア教会・礼拝堂―
左右に規則正しく並べられた参拝者用の長椅子と、正面の壁には星空を思わせるステンドグラス、その両端にはティアーナの言う『柱』が立っていた。
幸いなことにこの時間に参拝者は来ていなかったらしく、俺たちはすぐに純魔力の泉へと案内してもらえることになった。
礼拝堂の左右に扉があり、一つは子供たちのミサや、勉強の為の部屋だそうだ。
俺たちの目的はもう片方の扉で、コルドー司教について行く。
「この扉の先が、純魔力の泉でございます。」
司教がガチャリ、とドアを開けると、その部屋の中には庭園が広がっていた。
日光の差し込まない屋内で、とても見事に咲き誇る花や、蝶などの虫までいる。
「ここにある花は、全てマナによって生きております。故に、泉の魔力が枯渇しない限り、永遠に枯れる事はないのですよ」
にこやかに司教が説明すると
「さて、早速始めましょうか。ヴェルトさん、まずは魔剣を出してください」
無言で頷くと、俺は大きな箱を開けると、透き通った刀身が姿を現した。
柄を持ち、改めて刀身を覗き込む。その幻想的な美しさに見蕩れるばかりだった。
「これは美しい……さぞや立派な魔剣なのでしょうな。では、皆さんはここでお待ちを」
言われて、団長とティアーナは歩みを止める。
少し心配そうに見つめるティアーナと、口元に笑みを浮かべている団長。
「では、ヴェルトさん。魔剣の剣先を泉に浸けてくだされ」
俺は頷き、剣先を純魔力の泉へゆっくりと入れた。
すると、泉の魔力に呼応するかのように、剣先から徐々に淡く光っていく。
「ヴェルトさん、そのまま絶対に剣を放してはいけません。まもなく、その光が剣全体を覆います。それに伴って、剣に熱が帯び始めますが、火傷することは絶対に無いので、どれだけ熱くなっても絶対に放さないでください」
そう言う事は先に言っておいて欲しい。
団長もそうだが、俺の周りには秘密主義が多すぎるのではないだろうか?
ともあれ、それを聞き入れた俺は覚悟を決める。
やがて剣が光に覆われ、徐々に熱を持ち始めた。
「まだです。まだ剣先は泉に浸けていてください。この後は、どんどん熱が上がっていきますが、その熱量は剣の魔力と比例します。どうしても耐えられなくなったときは、絶対に泉から剣を出してから手を放してください」
団長がチラリ、とティアーナへ振り替える。
「純魔力の泉は、人間の魔力に触れてしまうと、一気に穢れ、枯渇してしまうと言われています。したがって、泉の中に魔剣を入れてしまえば、その魔剣を二度と取り出すことは叶わなくなるのです」
と、ティアーナが説明する。
だから、そう言う事は先に言えよ……
光の強さが増していくと共に、熱量も上がってくる。が、
「…………?」
気のせいだろうか。熱の上昇が止まった気がする。
(熱量に応じて剣の魔力に比例する、って言ってたよな?)
「もうすぐ、徐々に光が収まります。完全に収まった時に魔剣の魔力は復活している事でしょう。それまで耐えてください」
「いや、ちょっと待ってください。コルドー司教、確かに今熱を持っていますが、ジーさんバーさんが好んで入る風呂の温度くらいでしかないんだが?」
その言葉に、司教が驚いた顔をする。
「なんとっ!?そんなはずは……私の見立てではその剣は少なくともAランク、いや、下手をすればSクラスと睨んでいたが……ううむ、わかりました。とにかくヴェルトさん。光が収まるまではそのままでお願い致します」
俺は頷き、再び魔剣に集中する。が、やはりこれ以上熱量が上がる事はなかった。
やがて光が収まって、俺は剣を泉から引き上げようとした時だった!
『久しいな、グレドラード。貴様が眠りについて約四百年、すっかり世界は堕落したぞ』
脳内に直接声が流れ込んでくる。剣との会話である。
「何を言っている?俺の名はヴェルト・ダンツァーだ。グレ……なんちゃらなど知らんぞ」
『……ふ。フハハハ!そうかそうか。我が主さまは随分とのんびりしておられるようだ』
高圧的な女性の声で俺の脳に語りかけてくる。
『なるほど、ナルホド。我の記憶すら無い所を見ると、まだ覚醒していないと見えるな』
「覚醒だと?」
『まあ、よい。そのうち分かる。それよりも、久方振りのこちら側じゃ。楽しませてもらうとするかの』
そう言って魔力は剣に収まった。
「ヴェルトさん、やはり最後まで熱量は上がらなかったですかな?」
コルドー司教が俺に問いかける。
「ええ。持っていられない程のものではありませんでした」
その答えを聞いた司教は、首を傾けながら髭を手で弄る。
「ふうむ。ちなみに、剣との対話はできたのでしょうか?」
「はい。久方振りに楽しませてもらう、と」
俺はその場で剣との対話の内容は伏せた。
理由は二つ。一つは単純に俺自身が内容に整理がついていない事。
もう一つは、あくまでここは俺たちにとってはアウェイであり、この胡散臭い司教に全てを話すことが憚られた為である。
礼拝堂まで戻ってきた俺たちは、改めて魔剣を眺めていた。
透き通るほどに美しい刀身はそのままに、大小の氷紋が星のように散りばめられている。
他に大きく変わった箇所はなく、秘められた魔力もBランク程度の物だろうと司教と団長が口を揃える。
だが、確信めいた何かが、それは間違いだと俺に思わせる。
教会が管理する魔剣図鑑にもその姿は見当たらないので、この剣を俺は【零の氷刃】と名付けた。
「綺麗な剣ね。なんだか心が洗われるようだわ」
「ええ、本当に……」
礼拝堂で待機していたシスターとティアーナがうっとりとした表情で溜息をもらす。
無理もない。まるで宝石でも見ているかのような美しさだ。男の俺でも見蕩れるほどの。
すると司教が髭を摘みながら、
「はは、まるで宝石でも見ているようですねえ」
うん。俺の感想を返せ。
こうして無事、魔剣に魔力を戻すことに成功した俺達は、街へ戻ることにした。
街まで買い物があるというシスターを護衛を兼ねて連れ立つ事となった。
「それではコルドー司教、この度は大変お世話になりました」
ティアーナが礼儀正しく礼をする。
「いえいえ。こちらもとても珍しい物を拝むことができました。ティアーナ君、みなさん、お互いこれからも精進しましょうぞ。」
「はい。ありがとうございました」
「では司教、買出しに行ってまいります。明日の昼には戻りますので」
俺と団長に続き、シスターもペコ、と礼をし、聖アルメリア教会を後にする。
「……あの魔剣は、確か…………」
俺達が去った後、暗く呟くコルドー司教だった。
―王都シスマーニ・カロッサ区―
夕刻、日が落ちかけてきたころ、俺たちは街に到着した。
どうやらシスターの実家もカロッサ区にあるらしく、俺たちは別れた。帰りの護衛も第二ギルド<天裂蒼牙>に依頼してあるので必要ないそうだ。
「さて、この後はどうする?後は闘技大会まで特にすることも無いんだろ?」
「そうだな。昨日は誰かさんが早々に酔いつぶれて、観光らしい観光もできてない訳だし、今日は外食でも繰り出そうか」
「ぐう……悪かったよ。ちょっとだけのつもりだったんだが、あまりにも地酒がおいしいもんで、ついな」
団長に痛い所を突かれ、ティアーナも呼応するように口をへの字にしながら、うんうん、と頷く。
「そうそう、昨日ホテルを出てすぐの所で、テレビのインタビューにあってさ、そこで取り上げられていた東方の国に伝わる料理、天ぷら!すげー美味かったぜ!そこにしよう。お詫びに俺が出すからさ」
「聞きましたか?ティアーナ君」
「聞きましたわ!フェイト団長」
こういう時だけ、スゲー息ぴったりだな、この二人。
「言質取ったわよ、ヴェルト?」
「いやいやー、太っ腹だねえ、ヴェルト君は!」
(えーっと、財布にいくら入ってたかな……)
「なあーに!金貨一枚でお釣りは出るさ!多分な!」
金貨一枚でひと月人が暮らせるんだよバッキャロー!
と叫びたい衝動に駆られたが、ギリギリ飲み込み、引きつった笑顔で俺はお店へと案内したのだった。
店に着くと、どうやら繁盛しているらしく、少し待ち時間があるようだった。
「うーん、どうしようか?私は別の場所でもいいけど」
「そうですねえ。折角のヴェルト君の奢りですから、普段食べる機会の少ないものを、と思うのですが」
意地悪な笑みを浮かべた団長がこちらを見る。そんなやりとりをしていると
「……あら?皆さんは……!」
――!!
その声を聞いた瞬間だった。
俺と団長の身体が一瞬跳ねあがる。
振り返ると、昨日闘技場までの道案内をした美人なお姉さんがそこに立っていた。
「あ、ああ。今晩は。いいお天気ですねえ」
日はもう既に落ちていた。
相変わらず魅了がだだ漏れなので、魔力耐性が低い者が近くにいないかを気に掛ける。
こういう時は、魔法適性がゼロの人間が心底羨ましい。声を聴こうが、仕草を見ようが、ただの美人なおねーちゃんで済むからだ。
「ふふっ、皆さんは、『和』の料理を嗜みに?」
ティアーナが少し引きつった笑顔で
「ええ。でも残念ながら、お店が満席なようなので、私たちはこれで」
無理矢理立ち去ろうとする。が、
「もしよろしければ、『料亭』というものをご紹介させていただきますよ?昨日のお礼もしたかったので、いかがでしょうか?」
ティアーナが反応するよりも早く、俺と団長は口を揃えて
「「是が非でも!!」」
……こういう時だけ、スゲー息ピッタリなんだ、俺たち師弟。
皆様、まだまだコロナには気を付けてくださいね!
暖かくなってきたので、夏バテや熱中症などもしっかりと対策しましょう!




