三
嵯峨野のふもとに、一見て寺を思わせる佇まいの屋敷が、木立に隠されるように建っていた。
古き時より建てられているようで、塀のいたるところに苔が生え、つたが絡みついている。
門へ辿り着くまでの道は、数十段の石段が周りの景色に溶け込むように自然に造られていた。
その石段を、一人の虚無僧が上ってきた。
虚無僧は、音ひとつ立てずに石段をかけのぼると、門の前で身なりを正し、ゆっくりと中へ消えていった。
「やっと戻ったか」
門より中庭へとはいってきた虚無僧を、やや白髪の交じった髪と髭を蓄えた初老の男が縁側に座って出迎えた。
虚無僧の天蓋が取られると、赤い髪が現れた。
「遅くなりました・・・少々、寝すぎました」
「また、御蘭の所か・・・」
「・・・はあ、ほかに行くとこもなく・・・」
赤い髪を何度もかき上げながら、照れくさそうな声を出した。
その様子を微笑ましく思いながらも、
「女子遊びも程々にの、女は男の力を吸い取る。お前ももう大人、多くは言うまいと思うが・・・」
男は、少々厳しき感を口調に込めた。
「判っております・・・しかし退魔の後は、血が騒ぎますゆえ・・・どうかお許しください」
叱られた子供のような顔で、若者は答えた。
その顔を見て、男は大声で笑い、
「判っておる、わしにも覚えがある、自分ではどうにもならんほど血がたぎってしまうものだ・・・判るがゆえ、程々にと申しておるだけよ、そのようにしょげずとも良い」
しばらく談笑が続き一息つくと、目線を空に移し男は続けた。
「ところで鶏冠よ・・・昨夜の首尾はいかがであった?」
冷やかされて困り果てたようにしていた緑の眼は、その問いを聞くや否や、神妙な光を映し出していた。
「・・・男と女・・・・・・そして、幼子が一人・・・魔物と判っていても、赤子を殺すというのは・・・・・・」
「そうか、御苦労であったな・・・しかし、そう感じる優しさが、おまえに隙を作ることになる、姿は赤子であっても、もう何百年と生きておる魔物・・・男と女は人であったが、魔物に取り込まれてしまったもの・・・可哀そうだがしかたのないことだ」
「・・・・・・」
「されど・・・その優しさを捨てろとは言わぬ、それはお前にとって甘さでもあるが、最大の強みでもあるとわしは思っている」
相変わらず何処を見るともなく言葉を発する男の声を、鶏冠は聞き言った。
(わたしはまだまだ子供、もっと修行をせねば・・・体も心も・・・このままでは自身で心を潰しかねぬ・・・この弱気心を、もっと強く、強く)
「そう思い詰めずとも良い、少しずつそのようにできるようになるものだ」
鶏冠が何を考えているのか、全て判っているように、男は優しき声をかけた。
そういわれても、まだ言いたげにしている鶏冠を制するように男は続けた。
「戻ってすぐではあるが、一つ届け物を頼まれてはくれぬか?」
男はそう言いながら部屋に上がると、奥より包みを一つ持って戻ってきた。
「これを芽蕗恵寺の尼僧様に届けてはくれぬか?」
「連翹様にですか?」
「うむ、江戸の動きが気になる」
「と言われることは、中身は『白の書』でございますか?」
「そういうことだ、詳しくは文に書いていたので、これもお渡ししてくれ」
『橘倫道』と書かれた手紙と共に、荷を渡される。
「他の者を使わせてもよかったのだが、物が物だけに、お前に行って貰えるのであれば安心に思えるのでな、それにお前も久しく連翹様に会うておらぬであろう、顔をお見せしてくるがよい」
「承知いいたしました、それではすぐに」
鶏冠は、倫道に一礼して天蓋を被ると、荷を背負い、くるりと向きを変え門を出て行った。
空はちぎれ雲一つなく、青き色で染めつくされていた。
「しょうちいt




