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アルカディア・レコード ― 世界最強なのに、人と話せません ―  作者: 南蛇井


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第68話 『繋がる世界』

 深層断裂域。


 世界最大の傷。


 空は裂け。


 黒い光が膨張していた。


 最終段階。


 イヴの警告が。


 冷たく響いている。


《最終段階移行》


《断裂域臨界接近》


 風が荒れる。


 空間そのものが。


 悲鳴を上げていた。


 悠は立っていた。


 断裂域の縁。


 向かい合う。


 ゼロス。


 その背後。


 崩れかけた世界。


 そして。


 自分の後ろ。


 皆がいる。


 リア。


 レオン。


 アルト。


 セレスティア。


 フィオ。


 ノクス。


 王国軍。


 修復派。


 無数の人々。


 戦場だった。


 けれど。


 奇妙なくらい。


 静かに感じた。


 ゼロスがこちらを見る。


 黒い瞳。


 その表情は。


 もう怒っていなかった。


 ただ。


 深い疲労と。


 長い孤独があった。


「終わらせたくない」


 悠の言葉。


 まだ。


 空気に残っている。


 ゼロスは目を伏せた。


「……残酷だな」


「……」


「希望というものは」


 黒い権限光。


 揺れる。


 断裂域中心。


 再起動権限。


 起動寸前。


 世界そのものが。


 選択を待っていた。


 イヴの声。


《再起動権限起動率:87%》


《修復権限単独成功率:低》


 低い。


 現実だった。


 悠は息を呑む。


 完全修復。


 間に合わない。


 それは。


 自分でも分かっていた。


 ゼロスは静かに言う。


「見えるだろう」


「……」


「世界は壊れている」


 空が軋む。


 遠方。


 崩落。


 都市の影。


 黒い裂傷。


「君一人では支えられない」


 正しい。


 その通りだった。


 悠は。


 一人では。


 無理だ。


 昔なら。


 そこで終わっていた。


 一人で抱えて。


 一人で壊れる。


 でも。


 今は違った。


 後ろ。


 声がした。


「ユウ!」


 リアだった。


 風に負けない声。


「一人で考えるな!」


 悠が振り向く。


 リアは泣いていなかった。


 でも。


 目は真っ直ぐだった。


「……」


「一人で背負う癖!」


 怒っている。


 少し。


「まだ治ってない!」


 悠は思わず黙る。


 レオンが笑う。


「そこは俺も賛成だ」


「……」


「頼れって言ったろ」


 アルトも静かに言う。


「君は一人で証明しなくていい」


 セレスティア。


 白銀の鎧。


 剣を握り。


 静かに頷く。


「私たちはここにいます」


 フィオも。


 少し震えながら。


 でも。


 前を向く。


「……ユウ……」


 小さな声。


「……怖いけど……一緒……」


 ノクスが羽ばたいた。


「親!」


 その瞬間。


 悠の胸が熱くなる。


 後ろを見る。


 戦場。


 人々。


 傷ついて。


 怖がって。


 それでも。


 逃げずに立っている。


 再起動派も。


 修復派も。


 皆。


 本気だった。


 救いたい。


 その願いだけは。


 同じだった。


 ログが震える。


ARCHIVE LINK

共鳴拡張反応検出


「……?」


 視界。


 光。


 今までと違う。


 共鳴値。


 数字が変わる。


共鳴値:103

測定領域拡張


 拡張。


 ログが続く。


個体共鳴

広域共鳴移行


 悠は息を止める。


 分かった。


 突然。


 理解した。


 アルカディア。


 存在固定。


 記録。


 繋がり。


 それは。


 自分だけじゃない。


 世界も同じだった。


 人。


 国。


 歴史。


 記憶。


 繋がり。


 それが。


 世界そのものを支えている。


(……世界も……)


 記録だった。


 胸の奥。


 熱が広がる。


 村。


 街。


 王都。


 旅。


 全部。


 自分の中にある。


 そして。


 無数の人にも。


 記録がある。


 失いたくない。


 繋がり。


 それが。


 共鳴になる。


 ログが発光した。


ARCHIVE CORE

管理権限進化条件達成


 空が揺れる。


 悠の周囲。


 淡い光。


 今までの権限とは違う。


 もっと。


 柔らかい。


 暖かな光。


 ゼロスが目を見開いた。


「……それは……」


 イヴが即座に解析する。


《新権限反応確認》


《記録共鳴型管理権限》


《名称未登録》


 風が吹く。


 悠は手を伸ばした。


 断裂域へ。


 黒い傷へ。


 そして。


 静かに言う。


「……繋がれ……」


 光が走った。


 世界が震える。


 空。


 大地。


 断裂。


 無数の記録。


 共鳴。


 戦場の人々。


 王都。


 村。


 世界。


 全部。


 光が繋いでいく。


 裂けた空が。


 ゆっくり。


 縫われ始めた。


 世界を縫う。


 あの日より。


 もっと広く。


 もっと深く。


 断裂域が軋む。


 再起動光。


 黒い権限。


 そして。


 共鳴光。


 二つがぶつかる。


 衝撃。


 世界改変級。


 空が白く染まる。


 人々が息を呑む。


 ゼロスは。


 その光を見ていた。


 長い。


 長い時間。


 失われたと思っていたものを見る顔だった。


 そして。


 黒い再起動権限が。


 静かに。


 停止した。


《再起動権限停止》


《断裂域崩壊回避》


 イヴの声。


 でも。


 続きがある。


《完全修復:未達成》


《世界基盤損傷:継続》


 白い光が収まる。


 空。


 まだ傷はある。


 断裂も残っている。


 終わっていない。


 でも。


 崩壊は止まっていた。


 未来が。


 消えていない。


 可能性。


 それだけが。


 確かに残った。


 悠は肩で息をする。


 限界。


 でも。


 立っていた。


 ゼロスを見る。


 黒衣の青年。


 彼は静かに。


 こちらを見ていた。


 その顔に。


 初めて。


 微かな笑みが浮かぶ。


「……証明したな」


「……」


「繋がりは脆い」


 穏やかな声。


「だが」


 風が吹く。


「……強くもあるらしい」


 悠は何も言えなかった。


 ゼロスの身体が。


 少し揺らぐ。


 輪郭。


 曖昧。


 消えるのか。


 それとも。


 別の場所へ残るのか。


 分からない。


 ただ。


 最後に。


 彼は静かに言った。


「次は」


 黒い瞳。


 どこか少し。


 穏やかだった。


「最後の場所だ」


 光。


 風。


 そして。


 姿が薄れる。


 残ったのは。


 静かな余韻だけだった。


 悠は空を見る。


 裂けた世界。


 まだ。


 傷だらけ。


 でも。


 終わっていない。


 イヴのログが更新される。


WORLD STATUS

世界寿命予測


 表示。


 皆が見る。


 今まで。


 そこには。


 確かに書かれていた。


残存期間:3年


 その数字が。


 ゆっくり消えた。


 そして。


 新しい表示。


残存期間:不明


 沈黙。


 次の瞬間。


 戦場に。


 歓声が上がった。


 泣く者。


 崩れ落ちる者。


 抱き合う者。


 まだ救われてはいない。


 でも。


 絶望だけではなくなった。


 悠は目を閉じる。


 疲れた。


 本当に。


 でも。


 胸の奥。


 少しだけ。


 温かかった。


 その時。


 イヴの声が響く。


 今度は。


 少しだけ。


 緊張を含んでいた。


《警告》


 悠が目を開く。


《未確認領域反応》


《高位管理接続を検出》


 空の奥。


 世界のさらに向こう。


 見えない場所。


 何かが。


 目覚める。


 イヴは静かに告げた。


《最終管理領域への接続を確認》


 風が止む。


 世界の奥で。


 まだ。


 何かが待っていた。

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