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アルカディア・レコード ― 世界最強なのに、人と話せません ―  作者: 南蛇井


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第69話 『最終管理領域』

 歓声は。


 まだ遠くで続いていた。


 深層断裂域。


 崩壊停止。


 再起動停止。


 世界寿命。


 不明。


 絶望しかなかった未来に。


 ほんの僅か。


 可能性が残った。


 それだけで。


 人は泣けるらしい。


 悠は荒い呼吸を整えながら。


 空を見上げていた。


 裂けた空。


 まだ傷は残る。


 終わったわけじゃない。


 でも。


 終わりでもなかった。


 その時だった。


 イヴの声。


 静か。


 だが。


 普段より少しだけ。


 硬い。


《警告》


 悠が視線を落とす。


《未確認高位接続反応》


《最終管理領域への接続を確認》


 風が止んだ。


 周囲。


 歓声も。


 戦場の音も。


 妙に遠くなる。


 悠は瞬きをした。


「……最終……?」


 イヴは即答しなかった。


 僅かな間。


 沈黙。


《……管理中枢です》


「……」


《アルカディア最深層》


 その言葉と同時。


 空間が揺れた。


 世界そのものが。


 深く息を吸ったようだった。


 ログ展開。


 視界全面。


 白い文字列。


ACCESS ACCEPTED

ARCHIVE CORE

FINAL ADMINISTRATIVE DOMAIN


 眩しい。


 空間が光る。


 セレスティアが剣へ手をかけた。


「これは……」


 レオンが空を見る。


「おいおい」


 リアは思わず悠の袖を掴む。


「ユウ……?」


 フィオが震える。


 深層反応。


 強い。


 ノクスまで羽を縮めていた。


「親……?」


 悠は返事ができなかった。


 管理権限が。


 異常なほど反応している。


 知っている。


 でも。


 知らない。


 そんな感覚。


 胸の奥。


 記憶の外側が。


 微かに疼いていた。


(……ここ……)


 その瞬間。


 世界が反転した。


 轟音はない。


 衝撃もない。


 ただ。


 景色が。


 静かに裏返る。


 白。


 光。


 浮遊感。


 身体が落ちる感覚。


 いや。


 落ちているのか。


 昇っているのか。


 それすら分からない。


 転移。


 けれど。


 普通の転移魔法ではなかった。


 世界座標そのものを。


 移動している。


 そんな感覚。


 リアが声を上げる。


「えっ!?」


 レオンは意外と落ち着いていた。


「……これは初体験だな」


「……感想……それ……?」


「他に言葉ねぇぞ」


 視界。


 完全な白。


 やがて。


 光が静かに薄れていく。


 そして。


 悠たちは。


 そこへ立っていた。


 ――無限だった。


「……」


 誰も。


 すぐには喋れなかった。


 空間。


 いや。


 空間という言葉で。


 説明できる場所じゃない。


 白。


 果てがない。


 上も下も。


 曖昧だった。


 足元はある。


 だが。


 地面には見えない。


 半透明の光。


 水面みたいに揺れている。


 その下。


 深い光の海。


 無数の文字列。


 記録。


 流れていた。


 空には。


 巨大な層。


 浮遊する記録結晶。


 都市ほどの大きさを持つ演算構造。


 幾何学的な環。


 光の回廊。


 巨大塔。


 ゆっくり回転する。


 世界規模の機械。


 けれど。


 冷たさだけじゃない。


 どこか。


 星空にも似ていた。


 光が流れている。


 世界ログ。


 歴史。


 文明。


 生命。


 全部。


 川みたいに。


 流動していた。


 アルトが息を呑む。


「……これは……」


 言葉が続かない。


 学院主席。


 知識人。


 その彼でも。


 理解を超えていた。


 セレスティアは周囲を警戒する。


 だが。


 剣を握る手が僅かに止まる。


「……神域……」


 リアは空を見る。


「……綺麗……」


 フィオは。


 逆に顔色が青かった。


 深層に似ている。


 でも。


 違う。


 ここは。


 もっと根源。


 世界の骨格だった。


 ノクスが小さく鳴く。


「親……」


 悠は返事を忘れていた。


 ログが。


 止まらない。


ARCHIVE STRUCTURE CONFIRMED

CORE LAYER ACCESS


 視界に文字。


 知らないはずの情報。


 なのに。


 理解できてしまう。


 強い既視感。


 胸の奥。


 何かが。


 微かに共鳴していた。


(……ここ……)


 見たことがある。


 いや。


 違う。


 知っている。


 でも。


 来たことはない。


 矛盾した感覚。


 頭が少し痛む。


 世界の内部。


 その言葉が。


 一番近かった。


 ここは。


 世界の外ではない。


 内側。


 アルカディアそのもの。


 世界OS。


 その演算中枢だった。


 悠はゆっくり呟く。


「……世界……の……中……?」


 その横。


 イヴが現れる。


 淡い光。


 いつもの姿。


 記録精霊。


 だが。


 どこか様子が違った。


 静か。


 いつも通り。


 なのに。


 少しだけ。


 緊張しているように見える。


 悠は気づく。


 珍しい。


 イヴが。


 迷っている。


《……案内します》


「……イヴ……?」


 彼女は一瞬。


 沈黙した。


《中央管理深部へ》


 理由は言わない。


 ただ。


 先へ進む。


 光の回廊。


 歩く。


 距離感が曖昧だった。


 近いはずなのに遠い。


 歩いた時間も。


 よく分からない。


 数分か。


 数時間か。


 もしかすると。


 時間そのものが。


 意味を持たないのかもしれない。


 やがて。


 巨大な演算構造群の中心。


 白い海のさらに奥。


 中央深部が見えた。


 巨大円環。


 静かに回転する世界機構。


 そして。


 その中心。


 一人。


 待っていた。


 黒衣。


 穏やかな立ち姿。


 見慣れた顔。


 ゼロス。


 彼は。


 まるで最初から。


 ここにいたように。


 静かに微笑んだ。


「ようこそ」

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