第67話 『君は間違っていない』
空が裂けていた。
深層断裂域。
封鎖崩壊。
その報せから。
世界は一気に動いた。
王都。
軍。
騎士団。
各国連盟。
再起動派。
修復派。
全てが。
断裂域へ向かう。
戦争。
その言葉が。
もう比喩ではなくなっていた。
そして。
悠も。
最前線へ立っていた。
深層断裂域。
世界最大の傷。
空は黒く。
大地は割れ。
空間が歪んでいる。
現実と深層。
境界が曖昧だった。
風景が時折。
書き換わる。
崩壊した都市。
存在しない海。
過去の残像。
世界そのものが。
悲鳴を上げていた。
王国軍後方。
修復派陣営。
悠は崖の先を見る。
その向こう。
黒い空間。
そして。
一人の影。
ゼロス。
黒衣。
静かな立ち姿。
まるで。
最初から。
そこで待っていたみたいだった。
周囲では。
戦いが始まっていた。
再起動派勢力。
修復派。
魔術。
結界。
砲撃。
空が光る。
だが。
悠の視界には。
あまり入ってこなかった。
見ているのは。
ただ一人。
ゼロスだけ。
後ろ。
リアたちの気配。
セレスティア。
レオン。
アルト。
皆いる。
でも。
これは。
自分が向き合う話だった。
悠は前へ出る。
断裂域の縁。
風が強い。
黒い粒子が舞う。
ゼロスは穏やかに言った。
「来たか」
「……」
「答えは出た?」
悠は黙る。
簡単じゃない。
まだ。
全部分かったわけじゃない。
でも。
歩みは止めなかった。
ゼロスが空を見る。
「世界は崩壊している」
「……」
「断裂域も広がった」
静かな声。
「修復は間に合わない」
その瞬間。
空間が揺れた。
断裂。
黒い亀裂。
広がる。
悠のログが反応する。
深層侵食進行
世界基盤損傷増大
重い。
現実だった。
ゼロスは続ける。
「見ただろう」
「……」
「苦しむ人間を」
「……」
「終末病」
「……」
「崩壊地域」
「……」
「失われた国」
否定できない。
全部。
見た。
旅で。
この目で。
ゼロスの声は責めない。
ただ。
事実を並べる。
「再起動は救済だ」
空間が揺らぐ。
黒い光。
世界改変権限。
ゼロスの周囲。
現実が静かに書き換わる。
悠も。
権限を起動した。
ログ展開。
空間固定。
世界が軋む。
二つの管理権限。
衝突。
空が震えた。
遠方。
断裂域の一部が消え。
別の場所が修復される。
世界改変級。
けれど。
本質は。
破壊じゃない。
会話だった。
ゼロスが言う。
「私は何度も見送った」
静かな声。
「修復失敗を」
風が吹く。
「救えなかった」
その一言。
重かった。
悠は知っている。
ゼロスは嘘をつかない。
彼は。
本当に。
失ってきた。
孤独。
失敗。
何千年。
その果て。
再起動へ辿り着いた。
だから。
悠は。
ゆっくり口を開いた。
「……ゼロス……」
「……」
「……君……は……」
喉が震える。
でも。
言う。
「……間違って……ない……」
風が止まった。
ゼロスの目が少し揺れる。
周囲も。
一瞬静まる。
レオンが息を呑んだ。
セレスティアも。
目を見開く。
悠は続ける。
「……救いたい……んだろ……」
「……」
「……苦しい……終わり……を……」
「……」
「……終わらせたい……」
ゼロスは何も言わない。
ただ。
見ている。
悠は胸を押さえた。
痛い。
でも。
逃げない。
「……分かる……」
小さな声。
「……俺……も……」
孤独。
消えたい感覚。
終われば楽かもしれない。
少し。
分かってしまう。
だから。
否定できなかった。
ゼロスは。
間違いじゃない。
悪でもない。
ただ。
疲れ果てた。
管理者だった。
長い沈黙。
風だけが吹く。
そして。
悠は空を見る。
裂けた世界。
崩壊。
残り三年。
絶望。
全部。
ある。
でも。
胸の奥には。
別のものもあった。
ルーン村。
ドルフの飯。
リアの涙。
レオンの笑い。
王都。
学院。
ノクス。
皆。
残っている。
記録。
繋がり。
失いたくない。
悠は。
ゼロスを見る。
そして。
静かに言った。
「……でも……」
風が揺れる。
「……終わらせたく……ない……」
その瞬間。
空間が震えた。
管理権限。
衝突。
空が軋む。
断裂域が大きく揺れる。
ゼロスは。
初めて。
少しだけ。
表情を失った。
「……」
黒い瞳が揺れている。
悠は続ける。
「……村……が……ある……」
「……」
「……街……も……」
「……」
「……王都……も……」
「……」
「……皆……いる……」
涙はない。
でも。
声が震えていた。
「……だから……」
小さい。
けれど。
確かな意志。
「……終わらせたく……ない……」
長い沈黙。
ゼロスは。
悠を見ていた。
その顔に。
微かな揺らぎ。
迷い。
あるいは。
忘れていた感情。
風が吹く。
そして。
彼は静かに呟いた。
「……そうか」
空間が。
大きく軋む。
深層断裂域。
中心。
黒い光が膨張していた。
イヴの警告が響く。
《最終段階移行》
《選択猶予減少》
世界が。
決断を迫っていた。
最終選択が。
すぐそこまで来ていた。




