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アルカディア・レコード ― 世界最強なのに、人と話せません ―  作者: 南蛇井


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第66話 『再起動戦争』

 世界は。


 静かに。


 そして確実に。


 割れ始めていた。


 深層近傍から帰還した後。


 王都は慌ただしかった。


 いや。


 王都だけではない。


 大陸全体。


 各国。


 各都市。


 世界そのものが。


 揺れていた。


 原因は明白だった。


 ゼロス。


 再起動理論。


 そして。


 残り三年という現実。


 王都議会。


 軍部。


 宗教勢力。


 商業連邦。


 神聖領。


 各国代表。


 連日。


 会議と声明が飛び交う。


 情報は。


 もう隠せなかった。


 世界は老いている。


 管理機構は壊れている。


 終末は来る。


 その事実だけが。


 人々の前に置かれていた。


 結果。


 思想は分裂した。


 王城。


 会議室。


 巨大な世界地図が壁に浮かぶ。


 悠はその端で。


 静かに座っていた。


 相変わらず。


 会議は苦手だった。


 人数が多い。


 視線も多い。


 胃に悪い。


(……帰りたい……)


 反射的に思う。


 でも。


 今日は少し違った。


 帰りたい。


 けれど。


 逃げたいとは。


 少し違う。


 円卓では。


 議論が続いていた。


「再起動支持地域が増えています」


 報告役の官僚が言う。


 空間投影地図。


 赤い光が広がる。


「崩壊地域を中心に支持率上昇」


「……」


「特に北方崩壊圏、沿岸沈降地帯、終末病流行区域」


 ざわめき。


 悠は地図を見る。


 赤。


 増えている。


 想像以上に。


 ガイルが腕を組んでいた。


 相変わらず。


 威圧感がある。


 怖い。


 でも。


 敵ではない。


「当然だな」


 低い声。


「人は限界を迎えれば合理を選ぶ」


 軍務貴族らしい。


 冷静な声だった。


「崩壊を待つより、再生成を望む者は増える」


 議員の一人が反論する。


「だが再起動は全生命消去だ!」


「理解している」


 ガイルは否定しない。


「だからこそ問題なのだ」


 静かな空気。


 誰も。


 単純に悪だとは言えない。


 悠はそれを知っていた。


 旅で見た。


 崩壊地域。


 失われた街。


 難民。


 終末病。


 再起動派には。


 理由があった。


 救われたい。


 ただ。


 それだけ。


 セレスティアも出席していた。


 白銀の騎士。


 真っ直ぐな姿勢。


 彼女が静かに口を開く。


「しかし修復可能性も未消失です」


「可能性か」


 別の貴族が言う。


「三年しかない世界に?」


「……」


「希望だけで国家は守れん」


 その言葉に。


 空気が重くなる。


 悠は俯いた。


 苦しい。


 どちらも。


 間違っていない。


 修復派。


 世界を残したい。


 再起動派。


 苦痛な終末を終わらせたい。


 善悪じゃない。


 本気だった。


 皆。


 救済を望んでいる。


 それが。


 余計に難しい。


 その時。


 イヴの通信が入る。


 視界端。


 淡い光。


《速報》


 会議室が静まる。


 イヴの声。


 感情は薄い。


 でも。


 最近。


 少しだけ。


 柔らかく聞こえる。


《世界情勢更新》


《再起動支持国家、正式発生》


 空気が凍った。


 地図が変わる。


 一地域ではない。


 国家。


 一つ。


 赤く染まる。


「……」


 誰かが息を呑む。


《西方自治連盟》


《ゼロス理論受諾》


《再起動計画協力宣言》


 沈黙。


 長い。


 ガイルが目を細めた。


「……早いな」


 セレスティアの表情も険しい。


「国家単位で……」


 官僚が震える声で言う。


「連鎖する可能性があります」


 その意味。


 皆分かっていた。


 思想戦争。


 そして。


 国家対立。


 世界は。


 もう後戻りできない。


 悠は地図を見る。


 赤。


 青。


 分かれ始めている。


 修復派。


 再起動派。


 どちらも。


 本気。


 だから。


 止まらない。


 胸の奥が重くなる。


(……戦争……)


 その単語が。


 現実味を帯びる。


 会議後。


 王都上層。


 城壁回廊。


 風が吹いていた。


 悠は一人。


 空を見ていた。


 疲れた。


 会議。


 社会。


 相変わらず。


 得意にはなれない。


 でも。


 今日は。


 逃げなかった。


 足音。


 レオンだった。


「難しい顔してんな」


「……」


「まぁ世界戦争前夜だしな」


「……前夜……」


「ほぼな」


 軽く言う。


 でも。


 目は笑っていない。


 悠は小さく息を吐く。


「……皆……救いたい……だけ……」


「ああ」


「……なのに……」


「ぶつかる」


 レオンは城壁に寄りかかった。


「正しさってのは面倒だ」


「……」


「一個じゃねぇ」


 風が吹く。


 悠は空を見る。


 遠い。


 灰色。


 そして。


 どこか不穏だった。


 その瞬間。


 イヴの声が再び響く。


 今度は。


 警告音付き。


《緊急》


 悠の顔が上がる。


《深層断裂域反応急増》


 空間投影。


 世界地図。


 中央。


 黒い亀裂。


 急速拡大。


《観測不能領域増加》


《封鎖維持率低下》


 嫌な予感。


 背筋が冷える。


 そして。


 イヴは続けた。


《断裂域封鎖崩壊》


《深層断裂域——開放》


 その瞬間。


 王都の空が。


 微かに軋んだ。


「……っ」


 悠は空を見上げる。


 遠い地平。


 黒い光。


 空そのものが。


 裂け始めていた。

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