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アルカディア・レコード ― 世界最強なのに、人と話せません ―  作者: 南蛇井


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55/79

第55話 『白銀の答え』

王都へ戻った瞬間から。


 空気が違っていた。


 重かった。


 城門を抜けた馬車の窓から見える街並みは、以前と同じはずなのに。


 どこか落ち着かない。


 人々の声。


 噂。


 新聞板の前に集まる群衆。


 飛び交う単語。


「世界寿命」


「再起動」


「管理者」


 嫌な単語ばかりだった。


「……」


 悠は窓際で小さくなっていた。


 王都。


 やっぱり人が多い。


 馬車。


 商人。


 兵士。


 貴族馬車。


 空を巡る魔導灯。


 情報量が多い。


 共鳴値ログが視界の端で揺れる。


共鳴値:42.1

安定率:変動中


 人密度問題である。


 以前より上がっている。


 でも。


 だから平気というわけではなかった。


(……帰りたい……)


 村が恋しい。


 非常に。


 リアが窓から外を見て呟く。


「なんか……雰囲気違うね」


「当然だろ」


 レオンが腕を組む。


「世界終末候補の話が広がってんだ」


 軽い言い方だった。


 でも。


 内容は軽くない。


 セレスティアは表情を崩さない。


「会議は本日です」


「……今日……?」


 悠が小さく聞く。


「はい」


 即答。


「議会・軍部・宗教評議会合同会議」


 聞くだけで胃が痛い。


 社会ラスボス再び。


 しかも強化版だった。


 王城へ向かう道中。


 街は騒がしかった。


 新聞売りが叫ぶ。


「各国緊急会談!」


「深層災害再来か!?」


「終末論議!」


 終末論議。


 字面が強い。


 フィオは少し不安そうに悠を見る。


「……ユウ……」


「……うん……」


「……大丈夫?」


 最近よく聞かれる。


 そして。


 最近の悠は少しだけ答えが変わった。


「……大丈夫じゃない……」


「……」


「……でも……行く……」


 フィオは少しだけ目を丸くした。


 逃げたい。


 それは本音だ。


 でも。


 逃げたいだけじゃない。


 それもまた本音だった。


 王城。


 巨大な白壁。


 高塔。


 魔導結界。


 相変わらず威圧感がある。


(……でかい……)


 以前と感想が変わらない。


 案内された先は。


 会議棟。


 王城中央部。


 普段は高位会議にしか使われない区画だった。


 扉が開く。


 その瞬間。


 悠は少し後悔した。


(……広……)


 巨大円卓。


 吹き抜け天井。


 幾重もの魔導灯。


 壁一面の紋章。


 そして。


 人。


 多い。


 非常に。


 貴族。


 議員。


 軍服。


 神官。


 王国高官。


 視線。


 視線。


 視線。


 共鳴値ログがまた揺れた。


存在同期:軽度低下


(……帰りたい……)


 切実だった。


 レオンが横で囁く。


「顔色やばいぞ」


「……元から……」


「確かに」


 失礼だった。


 だが少し笑えた。


 円卓中央。


 既に議論は始まっていた。


 空気は鋭い。


「だから情報精査が必要だ!」


「三年という数字の根拠は!」


「各国対応が遅れれば――」


 混乱。


 怒号まではいかない。


 だが。


 静かな緊張が張り詰めている。


 その中で。


 一人の男が席を立った。


 軍装。


 鋭い眼光。


 見覚えがある。


 ガイルだった。


 以前と変わらない。


 怖い。


 合理主義の人である。


「感情論は後にしろ」


 低い声。


 会議が静まる。


 やはり強い。


 威圧が。


 悠は少し姿勢を縮めた。


 ガイルは円卓を見渡す。


「事実を整理する」


 無駄がない。


「世界寿命問題」


「管理機構損傷」


「再起動理論」


「以上は既に確認済み情報だ」


 視線が交差する。


「ゼロス理論も理解できる」


 空気が少し動いた。


 軍部席。


 議会席。


 ざわめき。


 悠は顔を上げる。


 ガイルは続けた。


「合理性はある」


 静かな声だった。


「老朽世界を延命するより、再生成した方が安定性は高い」


 その言葉に。


 宗教席が反応する。


「冒涜だ!」


 白衣の神官が立ち上がる。


「命を数値化するのか!」


「感情論だ」


 ガイルは即答した。


「貴様――!」


「だが」


 そこで。


 彼は言葉を切った。


 空気が止まる。


「私は即賛同しているわけではない」


 悠は少し驚いた。


 ガイルは軍人だ。


 合理優先。


 利用主義。


 だから。


 再起動派寄りかと思っていた。


 彼は腕を組む。


「再起動に確実性がない以上、選択肢としては未完成だ」


 静かな論理。


「失敗すれば終わる」


 円卓が沈黙する。


「国家は博打で動かん」


 軍部席から頷きが起きた。


 なるほど。


 即賛成ではない。


 合理主義だからこそ。


 証明を求める。


 それがガイルだった。


 会議はさらに割れていく。


 王国側。


 存続模索。


「修復可能性を捨てるべきではありません」


「管理機構調査を継続する」


 議会側。


 混乱。


「情報不足だ!」


「各国協議を――」


「世論対応は!?」


 そして。


 最も分裂していたのは宗教勢力だった。


「再起動は神への冒涜!」


「いや!」


 別派閥神官が立つ。


「穢れた世界の浄化こそ神意!」


 ざわめき。


 分裂。


 宗教内部でも割れている。


 悠はそれを見ていた。


 頭が少し痛い。


 会議。


 政治。


 社会。


 苦手なもの全部乗せだった。


(……情報量……)


 多い。


 非常に。


 隣のセレスティアが小声で言う。


「大丈夫ですか」


「……ちょっと……」


「顔色が白いですが」


「……元から……」


 彼女が少しだけ黙る。


 そして。


「……確かに」


 ひどかった。


 その時だった。


 魔導通信結晶が一斉に光った。


 空気が変わる。


 高官が青ざめる。


「報告です!」


 会議室が静まった。


 嫌な沈黙。


 報告役は息を整える。


「商業連邦東部!」


 声が響く。


「正式声明発表!」


 皆が見る。


 そして。


 次の言葉が落ちた。


「――再起動理論支持を宣言!」


 会議室が揺れた。


 ざわめき。


 怒声。


 衝撃。


 悠は息を呑む。


 国家。


 今。


 初めて。


 立場を決めた。


 再起動支持国家。


 その存在が。


 世界を。


 決定的に割り始めていた。


第55話

『白銀の答え』

目的

セレスティア掘り下げ

監視→信頼変化

セレス視点多め

彼女。

迷う。

騎士として。

国家として。

個人として。

悠との会話

夜。

王城庭園。

悠。

「……怖い……」

珍しく本音。

セレス

理解する。

危険存在ではない。

背負いすぎた少年。

核心

「私は監視役です」

間。

「……ですが今は、あなたを信じたい」

締め

セレス。

修復派決意。     小説化

第55話

『白銀の答え』


 夜の王城は静かだった。


 昼間の喧騒が嘘みたいに。


 石造りの回廊には人影も少ない。


 窓の外。


 王都の灯が遠く揺れていた。


 セレスティアは一人で歩いていた。


 白銀騎士。


 王国直属。


 護衛。


 監視。


 責務は明確だった。


 だが。


 心は少しだけ曖昧になっている。


「……」


 会議後。


 彼女は何通もの報告書を書いた。


 各勢力動向。


 軍部反応。


 宗教分裂。


 再起動支持国家発生。


 そして。


 監視対象――悠。


 そこだけ。


 筆が少し止まった。


 王命。


 危険存在の監視。


 世界級能力保有者。


 それが最初の認識だった。


 実際。


 間違ってはいない。


 彼は危険になり得る。


 王都結界を修復した。


 空間を縫った。


 世界級奇跡。


 あれは人の領域を超えている。


 だから。


 本来なら。


 もっと警戒すべきなのだ。


 なのに。


(……おかしいですね)


 彼女は庭園へ続く回廊で足を止めた。


 初対面を思い出す。


 王都到着の日。


 青い顔。


 小声。


 目を逸らす少年。


 あれは。


 想像していた怪物とはあまりに違った。


 もっと傲慢で。


 もっと危険で。


 もっと支配的だと思っていた。


 だが。


 実物は。


 門検査で固まり。


 謁見で声が出なくなり。


 会議で顔色を失う。


 ……かなり弱い。


 社会方面に。


 非常に。


 セレスティアは少しだけ眉を下げた。


(危険存在……)


 分類は正しい。


 だが。


 それだけでは説明できない。


 庭園へ出る。


 夜風が髪を揺らした。


 噴水。


 白い石畳。


 月光。


 王城庭園は静かだった。


 そして。


 そこに人影があった。


 案の定だった。


「……ユウ殿」


 声をかける。


 庭園中央。


 ベンチ近く。


 悠が夜空を見ていた。


 振り向く。


 少し驚いた顔。


「……セレス……」


「眠れませんか?」


「……少し……」


 少し。


 ではない気もする。


 顔色があまり良くない。


 まあ。


 昼間の会議を経験すれば仕方ない。


 あれは彼でなくても疲れる。


 悠は視線を逸らす。


「……セレスも……?」


「私もです」


 騎士らしくない返答だったかもしれない。


 だが。


 嘘ではなかった。


 セレスティアは隣へ立つ。


 しばらく。


 二人とも喋らなかった。


 沈黙。


 でも。


 不思議と気まずくはない。


 風が庭木を揺らしている。


 遠く。


 王都の灯。


 世界は動いている。


 止まらない。


 昼の会議を思い出す。


 国家。


 思想。


 再起動派。


 修復派。


 世界規模の分裂。


 セレスティアは静かに言った。


「……今日は大変でしたね」


「……はい……」


 小さい返事。


「お疲れでしたか?」


 悠は少し考えた。


 それから。


「……疲れ……ました……」


 正直だった。


 少しだけ。


 セレスティアは口元を緩める。


「でしょうね」


「……」


「議会合同会議は、私も苦手です」


 悠がこちらを見る。


 少し意外そうだった。


「……セレスでも……?」


「ええ」


 即答した。


「軍部だけならまだ簡単なのですが」


「……まだ……?」


「宗教が混ざると長いので」


 それは事実だった。


 悠は少しだけ。


 本当に少しだけ。


 笑った。


 それを見て。


 セレスティアは胸の奥がわずかに軽くなる。


 ……変化している。


 自分が。


 気づいていた。


 監視対象。


 その認識が。


 少しずつ揺らいでいる。


 沈黙が落ちる。


 夜風。


 噴水の音。


 そして。


 不意に。


 悠が呟いた。


「……怖い……」


 小さな声だった。


 聞き返す必要はなかった。


 十分聞こえた。


 セレスティアは黙る。


 悠は空を見たままだった。


「……世界……とか……」


「……」


「……選ぶ……とか……」


 言葉が途切れる。


 探しながら話している。


 いつものことだ。


 でも。


 今日は少し違った。


「……俺……」


 喉が詰まるような間。


「……怖い……です……」


 セレスティアは返事をしなかった。


 急かさない。


 ただ聞く。


 それだけだった。


 悠は少し俯く。


「……知られるのも……」


「……」


「……期待されるのも……」


 夜風が吹く。


 白い月光。


「……失敗するのも……」


 声が小さい。


「……全部……」


 静かな本音だった。


 セレスティアはそれを聞いていた。


 危険存在。


 管理者級。


 世界改変。


 その言葉の向こう。


 ここにいるのは。


 怯えている少年だった。


 世界を背負える力。


 でも。


 背負いたかったわけではない。


 むしろ。


 抱え込みすぎて。


 潰れそうになっている。


(……そうでしたか)


 ようやく。


 理解が形になった。


 彼は怪物ではない。


 少なくとも。


 最初に想像していたような存在ではない。


 沈黙の後。


 セレスティアは静かに言った。


「私は監視役です」


 悠が顔を上げた。


 月明かりの中。


 白銀の騎士。


 王命。


 それは変わらない。


「王国はあなたを警戒しています」


「……」


「当然です」


 真実だった。


 誤魔化さない。


「あなたは強い」


 世界級。


 国家が無視できる存在ではない。


「……はい……」


 悠は小さく頷く。


 否定しなかった。


 でも。


 少し寂しそうだった。


 だから。


 セレスティアは続けた。


 少し間を置いて。


「……ですが今は」


 夜風が止む。


「あなたを信じたい」


 静かな声だった。


 悠が目を瞬かせる。


「……え……」


 驚いている。


 当然だ。


 セレスティア自身も。


 少し驚いていた。


 でも。


 言葉は自然に出た。


「あなたは危険だから戦ったのではない」


「……」


「助けたいから動いた」


 王都でも。


 街でも。


 村でも。


 その記録を見た。


「それを私は知っています」


 悠は何も言えなかった。


 ただ。


 少しだけ。


 息を止めているように見えた。


 信じたい。


 その言葉は。


 騎士としては危ういのかもしれない。


 でも。


 個人として。


 今の彼女の答えだった。


 しばらく。


 二人は夜空を見上げていた。


 遠く。


 王都の灯。


 不安定な世界。


 分裂する国家。


 迫る終末。


 それでも。


 セレスティアの迷いは。


 少しずつ整理されていた。


 騎士として。


 国家として。


 そして。


 一人の人間として。


 答えはまだ完璧ではない。


 だが。


 方向は決まった。


 彼女は静かに思う。


(私は――)


 修復を選ぶ。


 終わる前に。


 まだ。


 守れるものがあると信じたい。


 白銀騎士セレスティアは。


 その夜。


 初めて。


 明確に修復派として立つ決意を固めていた。

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