第54話 『王都の選択』
王都へ戻った瞬間から。
空気が違っていた。
重かった。
城門を抜けた馬車の窓から見える街並みは、以前と同じはずなのに。
どこか落ち着かない。
人々の声。
噂。
新聞板の前に集まる群衆。
飛び交う単語。
「世界寿命」
「再起動」
「管理者」
嫌な単語ばかりだった。
「……」
悠は窓際で小さくなっていた。
王都。
やっぱり人が多い。
馬車。
商人。
兵士。
貴族馬車。
空を巡る魔導灯。
情報量が多い。
共鳴値ログが視界の端で揺れる。
共鳴値:42.1
安定率:変動中
人密度問題である。
以前より上がっている。
でも。
だから平気というわけではなかった。
(……帰りたい……)
村が恋しい。
非常に。
リアが窓から外を見て呟く。
「なんか……雰囲気違うね」
「当然だろ」
レオンが腕を組む。
「世界終末候補の話が広がってんだ」
軽い言い方だった。
でも。
内容は軽くない。
セレスティアは表情を崩さない。
「会議は本日です」
「……今日……?」
悠が小さく聞く。
「はい」
即答。
「議会・軍部・宗教評議会合同会議」
聞くだけで胃が痛い。
社会ラスボス再び。
しかも強化版だった。
王城へ向かう道中。
街は騒がしかった。
新聞売りが叫ぶ。
「各国緊急会談!」
「深層災害再来か!?」
「終末論議!」
終末論議。
字面が強い。
フィオは少し不安そうに悠を見る。
「……ユウ……」
「……うん……」
「……大丈夫?」
最近よく聞かれる。
そして。
最近の悠は少しだけ答えが変わった。
「……大丈夫じゃない……」
「……」
「……でも……行く……」
フィオは少しだけ目を丸くした。
逃げたい。
それは本音だ。
でも。
逃げたいだけじゃない。
それもまた本音だった。
王城。
巨大な白壁。
高塔。
魔導結界。
相変わらず威圧感がある。
(……でかい……)
以前と感想が変わらない。
案内された先は。
会議棟。
王城中央部。
普段は高位会議にしか使われない区画だった。
扉が開く。
その瞬間。
悠は少し後悔した。
(……広……)
巨大円卓。
吹き抜け天井。
幾重もの魔導灯。
壁一面の紋章。
そして。
人。
多い。
非常に。
貴族。
議員。
軍服。
神官。
王国高官。
視線。
視線。
視線。
共鳴値ログがまた揺れた。
存在同期:軽度低下
(……帰りたい……)
切実だった。
レオンが横で囁く。
「顔色やばいぞ」
「……元から……」
「確かに」
失礼だった。
だが少し笑えた。
円卓中央。
既に議論は始まっていた。
空気は鋭い。
「だから情報精査が必要だ!」
「三年という数字の根拠は!」
「各国対応が遅れれば――」
混乱。
怒号まではいかない。
だが。
静かな緊張が張り詰めている。
その中で。
一人の男が席を立った。
軍装。
鋭い眼光。
見覚えがある。
ガイルだった。
以前と変わらない。
怖い。
合理主義の人である。
「感情論は後にしろ」
低い声。
会議が静まる。
やはり強い。
威圧が。
悠は少し姿勢を縮めた。
ガイルは円卓を見渡す。
「事実を整理する」
無駄がない。
「世界寿命問題」
「管理機構損傷」
「再起動理論」
「以上は既に確認済み情報だ」
視線が交差する。
「ゼロス理論も理解できる」
空気が少し動いた。
軍部席。
議会席。
ざわめき。
悠は顔を上げる。
ガイルは続けた。
「合理性はある」
静かな声だった。
「老朽世界を延命するより、再生成した方が安定性は高い」
その言葉に。
宗教席が反応する。
「冒涜だ!」
白衣の神官が立ち上がる。
「命を数値化するのか!」
「感情論だ」
ガイルは即答した。
「貴様――!」
「だが」
そこで。
彼は言葉を切った。
空気が止まる。
「私は即賛同しているわけではない」
悠は少し驚いた。
ガイルは軍人だ。
合理優先。
利用主義。
だから。
再起動派寄りかと思っていた。
彼は腕を組む。
「再起動に確実性がない以上、選択肢としては未完成だ」
静かな論理。
「失敗すれば終わる」
円卓が沈黙する。
「国家は博打で動かん」
軍部席から頷きが起きた。
なるほど。
即賛成ではない。
合理主義だからこそ。
証明を求める。
それがガイルだった。
会議はさらに割れていく。
王国側。
存続模索。
「修復可能性を捨てるべきではありません」
「管理機構調査を継続する」
議会側。
混乱。
「情報不足だ!」
「各国協議を――」
「世論対応は!?」
そして。
最も分裂していたのは宗教勢力だった。
「再起動は神への冒涜!」
「いや!」
別派閥神官が立つ。
「穢れた世界の浄化こそ神意!」
ざわめき。
分裂。
宗教内部でも割れている。
悠はそれを見ていた。
頭が少し痛い。
会議。
政治。
社会。
苦手なもの全部乗せだった。
(……情報量……)
多い。
非常に。
隣のセレスティアが小声で言う。
「大丈夫ですか」
「……ちょっと……」
「顔色が白いですが」
「……元から……」
彼女が少しだけ黙る。
そして。
「……確かに」
ひどかった。
その時だった。
魔導通信結晶が一斉に光った。
空気が変わる。
高官が青ざめる。
「報告です!」
会議室が静まった。
嫌な沈黙。
報告役は息を整える。
「商業連邦東部!」
声が響く。
「正式声明発表!」
皆が見る。
そして。
次の言葉が落ちた。
「――再起動理論支持を宣言!」
会議室が揺れた。
ざわめき。
怒声。
衝撃。
悠は息を呑む。
国家。
今。
初めて。
立場を決めた。
再起動支持国家。
その存在が。
世界を。
決定的に割り始めていた。




