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アルカディア・レコード ― 世界最強なのに、人と話せません ―  作者: 南蛇井


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第45話 『管理機構』

 低い振動が。


 地下都市全体を揺らしていた。


 記録都市アステラ。


 中央塔。


 その巨大な構造体が、ゆっくりと光を帯び始めている。


 青白い光。


 脈打つような明滅。


 眠っていた都市が。


 長い夢から目覚めようとしていた。


「……起動……してる……?」


 リアが不安げに呟く。


 セレスティアは即座に周囲を警戒した。


「全員、警戒を」


 レオンは剣の柄へ手を置く。


「歓迎なのか罠なのか、分かんねぇな」


 悠は塔を見上げていた。


 視界。


 白いログ。


施設認証確認

管理権限反応検知

中央塔接続可能


 胸がざわつく。


 まただ。


 アーカイブと似ている。


 いや。


 もっと近い。


 まるで。


 ここそのものが。


 アーカイブの一部みたいだった。


「……ユウ?」


 リアの声。


 悠は少し迷い。


「……たぶん……俺……触れば……」


 言い終わる前に。


 レオンが苦笑する。


「つまり毎回お前が鍵なんだな」


「……不本意……」


 非常に。


 でも。


 他に方法もなかった。


     ◇


 中央塔への道は静かだった。


 都市内部。


 橋が伸びる。


 下は深い空洞。


 浮遊結晶が淡く照らしている。


 自律装置たちは敵意を見せなかった。


 むしろ。


 悠たちが通ると、自然に道を開ける。


 歓迎。


 ……あるいは。


 認証済み個体への反応。


 塔内部へ入った瞬間。


 空気が変わった。


 巨大な円形空間。


 天井は見えない。


 中央。


 そこには。


 透明な柱が立っていた。


 結晶。


 いや。


 巨大な記録装置。


 内部を光が流れている。


「……」


 悠は息を呑む。


 視界に。


 再びログ。


中央記録核

接続待機中


「……記録核……」


 その言葉と同時に。


 光が反応した。


 柱全体が輝く。


 空間へ。


 無数の文字列が展開された。


「っ……!」


 リアが思わず目を覆う。


 ログ。


 映像。


 古代文字。


 世界地図。


 情報の洪水。


 悠だけは。


 不思議と読めてしまった。


 頭へ直接流れ込む感覚。


古代管理記録

閲覧権限照合


 そして。


 声が響く。


 人ではない。


 記録音声。


『世界管理機構へようこそ』


 全員が固まった。


『補助管理都市アステラ』


『稼働停止期間』


『四千八百二十七年』


「……四千……」


 リアが呟く。


 長すぎる。


 歴史そのものだ。


 映像が変わる。


 空間へ。


 巨大な立体図が現れた。


 世界。


 そのものだった。


 大陸。


 海。


 空。


 そして。


 世界全体を覆う。


 無数の光の線。


 レオンが眉をひそめる。


「何だこれ」


 悠の口から。


 自然に言葉が漏れた。


「……管理網……」


 皆が見る。


 悠自身も驚いた。


 でも。


 そう理解できてしまった。


 ログが説明する。


『世界環境維持』


『存在同期』


『深層隔離』


『生命循環補助』


 空間が静まり返る。


 セレスティアが低く言った。


「……待ってください」


「……?」


「これは……」


 彼女は世界模型を見つめる。


「結界……ではない……?」


 記録音声が答える。


『世界管理機構』


『アルカディア維持システム』


 沈黙。


 重かった。


 リアが小さく言う。


「……システム……?」


 神話ではない。


 神の奇跡でもない。


 世界。


 そのものが。


 管理されている。


 そう。


 記録は告げていた。


 悠は立ち尽くす。


(……管理……されてる……)


 空。


 海。


 命。


 共鳴。


 深層。


 全部。


 自然じゃない?


 ログ映像が変化した。


 古い都市群。


 空へ伸びる塔。


 管理者らしき存在。


 そして。


 光の網。


『世界維持正常』


『管理機構稼働中』


 悠の胸が冷える。


 つまり。


 この世界は。


 偶然存在しているわけじゃない。


 誰かが作った。


 ……いや。


 運営している。


 巨大な仕組み。


「……そんなの……」


 悠の声が小さく漏れた。


「……神話じゃ……ない……」


 システムだ。


 その言葉が。


 あまりにも現実的だった。


     ◇


 その時だった。


 視界端。


 白い通信ログ。


 イヴ。


 悠は少し安心した。


 けれど。


 表示は妙だった。


通信接続制限中


「……?」


 イヴ?


 反応はある。


 でも。


 出てこない。


 珍しい。


 いや。


 初めてかもしれない。


 悠は小さく呼んだ。


「……イヴ……?」


 数秒。


 沈黙。


 そして。


 ようやく声が届く。


 微弱。


 途切れ気味。


『……通信……安定……せず……』


「……大丈夫……?」


『問題……ありません』


 ……嘘だ。


 悠は思った。


 イヴにしては。


 返答が遅い。


 そして。


 何かを避けている。


 記録核がさらに展開する。


 映像。


 古代ログ。


 悠は気づく。


 ある情報だけ。


 不自然に欠落していた。


 管理者。


 運営主体。


 誰が。


 何のために。


 その部分だけ。


 曖昧。


「……イヴ……」


 問いかけようとした瞬間。


 イヴが先に言った。


『一部記録は閲覧制限対象です』


「……制限……?」


『はい』


 即答。


 でも。


 少しだけ。


 硬かった。


『現時点では開示できません』


 悠は黙る。


 イヴが。


 隠している。


 そんな感覚が初めて生まれた。


 悪意ではない。


 たぶん。


 でも。


 何かを。


 知っている。


 その時。


 中央記録核が。


 突然赤く明滅した。


 空気が変わる。


 全員が顔を上げる。


警告

管理機構状態確認


 ログが展開される。


 世界模型。


 その一部が。


 黒く染まっていた。


 深層。


 断裂。


 光網の欠損。


 そして。


 中央。


 数字。


 ゆっくり表示される。


管理機構損傷率


 誰も声を出さない。


 数字が確定する。


管理機構損傷率

72.4%


 沈黙。


 重い。


 あまりにも。


 そして。


 イヴの微かな声だけが。


 静かに響いた。


『……予測値より……悪化しています』

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