第44話 『記録都市アステラ』
地上から見ると。
そこはただの荒野だった。
灰色の岩場。
乾いた風。
草も少ない。
人の気配はなく。
旅人が立ち寄る理由も見当たらない。
「……ここ?」
リアが周囲を見回す。
半信半疑だった。
悠も同じだった。
イヴが示した地図では。
この場所に。
古代管理都市が存在するはずだった。
けれど。
見えるのは岩壁だけ。
レオンが腕を組む。
「遺跡って感じじゃねぇな」
セレスティアも警戒しながら周囲を観察していた。
「隠蔽結界……でしょうか」
フィオは少し落ち着かない様子で地面を見ている。
「……変……」
ノクスだけは元気だった。
「親! 穴!」
「……穴……?」
羽をばたつかせた先。
岩壁の影。
そこに。
小さな裂け目があった。
自然洞窟のようにも見える。
けれど。
悠が近づいた瞬間だった。
視界に白い文字が走る。
管理機構反応検知
施設識別開始
「……!」
足が止まる。
鼓動が一つ跳ねた。
この反応。
見覚えがある。
アーカイブ。
転生直後。
あの白いログに近い。
悠は裂け目へ手を伸ばした。
その瞬間。
岩壁が。
静かに割れた。
「っ!?」
リアが後退する。
音はほとんどない。
ただ。
巨大な扉が左右へ滑っていく。
砂が落ち。
暗い地下への通路が現れた。
全員が黙った。
風だけが吹いている。
レオンがぽつりと言う。
「……おいおい」
悠は何も言えなかった。
(……俺が……開けた……?)
たぶん。
そうだった。
セレスティアが剣へ手を添える。
「慎重に進みましょう」
誰も反対しなかった。
◇
地下へ続く通路は長かった。
階段ではない。
緩やかな坂道。
壁は金属とも石とも違う材質でできている。
滑らかだった。
継ぎ目が見えない。
灯りはない。
……はずだった。
だが。
悠たちが進むにつれて。
壁面に淡い光が走り始める。
青白い線。
脈動するような輝き。
「……綺麗……」
リアが思わず呟く。
フィオは少し身を寄せていた。
未知の場所。
でも。
どこか神殿にも似ている。
そして。
通路を抜けた瞬間。
全員が息を呑んだ。
「……」
地下都市。
それが最初の印象だった。
いや。
都市という言葉でも足りない。
巨大空洞。
空がない地下世界。
その中心に。
一つの文明が眠っていた。
塔。
橋。
浮遊する構造体。
幾何学的な建築群。
崩壊しているわけではない。
壊れているわけでもない。
ただ。
静止している。
青い光だけが、薄く街を照らしていた。
「……すご……」
リアの声が小さい。
レオンも珍しく言葉を失っていた。
セレスティアは周囲を警戒しながらも驚きを隠せない。
「古代文明……」
悠は見上げる。
視界の先。
都市中央。
天井近くまで届きそうな巨大塔が立っていた。
その周囲には。
無数の結晶。
浮いている。
重力を無視したように。
ゆっくりと。
静かに。
「……浮いてる……」
「浮遊機構でしょうか」
セレスティアが言う。
だが。
その声にも確信はない。
ノクスは目を輝かせていた。
「光! 町!」
都市には。
まだ動いているものもあった。
小さな球体。
金属の自律装置。
ふわりと浮きながら通路を巡回している。
人が近づくと。
淡く光り。
また離れていく。
「……魔道具……?」
リアが首を傾げる。
悠は違和感を覚えていた。
これは。
魔道具というより。
もっと。
別の。
――管理。
その言葉が頭に浮かぶ。
視界にログが走った。
施設名称照合
記録都市アステラ
管理機構補助施設
「……!」
悠は息を呑む。
アステラ。
ログが。
そう表示していた。
イヴの地図。
間違っていない。
ここが。
古代管理都市。
記録都市アステラ。
「……ユウ?」
リアがこちらを見る。
悠は少し迷った。
言うべきか。
でも。
「……たぶん……ここ……アステラ……」
「え?」
皆が見る。
「……ログ……反応……」
レオンが眉を上げた。
「またその管理なんとかか?」
「……うん……」
悠は都市を見渡した。
胸の奥がざわつく。
見覚えがある。
来たことなんてない。
なのに。
どこか。
知っているような。
奇妙な感覚。
その時だった。
視界の端。
白いログ。
通信。
イヴ。
悠は少し安心しかけた。
けれど。
――何も来ない。
「……?」
珍しい。
いつもなら。
イヴは施設説明くらいはする。
でも。
沈黙。
ログだけが一瞬点灯し。
消えた。
妙だった。
(……イヴ……?)
返答なし。
不自然なほど。
静かだった。
セレスティアが足元を調べている。
「……待ってください」
床。
積もった埃。
でも。
壊れた跡がない。
剣傷も。
焼け跡も。
崩落も。
「戦争跡ではありません」
その言葉に。
悠も気づいた。
確かに。
都市は無傷だ。
廃墟ではない。
滅びた感じがない。
ただ。
誰もいない。
そして。
動いていない。
レオンが呟く。
「じゃあ何だ?」
悠の視界に。
再びログが浮かぶ。
都市状態確認
稼働停止
保守待機継続
停止。
その文字を見て。
悠は背筋が冷えた。
「……壊れたんじゃ……ない……」
皆が振り向く。
悠は小さく言った。
「……止まってる……だけ……」
都市は。
死んでいない。
眠っている。
そんな感覚だった。
そして。
その瞬間。
地下都市全体が。
低く震えた。
「っ!?」
光が走る。
浮遊結晶が一斉に輝き。
空洞全体へ波のように広がっていく。
視界に白い文字。
中央管理塔
起動準備開始
悠は顔を上げた。
都市中央。
巨大塔。
今まで眠っていたはずのそれが。
ゆっくりと。
目覚め始めていた。




