第33話 『学院という戦場』
王都滞在決定。
その事実は。
思った以上に重かった。
会談終了後。
悠は半ば放心状態で廊下を歩いていた。
「……」
疲れた。
非常に。
謁見。
会議。
監視。
資産。
知らない単語が精神へ刺さっている。
隣を歩くセレスティアは落ち着いていた。
「今後についてご説明します」
嫌な予感。
最近よく当たる。
「王都議会の判断ですが」
「……」
「監視および保護の両立を目的として」
一拍。
「王立魔術学院への所属が決定しました」
「……」
悠。
停止。
数秒。
理解が遅れる。
「……学院……?」
「はい」
肯定だった。
逃げ道なし。
「……学校……?」
「教育機関です」
知っている。
問題はそこではない。
悠の脳内で。
危険単語が並んだ。
学校。
集団。
人間関係。
自己紹介。
教室。
青春。
全部。
苦手だった。
(……無理……)
心の声が即答した。
リアは隣で目を丸くした。
「えっ、学院!?」
そして。
少し羨ましそうに笑う。
「いいなぁ」
「……よく……ない……」
「魔術学院って王都憧れの場所だよ?」
「……そう……?」
「そうだぞ」
レオンまで頷く。
「貴族も天才も集まるエリート機関だ」
「……怖い……」
「感想が先に来るんだな」
正しい感想だと思う。
フィオは小さく首を傾げていた。
「……学院……優しい……?」
「……分からない……」
悠にも分からない。
むしろ知りたくない。
セレスティアは説明を続けた。
「学院所属は監視目的だけではありません」
「……?」
「社会適応支援」
「研究環境」
「魔術制御教育」
「そして身分保証」
理屈は分かる。
分かるが。
問題は別だった。
悠は小さく聞く。
「……人……多い……?」
セレスティアは少し考えた。
「多いですね」
終わった。
翌日。
王立魔術学院。
悠は。
門前で立ち尽くしていた。
「……」
大きい。
非常に。
王城とはまた違う威圧感。
白石造りの校舎。
幾つもの高塔。
空へ伸びる魔導設備。
庭園。
訓練場。
そして。
若者。
大量。
学生たちが行き交っていた。
制服。
談笑。
笑い声。
競い合うような魔力の気配。
王都の喧騒とは違う。
もっと近い。
もっと密度がある。
悠の視界端。
淡い文字列が揺れた。
共鳴値:32.1
周辺認識負荷上昇
存在同期:微弱低下
(……下がってる……)
人密度問題だった。
ノクスは肩の上で興奮している。
「親! 城!」
「……学院……」
「親! きらきら!」
元気である。
羨ましい。
校門前。
学生たちがちらちらこちらを見ていた。
理由は分かる。
白銀騎士セレスティア同行。
しかも。
謎の少年。
目立つ。
非常に。
「見ろよ」
「騎士団?」
「誰だあれ」
「貴族?」
聞こえる。
やめてほしい。
悠は少し俯いた。
学院内へ入る。
広かった。
中庭。
噴水。
浮遊する魔導灯。
魔法訓練場からは爆発音まで聞こえる。
青春だった。
非常に。
そして。
悠には。
地獄だった。
(……眩しい……)
村。
街。
王都。
そして学院。
段階的に社会難易度が上がっている。
誰か調整してほしい。
案内担当の教員が近づいてくる。
年配の男性。
柔和な笑顔。
「ようこそ王立魔術学院へ」
「……」
「編入手続きは完了しています」
「……ぁ……」
声。
小さい。
教員は慣れているらしく気にしなかった。
「本学院は身分や出自を超え、才能を育む場所です」
視線を巡らせる。
「貴族」
「平民」
「商人子弟」
「騎士志望」
「研究志望」
「様々な若者が学んでいます」
その言葉通りだった。
すれ違う学生たちも。
服装。
雰囲気。
身分。
全部違う。
でも。
共通点がある。
若い。
元気。
声が大きい。
そして。
競争心。
中庭では模擬戦らしきものまで行われていた。
「勝負しろ!」
「負けないわ!」
火球。
歓声。
青春。
悠は少し後退した。
(……戦場……)
学院。
それは。
若年社会の縮図だった。
セレスティアはそんな悠を見ていた。
やはり。
戦闘前より。
こういう場の方が緊張している。
妙な少年だと思う。
教員が書類を確認する。
「ユウ君の所属は上級基礎課程です」
「……」
「年齢相応ですね」
悠は頷くだけだった。
相応。
中身は元引きこもり成人だが。
そこは言えない。
教員が続ける。
「クラスには既に連絡済みです」
嫌な予感。
「本日から参加可能ですよ」
来た。
最悪の単語。
「……参加……?」
「ええ」
笑顔。
「まずは自己紹介からでしょうか」
終わった。
悠は真顔になった。
自己紹介。
あの。
人類難関イベント。
クラス全注目型。
逃走不可。
失敗記憶量産機。
(……無理……)
リアは少し笑いを堪えていた。
「ユウ、頑張って」
「……無理……」
「まだ始まってないよ?」
「……もう……無理……」
レオンが肩を叩く。
「戦え」
「……戦場……?」
「学院は戦場だろ」
否定できなかった。
教員が案内する。
「こちらです」
廊下を進む。
教室棟。
学生たちの声。
笑い。
雑談。
近づくほど。
悠の足が重くなる。
そして。
目的地。
一枚の扉。
教室。
中から賑やかな声が聞こえる。
教員が扉に手を掛けた。
「では入りましょう」
悠は。
扉を見上げた。
心拍数上昇。
呼吸浅い。
共鳴値も少し揺れる。
(……無理……)
教室前。
それは。
新しい戦場の入口だった。




