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アルカディア・レコード ― 世界最強なのに、人と話せません ―  作者: 南蛇井


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第23話 『銀級受付嬢カサンドラ』

 銀髪の女性が階段を降りてきた瞬間。


 ギルドの空気が少し変わった。


 騒がしかった酒場側まで、妙に静かになる。


「……」


 悠は反射的に視線を向ける。


 整った制服。


 無駄のない動き。


 長い銀髪を後ろでまとめた女性だった。


 年齢は二十代後半くらいだろうか。


 美人。


 それは間違いない。


 だが。


 柔らかさより先に感じるものがある。


 ――仕事ができそう。


 鋭い目。


 落ち着いた雰囲気。


 笑っていないわけじゃない。


 でも。


 隙がない。


 周囲から小声が聞こえた。


「カサンドラさんだ」


「銀級受付……」


「また面倒事か?」


 銀級。


 つまり。


 受付にも階級があるらしい。


 女性――カサンドラは騒ぎの中心へ歩いてくる。


 足音まで静かだった。


 悠は嫌な予感しかしなかった。


 カサンドラは依頼書と薬草を確認し。


 それから。


 悠を見た。


「……あなたが新人冒険者、ユウさんですね?」


「……」


 声が綺麗だった。


 落ち着いている。


 そして。


 逃げづらい。


「……はい」


 小さく返事。


 カサンドラは微笑む。


「少しお時間よろしいですか?」


 丁寧だった。


 とても。


 でも。


 悠の脳内翻訳はこうだった。


 ――事情聴取。


(終わった……)


 数分後。


 ギルド二階。


 面談室。


「……」


 悠は椅子に座っていた。


 落ち着かない。


 非常に。


 部屋は静かだった。


 棚。


 書類。


 机。


 完全に役所である。


 対面にはカサンドラ。


 横にはレオン。


「なんでいるの……」


「保護者枠」


「……」


 誰の。


 レオンは楽しそうだった。


 カサンドラは書類を整理する。


「まず安心してください」


「……」


「尋問ではありません」


 先に言われた。


 つまり。


 そう見える自覚があるらしい。


「今回確認したいのは、丘陵地帯の浄化現象についてです」


「……」


 悠は静かに固まる。


 カサンドラは観察していた。


 その目が分かる。


 威圧ではない。


 分析。


 人を見る目だった。


「複数証言があります」


 紙をめくる。


「空が発光した」


「……」


「丘陵全域が清浄化した」


「……」


「薬草の品質が異常上昇」


「……」


 積み上がっていく。


 証拠みたいに。


 悠は視線を下げた。


(……怒られる……?)


 カサンドラは静かに聞く。


「ユウさん」


「……はい」


「何が起きたか、説明できますか?」


 できない。


 管理権限です。


 深層汚染です。


 補正事故です。


 言えるわけがない。


 沈黙。


 部屋が静かになる。


 レオンは横で茶を飲んでいた。


 なぜそんなに余裕なのか。


 カサンドラは急かさない。


 待っている。


 余計に緊張する。


「……その……」


 悠は必死に考える。


 説明。


 誤魔化し。


 自然な回答。


「……ちょっと……」


 止まる。


「……光って……」


 何を言っているのか自分でも分からない。


 レオンが肩を震わせた。


 カサンドラは真顔だった。


「光った」


「……はい……」


「空が?」


「……」


「山も?」


「……」


 追い詰められている気分だった。


 実際は普通の確認なのに。


 悠の中では完全に裁判である。


 カサンドラはペンを置いた。


「ユウさん」


「……」


「私、そんなに怖いです?」


 不意打ちだった。


 悠は顔を上げる。


 銀色の瞳。


 真面目な疑問らしい。


 そして。


 緊張していた悠は。


 反射で答えた。


「……はい」


 沈黙。


 部屋が止まった。


「……」


 カサンドラ。


 数秒停止。


 レオン。


 吹き出した。


「ぶはっ!」


「レオン?」


「ははははっ!」


 机を叩いて笑っている。


 カサンドラは目を瞬かせた。


「……傷つきますね」


「……すみません……」


 悠は即謝罪した。


 違う。


 そういう意味じゃない。


 でも訂正も難しい。


「……その……」


「ええ」


「……仕事……できそうで……」


「……」


「……怖い……」


 また沈黙。


 レオンはまだ笑っていた。


 カサンドラは少しだけ視線を逸らし。


 小さく息を吐いた。


「……初めて言われました」


 怒ってはいなかった。


 むしろ。


 少し困っている。


 それから。


 表情が少し柔らかくなった。


「安心してください」


「……」


「私は人を怒鳴るタイプではありません」


「……ほんとに……?」


「ええ」


「嘘つけ」


 レオンが即言った。


「たまに新人泣かせてるだろ」


「レオン?」


「失礼しました」


 即謝罪。


 強い。


 カサンドラは小さく咳払いした。


「話を戻します」


「……はい」


「浄化現象についてですが」


 視線が真っ直ぐ向く。


「私は能力そのものを問題視していません」


 悠は少し目を瞬かせた。


「……え……?」


「冒険者には特殊技能持ちもいます。珍しくありません」


 ただし。


 カサンドラは続ける。


「問題は使用者です」


「……」


「制御できるか」


「……」


「責任感があるか」


「……」


「他者へ害意があるか」


 その視線は鋭かった。


 でも。


 敵意ではない。


 確認。


 人格を見る目。


 カサンドラは静かに言う。


「あなたは……」


 少し考え。


「危険人物には見えません」


「……」


「むしろ」


 ほんの少し。


 口元が緩んだ。


「不器用な人ですね」


 悠は言葉を失う。


 レオンが横で頷く。


「それな」


「……」


 なぜか認定された。


 カサンドラは書類を閉じる。


「ですので今回の件は警告止まりです」


「……警告……」


「次からは街近郊で山を光らせないでください」


「……はい……」


 やっぱり怒られていた。


 でも。


 思ったほど怖くなかった。


 ……少しだけ。


 その時だった。


 カサンドラが別の書類を取り出す。


 表情が変わる。


 仕事の顔。


「実はもう一件あります」


「……?」


「最近、裏市場で奇妙な遺物が流通しています」


 遺物。


 その単語に。


 悠の胸が小さくざわついた。


 カサンドラは続ける。


「出所不明」


「……」


「解析不能」


「……」


「そして一部報告では――」


 銀の瞳が細くなる。


「深層界関連ではないか、と」


 その瞬間。


 悠の視界に。


 久しぶりのログが浮かんだ。


該当単語検知

深層界関連情報:要注意


 胸の奥が。


 嫌な予感で静かに冷えた。

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